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第二章
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南の放送があってからというものの、何事もなく静かだ。
横にいる北村は相変わらず本を読んでいるし、後ろの二人は見えないから何をしているのか分からない。
振り向くことだって出来ない。
何かしていないと落ち着かない俺はただただ菓子を食い続けていた。
この部屋に戻ってきたときの吉岡はいつもと変わらない表情で。少し髪の毛に乱れがあったが本当に何事もなかったかのようだった。
いつもと変わらなすぎて誰も何も吉岡には問いかけなかった。問いかけられなかったのだ。
お昼までまだ1時間近くある。たこ焼きと菓子のせいでもう腹いっぱいになってきていたが手を止めることが出来なかった。
トイレにも行きたいけど吉岡がついてくると思うとなんだか嫌で、トイレにも立てない。
酢昆布を口の中でふやけさせているとまた松浦と二ノ瀬がやってきた。
「コンテストの上位者決まったから、佐野、これ頼む」
「はいよー」
「あと10分もしたら南が結果を放送するから、そのあとにでも適当に体育館に貼っておいてくれ」
「了解」
立ち上がって松浦から黒いクリアファイルと丸められた大洋紙を受け取った。
黒いクリアファイルの中には結果が書かれている用紙があるはずだ。朝日山が入っているかどうかちょっとドキドキする。そして一般の生徒より早く結果を知れることになんだか優越感。
立ったまま中を確認すると、まだ松浦と南しか結果が分からないのか二ノ瀬も近づいてきた。
1枚目にはミスターコンの上位10名が。
上位5名は赤字で書かれていて決勝進出となる。
見知った名前が多く、去年とそう代わり映えのないメンバーに詰まらなさも覚えた。前生徒会メンバーやまたは松浦や南、そして風紀やサッカー部部長など当たり障りのないメンバーばかり。
でもちょっと驚いたのは南が1位になっていたことだった。てっきり松浦かと思っていたのに。
「副会長が1位なんですね」
「俺もびっくり。松浦が1位だとばかり思っていたわ」
「俺もです」
俺たちの会話を横で聞いていた松浦は「南は張り切っていたしな、いいんじゃないか」と興味がなさそうだ。
食い入るように見ていたら隣にふわっといい匂いが漂う。
吉岡の匂いだ。
途端に体に余計な緊張が走った。
気づかれたくなくて咳をして誤魔化したが、今、吉岡が近くにいるととても落ち着かない。
隣に気を取られていて何も考えずにもう一枚をめくった。
そうだ、ミスコンだ。
こちらも上位10人の名前があり、去年も10人には入っていたが今年も自分の名前を見つけるとは思わなくて“佐野 市也”が眼に入ったとき体がギクっとした。
「あー佐野さんおしい! 6位だったんですね~」
「いや……いやいやいやいや、去年より順位上がっているから恐ろしいんだけど」
危ない、本当に危なかった。
ドキドキが治まらなくて6位と書かれている文字を凝視した。これは5位ではない。6位。ギリギリじゃないか。
人事のように眺めていた二ノ瀬だが、“二ノ瀬 朔”と堂々2位の欄に名前が輝いていた。
「げ、2位!」
「今気がついたのかよ。自分の名前なのに」
「入っていると思わないですよ、俺こんなにでかいのに」
「まぁ、確かに」
苦笑しながら二ノ瀬を見上げる。180はあるからでかいことはでかいが、やっぱり顔の作りが綺麗なんだよな。本当美人という言葉がぴったりなくらい。
全員の名前を確認していると朝日山も5位に入っていてホッとした。
決勝に残っただけでも俺の投票は無駄じゃなかった。
「二ノ瀬、もういいか。見回りいくぞ」
「あ、すいません。行きます。佐野さん、見せてもらってありがとうございました」
「はいよ、いってらっしゃい」
二人に手を振り、見送った。コンテストの結果を見ているものは俺と吉岡の二人になったが、すぐに吉岡に結果を墨と筆で大洋紙にでかでかと書いてくれるよう頼んだ。
準備をするため俺から離れた吉岡に、詰まっていた息を静かに吐いた。
思いっきり意識しているじゃないか、俺。普通にしようと思うけど出来ずにいる。
時間がたてばいいだろうか。
なんだか面倒くさい。
南の放送で結果が放送され、吉岡に書いてもらった結果用紙を体育館に貼りにいく。当然吉岡も付いてくるわけで。
でも体育館はすぐ隣だし、生徒達で騒がしいから別に気まずさが思ったよりもなく感じた。
普通だ、普通。何事もなかった。普通に接しなければ。
とにかく業務優先。
「この辺に貼っておこうかな。テープで貼るから押さえてて」
「この辺ですか」
「うん」
入り口付近の壁に吉岡は長い両腕を使い、大洋紙を広げた。テープを適当な長さに切って上の方から貼ろうとするが、背伸びをしても若干届かない。
そんな俺にすぐに気がついた吉岡は5センチほど紙を下げてくれた。
4隅を貼り付け終わると、俺たちに気がついた生徒達がわらわらと回りに集まってきた。
「あ、佐野さん」
「佐野ちゃんだ」
「俺佐野さんに入れたのに~」
次々と名前を呼ばれて、しかも俺に投票したやつもいたらしくギョっとしていると眼の目がすっと暗くなった。ギャラリーから俺を隠すように前に吉岡が移動してきた。
「戻りましょうか」
