生徒会書記長さん

梅鉢

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第一章

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2塁ヒットだったミルクバーを食べ終わると、今度はその辺で買える中では高級な部類のカップアイスもくれた。
南、ありがとうと心からの笑顔を向けて感謝した。

「普段からそんな笑顔をしてりゃーいいのに」

そう言って首を傾げて柔らかく笑う南に、そりゃこっちのセリフだと返してやりたい。いや、違うな。その笑顔で変なことを言うなと言いたい。笑顔が勿体なさ過ぎる。
が、俺は目の前の高級アイスに夢中のため、言葉にはしなかった。
冷たくて濃厚なバニラが俺を喜ばせた。

結局南はそこにいた全員にアイスを配ったが、二ノ瀬と吉岡は辞退をしていた。二ノ瀬は分かるけど、吉岡までとは。おいしいのに。



午前の競技が終わるころになってようやく3人が帰ってきた。
3人とも疲れた様子だったが、無傷だった。ただ田口だけが雨に打たれたのかと思わせるほど汗でびしょ濡れだった。
喧嘩に柔道は使えないからと、プロレス技を使って治めていたらしい。でもその活躍のおかげで北村と青木はほとんど手を出さず、田口に倒されていった生徒の写真撮影と名前をメモするだけですんだらしい。
やっぱり脳筋類・田口。こいつは重宝するわ。

もともと北村の席だった俺の隣にはずっと吉岡がいるため北村は吉岡が座っていた席にいる。
吉岡がトイレに行くときも「1人で行動しないでください」と念を押され、監視はまだ続いていた。

昼食は学園から弁当が全員に配られる。そのままグラウンドで食べてもいいし、教室に帰ってもいい。それぞれ生徒達が思い思いの場所で食べてOKとなっていた。
生徒会役員と風紀だけはそれぞれの持ち場で待機しなければならないため、全員が本部席で食べることになっていた。しかし南は約束しているからと言っていそいそと出かけていった。いやらしいやつだ。

なんてことはない、普通の幕の内弁当をもそもそ食べる。
誰一人しゃべる奴はいない。北村なら気楽に話せるが、今や俺の後ろに座っているし。
このまま昼の休憩にも入るから、弁当を食べ終わった生徒達が本部の前を通ってはチラチラとこちらを盗み見している。
ほとんどが1年で松浦目当てのようだった。無駄にいい男だもんな、松浦。

そんな中、本当に時々、ほんとーに時々だが俺と眼が会う生徒もいた。やけに熊みたいな奴やゴリラみないな奴だったからすぐに視線をそらしてしまった。
俺じゃない、俺じゃないはず。

なんだか食欲も失せてしまい、半分まで食べて弁当の蓋を閉じた。

「佐野さんて少食ですね」

後ろを振り向けば、斜め後ろにいた二ノ瀬が俺を伺うように首をかしげていた。

「それなりに筋肉ついているから、1人前くらいは食べるのかと思っていましたけど」
「いや、なんか今日は食欲なくて。いつもは肉増し増しで注文してるんだけど」
「大丈夫ですか? 暑さにやられたとか」
「いや、炎天下の中にいるわけじゃないし、大丈夫。本当にたいしたことないから」
「体調悪かったら言ってください」

1年に心配されて苦笑する。体調が悪かったら遠慮なく皆に告げて、休むわ。俺ってそんなに頼りなかったり、自分の意見がなかったり見えるんだろうか。
二ノ瀬は気を使っているだけでも、なんだか自分が情けなく感じた。

しかし、二ノ瀬ってば長身美人だわ、本当。彼女がいてもこの学園の野郎どもなら群がりそうな外見をしている。
でもこれだけの外見を持つなら、中等部のときにも相当騒がれたはずだが、俺は知らなかった。あの南ですら個人情報の用紙を見て知ったようだったし。南と北村は幼稚舎からだが、俺と松浦だって初等部からこの学園にいるからそれなりの情報は分かっているつもりだ。

「二ノ瀬って、いつからこの学園にいるんだ?」
「中等部3年からです。叔父の家に引き取られて、そのときに。1年半、まではいかないですけど」
「あーどうりで分からないわけだ。お前みたいな美人はこの学校きついだろ」
「確かに初めは大変でしたけど、来たものすべてを倒していったらそのうち来なくなったので」

こんな華奢に見えて喧嘩強いのか……。今年の1年はどうなっているんだ。喧嘩が好きなのか。物騒な世代で育ってきたのか。俺らの代だとそうそう喧嘩なんて見たことねーぞ。

吉岡だって唇切って痣つくるわ、俺に喧嘩吹っかけようとするわ。

眼を閉じてうんうんと1人頷いていると、グラウンドにさわやかな風が吹いて気持ちよくなった。
ふわふわしてきて、どうやら眠くなってしまっているようだ。閉じた瞼が上がってこない。
風に吹かれながら体を揺らしていると本当に気持ちがいい。なんだか遠くまで行ける気になってくるから不思議だ。しかし遠くってどこだろう。

よく分からないことを考えてしまうのはもうダメなんだろう。テーブルに腕を乗せてその場に突っ伏した。

「寝るのか?」
「……ん、おやすみ」

後ろで北村の声がしたから、もう話しかけるなという意味をこめてお休みと返した。
隣でパイプ椅子のきしむ音を聞いたのを最後に俺は意識を手放した。
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