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第二章
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「……これ、場所どこですか?」
力の入っていない、つぶやきのような声がして、隣を見た。吉岡は目を見開いてモニターを見つめていた。
俺はどこだか分からなかったが、実行委員の1人が「2棟の技術室です」と返事をした。
「佐野さん……ちょっと行って来るんで待っていてもらえますか……?」
「ああ、いいけど」
俺が返事を言い切る前に吉岡は部屋から飛び出して行った。
食い入るように見ていた画面。まだ風紀も到着していなく、揉みあっているこの中に知り合いがいたのだろうか。
あんな吉岡が珍しくて、俺はその画面に釘付けになってしまっていた。
押さえつけている生徒の背中でよく見えないが、白いものがなくなって肌色のものがバタついていた。脱がされたのだろう。しかし発見が早かったため、大丈夫なはずだ。予想の通り、画面に動きがあった。画面の右横から誰かが飛び蹴りしてきて押さえつけていた生徒をふっ飛ばしていた。そして次々と白い腕章のつけた生徒で画面は埋められるのを見てホッと息を吐いた。
「間に合ったよな」
「だな。一安心だが、気は抜けないな。まだ学園祭は始まったばかりだ。これからまた同じことが起こるかもしれない」
「んー。ないといいなー」
「祈るだけだな」
北村は席に戻り、PCに時間と今の出来事を記入していた。俺はまだその画面から目を離せないでいる。
なぜなら画面の場所には吉岡が向かったのだから。
何人もの生徒が入り乱れているせいで状況は分かりにくいが、取り押さえられた生徒は3人いた。古典的に縄で縛られているところだった。
そして半裸の生徒には風紀の誰かがブレザーを掛けてくれていて。
風紀が聞き取りか何かをしているときだった。それまでうなだれているように見えた襲われていただろう生徒が突然顔を上げ、羽織っていたブレザーをお構い無しに駆け出したのだ。
何が起きたのだと思ったが、画面の左端ではその生徒が誰かに抱きついていた。勢いよくてそのまま画面からアウトしてしまい、続きが分からなくなってしまった。
でも風紀が焦るわけでもないからまだ近くにいることだろう。
抱きつかれた生徒が誰だか見えなかった。映像からは分からない。
でも分かる。
あれはきっと吉岡だ。
すぅっと体温が下がる。指先が冷たい。
何故分かるんだろう。
違うかもしれない。
でも違わない。
妙な確信があった。
この胸のざわつきはやっぱりどこかで感じたものだった。
モニターを管理している生徒の肩に手を置くとその肩がビクッと跳ねた。お構いないしに「この映像って左右にずらしたり出来ないの?」と質問した。
返ってきたのは期待はずれの「出来ません」という否定の言葉。
まぁ、事態は収束したのだ。俺が気にするところではない。そう言い聞かせ、小さく息を吐いて席に戻った。
気を紛らわすために籠に入っていた駄菓子に手を伸ばす。目に付いたのは10円のスナック菓子のチーズ味。それを食べながら空いた手でまた目に付いた菓子を掴んでいく。モニターには視線を戻すことなく菓子に熱中していた。
とりあえず、何も考えないでおこう。そう思って。
次から次へと菓子を食べまくる俺を不思議に思ったのか、北村がペンを置いて俺を窺うように首を傾げた。
「どうしたんだ、そんなに暴食して」
「いんや、別に。なんか懐かしさで手を出したらはまったみたい」
「あー。分かるかも。食べだすと止まらなくなるときあるな」
そうでもなかったが、適当に相槌を打つ。
一心不乱に食べていると松浦と二ノ瀬がモニタールームにやってきた。この騒動のことで人の出入りの少ない場所の見回りも強化するらしい。
するとまた南の気の抜けた声で『へいへ~い』と放送が流れた。部屋にいた全員が会話をやめた。
松浦はいつも自分が放送せずに南に託す。
『てめーらよく聞け。今日一日おかしな行動起こしてみろ。存在自体抹消される覚悟でいろよ』
チンピラだ。
内容がチンピラの何ものでもない。下っ端のやくざかなんかのセリフだ。
しかし存在自体抹消とは大げさに聞こえなくもないから困る。生徒会や風紀の親や家柄、人脈などすべてを駆使したら人1人消すこともきっと簡単なのではないかと思えるから怖い。
妙に納得しているとスピーカーに視線を向けていた松浦がふっと笑みを零していた。
南のこういうところがツボなんだろうか。南は松浦だろうがなんだろうが話し方も話す内容も遠慮がないから、そんなところもいいのかもしれない。松浦はほぼ全校生徒にそんな態度を取られることがないから。
どうやら放送はあの一言で終わったらしく、プツリと小さく音がなって静かになってしまった。
松浦と二ノ瀬はまた見回りに行くと言って、モニタールームにあったお茶をそれぞれが手にして出て行った。