「ああ、うん」
吉岡に背中を押されて歩けと促された。
いや、俺年上なんだけど……。
横にいる北村は相変わらず本を読んでいるし、後ろの二人は見えないから何をしているのか分からない。
振り向くことだって出来ない。
何かしていないと落ち着かない俺はただただ菓子を食い続けていた。
この部屋に戻ってきたときの吉岡はいつもと変わらない表情で。少し髪の毛に乱れがあったが本当に何事もなかったかのようだった。
いつもと変わらなすぎて誰も何も吉岡には問いかけなかった。問いかけられなかったのだ。
お昼までまだ1時間近くある。たこ焼きと菓子のせいでもう腹いっぱいになってきていたが手を止めることが出来なかった。
トイレにも行きたいけど吉岡がついてくると思うとなんだか嫌で、トイレにも立てない。
酢昆布を口の中でふやけさせているとまた松浦と二ノ瀬がやってきた。
「コンテストの上位者決まったから、佐野、これ頼む」
「はいよー」
「あと10分もしたら南が結果を放送するから、そのあとにでも適当に体育館に貼っておいてくれ」
「了解」
立ち上がって松浦から黒いクリアファイルと丸められた大洋紙を受け取った。
黒いクリアファイルの中には結果が書かれている用紙があるはずだ。朝日山が入っているかどうかちょっとドキドキする。そして一般の生徒より早く結果を知れることになんだか優越感。
立ったまま中を確認すると、まだ松浦と南しか結果が分からないのか二ノ瀬も近づいてきた。
1枚目にはミスターコンの上位10名が。
上位5名は赤字で書かれていて決勝進出となる。
見知った名前が多く、去年とそう代わり映えのないメンバーに詰まらなさも覚えた。前生徒会メンバーやまたは松浦や南、そして風紀やサッカー部部長など当たり障りのないメンバーばかり。
でもちょっと驚いたのは南が1位になっていたことだった。てっきり松浦かと思っていたのに。
「副会長が1位なんですね」
「俺もびっくり。松浦が1位だとばかり思っていたわ」
「俺もです」
俺たちの会話を横で聞いていた松浦は「南は張り切っていたしな、いいんじゃないか」と興味がなさそうだ。
食い入るように見ていたら隣にふわっといい匂いが漂う。
吉岡の匂いだ。
途端に体に余計な緊張が走った。
気づかれたくなくて咳をして誤魔化したが、今、吉岡が近くにいるととても落ち着かない。
隣に気を取られていて何も考えずにもう一枚をめくった。
そうだ、ミスコンだ。
こちらも上位10人の名前があり、去年も10人には入っていたが今年も自分の名前を見つけるとは思わなくて“佐野 市也”が眼に入ったとき体がギクっとした。
「あー佐野さんおしい! 6位だったんですね~」
「いや……いやいやいやいや、去年より順位上がっているから恐ろしいんだけど」
危ない、本当に危なかった。
ドキドキが治まらなくて6位と書かれている文字を凝視した。これは5位ではない。6位。ギリギリじゃないか。
人事のように眺めていた二ノ瀬だが、“二ノ瀬 朔”と堂々2位の欄に名前が輝いていた。
「げ、2位!」
「今気がついたのかよ。自分の名前なのに」
「入っていると思わないですよ、俺こんなにでかいのに」
「まぁ、確かに」
苦笑しながら二ノ瀬を見上げる。180はあるからでかいことはでかいが、やっぱり顔の作りが綺麗なんだよな。本当美人という言葉がぴったりなくらい。
全員の名前を確認していると朝日山も5位に入っていてホッとした。
決勝に残っただけでも俺の投票は無駄じゃなかった。
「二ノ瀬、もういいか。見回りいくぞ」
「あ、すいません。行きます。佐野さん、見せてもらってありがとうございました」
「はいよ、いってらっしゃい」
二人に手を振り、見送った。コンテストの結果を見ているものは俺と吉岡の二人になったが、すぐに吉岡に結果を墨と筆で大洋紙にでかでかと書いてくれるよう頼んだ。
準備をするため俺から離れた吉岡に、詰まっていた息を静かに吐いた。
思いっきり意識しているじゃないか、俺。普通にしようと思うけど出来ずにいる。
時間がたてばいいだろうか。
なんだか面倒くさい。
南の放送で結果が放送され、吉岡に書いてもらった結果用紙を体育館に貼りにいく。当然吉岡も付いてくるわけで。
でも体育館はすぐ隣だし、生徒達で騒がしいから別に気まずさが思ったよりもなく感じた。
普通だ、普通。何事もなかった。普通に接しなければ。
とにかく業務優先。
「この辺に貼っておこうかな。テープで貼るから押さえてて」
「この辺ですか」
「うん」
入り口付近の壁に吉岡は長い両腕を使い、大洋紙を広げた。テープを適当な長さに切って上の方から貼ろうとするが、背伸びをしても若干届かない。
そんな俺にすぐに気がついた吉岡は5センチほど紙を下げてくれた。
4隅を貼り付け終わると、俺たちに気がついた生徒達がわらわらと回りに集まってきた。
「あ、佐野さん」
「佐野ちゃんだ」
「俺佐野さんに入れたのに~」
次々と名前を呼ばれて、しかも俺に投票したやつもいたらしくギョっとしていると眼の目がすっと暗くなった。ギャラリーから俺を隠すように前に吉岡が移動してきた。
「戻りましょうか」
「ああ、うん」
吉岡に背中を押されて歩けと促された。
いや、俺年上なんだけど……。
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