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第二章
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しおりを挟むお昼になってモニタールームにいる全員に弁当が配られたが、たこ焼きと菓子の食いすぎで食欲がない。
当然といえば当然だ。
弁当はどうってことない、食堂から作られた弁当で味も慣れたものだった。
漬物だけをポリポリと齧っていると隣から「だからお菓子食いすぎなんだって」と呆れた声がした。
「まぁ、しょうがない。食べてしまったんだもの」
「今食べないんじゃ夜までもたないぞ」
「腹が減ったらまたなんかつまむさ」
「体に悪いな」
「体に悪いことって健康なときしか出来ないからいいんじゃないかな、ということにしておこう」
「なんだそれ」
さらに北村に呆れられた。
とにかく今は食欲ないし。
静まり返っているモニタールームのドアを勢いよく開け、灰色の袴姿の男が入ってきた。
いきなりなんだと驚いたが、なんてことはない南だった。いつもふわふわにセットされていた髪の毛は、今日はゆるく後ろになで付けらていてかっこいいけどちょっと近寄りがたい感じ。
「お前らちゃんと仕事してる~?」
「いや、お前こそその姿はなんだよ」
「1位狙ってマース。願わくば、お前らの10ポイントって大きいし、俺に入れてくれるとありがたいんだよねー」
マジでやる気満々じゃねーか。
もしかしてこの姿で見回りしてたんだろうか。北村がコスプレで見回りすると言っていたのを思い出した。
まあ、南がこんだけアピールしていれば1位にもなるわな、何もしなくても上位の癖に。
「あ、佐野は残念だったねー。俺はお前に入れてあげたんだけどさ」
「順位が上がったのは南のせいでもあったのか」
「えー喜べよ。俺の貴重な10ポイント」
「いらないわ。来年もいらん」
「そういうなって。じゃ、決勝は俺によろしくね」
「考えておくわ」
俺はミスターコンには当然投票しない。
面倒だし、ミスターという響きにちょっと羨ましいものもある。
南が去って、本を読むことをやめなかった北村に疑問を投げることにした。
「南って1位狙うってことは賞品ねらい?」
「ん? どうかな。だいたいの奴とはデートくらい出来るだろ」
「だよなー。アンコールワットなんて興味なさそうだけど、行きたいのかな」
「行こうと思えばいつでも行けるし、ただ単に1位が欲しいんじゃないのか」
「ああ、単純にね」
なるほど、その可能性もあるのか。デートするなら二ノ瀬でも選ぶのかな、なんて思ったけど。もし、アンコールワットじゃなくてデート券を選ぶのならそれを誰に使うのかちょっと興味ある。だって、北村の言うとおりほとんどの生徒ならそんなものを使わなくてもデートくらい出来るだろうから、南は。
俺だったら、……。俺だったらアンコールワットもデート券も興味ないから去年の外出自由券方がよかったかな。
そういや二ノ瀬がミスコン2位だったはず。ってことは1位も狙える。
俺が二ノ瀬に投票したら怒られるかな。いや、ばれなければ大丈夫だろう。いやいやいやいや、俺には朝日山という投票すべき人物がいたではないか。
そろそろ体育館では決勝に残った生徒達が思い思いの服装に着替えてアピールタイムが始まる。
廊下が今まで以上に騒がしくなっているから、生徒達が決勝進出者のアピールを見に体育館に移動しているのだろう。
俺も行こうかどうか迷ったが、見回り組みはきっとみんなコンテストに出るやつらばかりだし、待機しておいたほうがいいなと思い直した。
何かあってもすぐ対応できるようにしておかないと。楽しみばかりを追ってられないのがこの仕事のつらいところでもある。
二ノ瀬がどんな女装をするのか見てみたい。180オーバーの女装。しかもあんだけの美人ときたら迫力満点なんだろうな。
頬杖をついて妄想をしていると「佐野さん」と後ろから呼ばれ、現実にもどされはっとした。
「佐野さんはコンテスト見に行かないんですか。そろそろ始まりますけど」
吉岡が不思議そうに聞いてくるから、少しおかしくなった。俺はどんだけミーハーなんだよ。
「行かないよ。見回り組みがいなくなるし、待機者は多いほうがいいからな」
「ああ、そうですね」
「吉岡は行きたかったのか?」
「いえ、まったく」
モニターに向き直った吉岡を見て、少しほっとした。
大丈夫。普通だった。
やれば出来る俺だもの。大丈夫。
しばらくすると隣の体育館から地鳴りのような音が聞こえ驚いた。
どうやらコンテストが始まったらしいが、野郎ども、興奮しすぎだろう。
楽しみも何もない生徒も多いから仕方のないことかもしれないけれども。
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