吉岡がモニタールームに戻ってきたのは飛び出していってから30分が経ったころだった。
力の入っていない、つぶやきのような声がして、隣を見た。吉岡は目を見開いてモニターを見つめていた。
俺はどこだか分からなかったが、実行委員の1人が「2棟の技術室です」と返事をした。
「佐野さん……ちょっと行って来るんで待っていてもらえますか……?」
「ああ、いいけど」
俺が返事を言い切る前に吉岡は部屋から飛び出して行った。
食い入るように見ていた画面。まだ風紀も到着していなく、揉みあっているこの中に知り合いがいたのだろうか。
あんな吉岡が珍しくて、俺はその画面に釘付けになってしまっていた。
押さえつけている生徒の背中でよく見えないが、白いものがなくなって肌色のものがバタついていた。脱がされたのだろう。しかし発見が早かったため、大丈夫なはずだ。予想の通り、画面に動きがあった。画面の右横から誰かが飛び蹴りしてきて押さえつけていた生徒をふっ飛ばしていた。そして次々と白い腕章のつけた生徒で画面は埋められるのを見てホッと息を吐いた。
「間に合ったよな」
「だな。一安心だが、気は抜けないな。まだ学園祭は始まったばかりだ。これからまた同じことが起こるかもしれない」
「んー。ないといいなー」
「祈るだけだな」
北村は席に戻り、PCに時間と今の出来事を記入していた。俺はまだその画面から目を離せないでいる。
なぜなら画面の場所には吉岡が向かったのだから。
何人もの生徒が入り乱れているせいで状況は分かりにくいが、取り押さえられた生徒は3人いた。古典的に縄で縛られているところだった。
そして半裸の生徒には風紀の誰かがブレザーを掛けてくれていて。
風紀が聞き取りか何かをしているときだった。それまでうなだれているように見えた襲われていただろう生徒が突然顔を上げ、羽織っていたブレザーをお構い無しに駆け出したのだ。
何が起きたのだと思ったが、画面の左端ではその生徒が誰かに抱きついていた。勢いよくてそのまま画面からアウトしてしまい、続きが分からなくなってしまった。
でも風紀が焦るわけでもないからまだ近くにいることだろう。
抱きつかれた生徒が誰だか見えなかった。映像からは分からない。
でも分かる。
あれはきっと吉岡だ。
すぅっと体温が下がる。指先が冷たい。
何故分かるんだろう。
違うかもしれない。
でも違わない。
妙な確信があった。
この胸のざわつきはやっぱりどこかで感じたものだった。
モニターを管理している生徒の肩に手を置くとその肩がビクッと跳ねた。お構いないしに「この映像って左右にずらしたり出来ないの?」と質問した。
返ってきたのは期待はずれの「出来ません」という否定の言葉。
まぁ、事態は収束したのだ。俺が気にするところではない。そう言い聞かせ、小さく息を吐いて席に戻った。
気を紛らわすために籠に入っていた駄菓子に手を伸ばす。目に付いたのは10円のスナック菓子のチーズ味。それを食べながら空いた手でまた目に付いた菓子を掴んでいく。モニターには視線を戻すことなく菓子に熱中していた。
とりあえず、何も考えないでおこう。そう思って。
次から次へと菓子を食べまくる俺を不思議に思ったのか、北村がペンを置いて俺を窺うように首を傾げた。
「どうしたんだ、そんなに暴食して」
「いんや、別に。なんか懐かしさで手を出したらはまったみたい」
「あー。分かるかも。食べだすと止まらなくなるときあるな」
そうでもなかったが、適当に相槌を打つ。
一心不乱に食べていると松浦と二ノ瀬がモニタールームにやってきた。この騒動のことで人の出入りの少ない場所の見回りも強化するらしい。
するとまた南の気の抜けた声で『へいへ~い』と放送が流れた。部屋にいた全員が会話をやめた。
松浦はいつも自分が放送せずに南に託す。
『てめーらよく聞け。今日一日おかしな行動起こしてみろ。存在自体抹消される覚悟でいろよ』
チンピラだ。
内容がチンピラの何ものでもない。下っ端のやくざかなんかのセリフだ。
しかし存在自体抹消とは大げさに聞こえなくもないから困る。生徒会や風紀の親や家柄、人脈などすべてを駆使したら人1人消すこともきっと簡単なのではないかと思えるから怖い。
妙に納得しているとスピーカーに視線を向けていた松浦がふっと笑みを零していた。
南のこういうところがツボなんだろうか。南は松浦だろうがなんだろうが話し方も話す内容も遠慮がないから、そんなところもいいのかもしれない。松浦はほぼ全校生徒にそんな態度を取られることがないから。
どうやら放送はあの一言で終わったらしく、プツリと小さく音がなって静かになってしまった。
松浦と二ノ瀬はまた見回りに行くと言って、モニタールームにあったお茶をそれぞれが手にして出て行った。
吉岡がモニタールームに戻ってきたのは飛び出していってから30分が経ったころだった。
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