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第二章
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しおりを挟む放課後、生徒会室に行くと松浦以外全員いた。
「マイラバー市也く~ん」
おどけたように南がいうからイラっとした。
睨みながら席に座ると、なぜか田口がハラハラとした表情であちこちを見渡していた。
「名前で呼ぶなよ気持ち悪い。お前のそういうところが変な噂を立てるんだろーが」
「ふふふ、せっかく顔面スピーカー達に否定しておいたのに、そんなこというのー?」
「元はといえば南のせいだっつーの」
南と言い合いをしている間も、田口はキョロキョロとしていて。
どうやら俺と二ノ瀬を見ているようだった。
なんだ、俺と二ノ瀬で南を取り合う三角関係とでも思っているのか。お前も噂に疎そうだし、ようやく話が回ってきた側の人間か。
でも面倒だし、それほど影響力もないだろうから田口は放置でいい。
ひどいことを言っているとは思うけど、自分が一番かわいいから仕方ない。
「朔チャン、佐野との噂は嘘だからね」
「じゃないと佐野さんが可哀そすぎます」
「えー俺は可哀想じゃないのー? 佐野みたいなバカと噂立ってー」
「微塵も」
相変わらずの会話に笑ってしまう。
ムカムカしていたものもどこかに行ってしまうくらい二ノ瀬がステキだ。もっと言ってやれ。
「佐野さん、これ出来たんですけど」
「ん? ああ、ありがと」
吉岡に頼んでいた次の会議の資料の束を受け取る。簡単にチェックして、また吉岡に渡した。
「これ、40部作っておいて。棚の二段目にクリアファイルあるから一部ずつ入れていって」
「はい」
吉岡はいたって普通だ。このくらいだと楽だ。田口みたいに素直すぎるのもちょっと面倒なんだなと思った。
あれから会計組みは今月の仮払金と領収書の整理で土屋のところへ。南は用事があるからと帰った。二ノ瀬は体育祭実行委員のところへ反省会のまとめたものを。青木は次回会議の資料を学園祭実行委員のところへ。
吉岡とこの部屋で二人きりになるのは初めてだ。
もともと会計や書記はあまり机から動かないような仕事が多いから、2人きりにならなかったのも遅かったくらいかもしれない。
時々首を回しながらもくもくと仕事をした。
こうもPCばかり弄っていると肩が凝ってしまう。ましてや今は部活をやめてしまって体を動かすことが少なくなってしまっていたから、余計に凝ってしまって。
首どころか肩をぐるぐると回していると、吉岡がせわしなくキーボードを叩きながら「肩、揉みましょうか」と言ってきた。
少し驚いて吉岡に視線をやるが、横顔はいつもと変わらない表情であるし、手を止める気も本当はないんじゃないかってくらい真剣に仕事をしている。
「……いや、大丈夫」
「そうですか」
この冷たいものを張り付かせている吉岡が読めなくて、ついジーッと見つめてしまって。
南のときもそうだけど、もしかしたらじっとみつめるのは無意識に癖になっているのかもしれなかった。
あまりの視線に耐えられなかったのか、「はぁ」とひとつ、息を漏らした吉岡はチラリと横目で俺を見た。
「なんでしょうか」
「んー。いや、別になんもないけど」
「……そうですか」
なんだかこの静かな男の表情を崩したくなった。
だから吉岡がまたPC画面に向き直ってから、南の話を出してみた。
「吉岡さ、体育祭の後、街に行かなかった? 夜0時に駅前なんだけど」
「行きませんね」
即答だった。
動揺も何もなく思った以上の即答に、やっぱり違うのかなと思い始める。まぁはじめから5分5分だったし。
「そっか。スキンヘッドのガラの悪い奴らがいっぱいいたみたいだしまさか吉岡がそこにはいないか」
一瞬、吉岡の手が止まったが、すぐにそれは再開された。
その一瞬に違和感を覚え、俺は何か忘れていないか、頭がもやっとした。
スキンヘッドと聞いてガラが悪い、そう感じたが、スキンヘッドは俺もどこかで見たはずだ。
なんだか胸がザワついたんだ。
アレは、体育祭だ。
「吉岡……体育祭のときにスキンヘッドのやつと話、してた……?」
頭に浮かんだ疑問がそのまま唇から漏れた。
すると吉岡はゆっくりと、本当にゆっくりと俺に顔を向けた。まるでスローモーションのようにゆっくりなそのしぐさ、その視線に俺は時が止まったように釘付けだった。
「気になりますか?」
「え、いや、うん。ん? うん。気になっているのかな?」
反対に問われて曖昧に返事をしてしまう。多分気になっているから聞いているんだし。まぁ、その涼しい顔を崩したかったのもあるけど。
強い眼差しで見つめられ、思わず逸らしてしまった。それまでガン見していた身としては情けない話であるが、瞬きもしない真剣な吉岡の瞳に圧倒されてしまって眼を合わせていられなかった。
「俺のこと、見ていたんですか?」
「あー、うん。……いや、もういいや、ごめんな」
なんだかバツが悪くて下を向いたまま首を横に振った。
自分の机に向き直り、仕事を再開した。そんな俺を吉岡は横からジッと見つめている。さっきの俺がやったことを、そのまま吉岡がしているようだった。
落ち着かない、なんだかそわそわしてしまう。それでも精一杯平常心を保ち、なんでもない風を貫いて吉岡が見つめることを止めるのを待った。
崩されたのは吉岡ではなく俺だった。
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