生徒会書記長さん

梅鉢

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第一章

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side 佐野市也



気持ちよく眠っていたのに、南に乱暴に起こされて俺はすこぶる機嫌が悪かった。
テーブルに打ち付けたおでこをさすりながらニコニコとい笑顔の南の椅子を思い切り蹴った。

「うわー佐野ってちょう暴力的」
「お前に言われたくない」
「寝すぎなんだよ、お前」
「まだちょっとしか寝てねーよ」
「もう14時前なんだけど頭大丈夫ー」
「うそっ!」

14時って言葉だけで覚醒できたわ。

本部のテントに下げられた時計を確認すると13時46分。
マジだ。俺はどれほど寝ていたんだ。

でも過ぎたことは仕方ない。俺を起こさなかったということはどうせ人が足りていたんだろう。のん気に腕を伸ばして遠慮なくあくびをした。

次に長距離走があるらしく、アナウンスが流れた。
長距離走が終わり、最後にリレーだ。
俺も負ける気はないからその場で肩を回したり、上半身の筋肉を伸ばしたりと少しずつ準備を始める。

「そういえば、みんなは競技でないわけ?」

素朴な疑問。
確かに生徒会、風紀、実行委員、救護班は免除を受けているが出なくてもいいわけでもない。出れるようだったら参加をしなければならないから。
松浦や南、風紀委員長などのトップクラスは全体把握のために出ないことにはなっているが。

だから1年連中が誰一人として競技にでないことを不思議に思った。

「俺、さっき出ましたよ。佐野さんが眠っているときに」
「俺も」
「……そか」

なんだかバツが悪くてそれ以上は聞けなかった。田口と二ノ瀬は出たようだったが、吉岡と青木は出ないのだろう。出ているところもあまり想像がつかない。
やっぱり田口と二ノ瀬は真面目なんだな~。二ノ瀬は外見こそ派手だが、本当にいい子だ。

この競技が終わった後、俺の出番かーと思うと、その前にトイレに行きたくなった。緊張するたまでもないが行っておけば安心だ。

「トイレ行ってくる」

俺が席を立つと同時に隣に座る吉岡も立ち上がった。
当たり前のようなその行動に思わずジト眼で睨みつけてしまう。

「トイレくらい1人で行けるけど」
「俺は途中まで付き添うだけなんで、トイレには1人で行ってください」
「だから、途中までも大丈夫だって」
「午前のときも言いましたよね、いい加減自覚してください」

平均身長よりも身長が高い俺の、さらに上から見下ろされて少し怯んでしまう。

「あの、俺もトイレ行きたいんで佐野さんと行きます」

二ノ瀬がこの空気を割るように声を掛けてくれたので、それに飛びついた。

「よし、二ノ瀬と行く。だから吉岡はここにいろ」

有無を言わさないようすぐに二ノ瀬のそばに駆け寄り、その長い腕を取った。
吉岡は表情を変えずに俺たちを一瞥した後、また椅子に座った。

納得はしていないけれども、きっと承知はしたのだろう。それにホッとして小さく息を吐いた。
よく分からないけど、今日はもう吉岡と一緒にいたくなかった。吉岡といると俺は弱いものだと思わされてしまっていて苦しくなる。

二人歩き出し、二ノ瀬を掴んでいた腕を離した。二ノ瀬や田口には何にも気を使わなくていいから本当に楽だ。この楽さの少しでも吉岡も持ち合わせてくれていたらいいのにと思う。

「あれでも、佐野さんのことを思ってのことなんですよ、吉岡。佐野さんが心配だから」
「でもさ、二ノ瀬だったらどうだ? 別に女でもなんでもないし、それなりの力もある、逃げ足も速い。心配されているよりもバカにされているのかと思ってしまうよ」
「んーそうかもしれないですけど。吉岡なりに佐野さんが大事なのかな、って」
「大事? ……そんな風に思ったことねーなー」
「不器用なのかもしれません。どうでもいい奴のそばになんていないでしょう、普通」

そうは言っても大事にしているなら喧嘩を吹っかけてきたりしないだろ。俺を挑発ばっかりしてたぞあいつ。

「吉岡だってあんな真面目な外見して自分を強いみたいに言うけど、どれほどのものだっていうんだよ。俺を守るとかいうけどさ」
「あれ、佐野さん見てないですか? 吉岡の手」
「手? 手は見たことあるよ。きれいな字を書くし」
「殴りだこあったでしょう?」
「殴りだこ?」
「拳だこですよ。ボクシングとか空手とか。あと喧嘩ばっかりしているやつらなんか出来るんですけど」

殴りだこ、拳だこ、どちらもピンと来ないが、言葉通り殴って出来るたこなんだろう。吉岡はなんて恐ろしいものをもっているんだ。そのくせ俺を挑発していたとか恐ろしすぎるわ。

「今度確認してみてください。両手にありますから」
「両手に……」
「多分だけど、吉岡のタコは喧嘩でできたかな、と勝手に思っています。俺は武道に格闘技と色々手を出しているんですが、吉岡の名前を聞いたことがないので」
「二ノ瀬は格闘技かよ、てか、吉岡は喧嘩とか……」

あの切れていた唇はやっぱり喧嘩で出来たものなのかと納得、そしてどこかしっくりとする。

しかし、二ノ瀬みたいな美人と歩いていても誰一人絡んでこない。というか、なんだか避けられているのかとも思えるほど、前から来た人間は大きく進路を変えて俺たちから遠ざかっていく。

どうも不思議で二ノ瀬を見上げれば、端正な横顔があって少し見とれてしまう。

「どうしたんですか?」
「いや、誰も二ノ瀬に絡んでこないんだなーと思って」
「ああ、だいたい二度と絡めないよう倒したので大丈夫かと」

恐ろしい。
今年の1年はホントに恐ろしい。

「もしかして、金髪にしたのって、」
「ふふふ、そうです。目立つでしょ、長身の金髪って。遠くからでも俺だって分からせるためです。近寄ってくるなよ、と」

真面目で素直でかわいいやつと思っていた後輩が、実は恐ろしいやつだったなんて。
でもまぁ俺には優しいし、危害を加えるわけではないからいいのか。
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