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第一章
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背もたれに寄りかかってダラダラしているとふわふわといい匂いがしてきた。さっき、吉岡にぶつかったときに感じた匂いだった。吉岡側にスポットクーラーがあるから、それに乗せられて匂いがしたのか。
体を起こし、テーブルに両肘をついてその匂いに浸っていようと思ったら、なぜか匂いがしない。風の位置があるようで、背もたれに寄りかかってこそ感じられるにおいのようだった。
いくらいい匂いだからってこっそりと嗅いでいるのは変態ぽっいので、そのまま頬杖をついてグラウンドを見ることにした。
前半の競技もそろそろ終わる。徒競走は面倒だからパスしたし、あとリレーだけだし。
もう暑いし早く終わってくれないかな。さすがにリレーまでパスできないしな。
目の前の南がごそごそと動き始め、視線を移動させた。
本部席真ん中に不自然に置かれていたショッキングピンクのクーラーボックスの蓋を開け、何かを探っている。ガラガラと音がするのは氷でも入っているのだろうか。
奴が取り出したのはアイスだった。
「うっそ! アイス!」
アイス大好きな俺、そしてクソ暑い今。
歓喜に満ちた声を上げれば、南はいやらしく笑った。
「佐野も食べたいの?」
「ちょう好き! 大好き!」
「お前コレね」
渡されたのは昔懐かしい子供だましの野球にちなんだミルクアイス。
金持ちの癖になんでこんなアイスなんだよ。もっと高級なアイスを期待していたのに。
ケチな俺んちの母ちゃんが小さかった俺を誤魔化すために買っていたアイスじゃねーか。
それでもこの暑さ、文句は言えまい。バニラは一番好きだし。
外装を破るがアイスにくっついてなかなか取れない。楽しみなだけにもどかしいんだよな。
「本当は朔ちゃんに、と思って買っていたんだけどさ~」
「え、そうなの? じゃー二ノ瀬にやるわ」
「いいよ、佐野がアイス大好きなら、お前食べなよ。まだあるし。なんならバナナのアイスもあるけど?」
「いや、バニラが一番好きだからこれでいいよ」
相変わらずニヤニヤと薄気味の悪い笑顔でいる南は、高級なカップのアイスを手にしている。
いや、それこそ俺が食べたかったやつじゃないか。
恨めしくも思ったが、もらえるだけでもいいとしようと思ってアイスを口に含んだ。
「まぁ、そのアイスって俺のモノよりも細いし短いしさ、ちょっと形も違うけど。でもダラダラと液を垂らした長いものを舐めてる姿みると結構楽しいよね。佐野は顔面だけはいいから」
にんまりとした笑顔で気持ちの悪いことを言われ、口に含んでいたアイスの先端を思わず齧ってしまった。
童貞の俺でも南の言わんとしていることがすぐ分かった。
でもアイスに罪はないのでその後は齧るだけでなめることはしなかった。「あ~あ齧っちゃダメでしょーが」などとほざいているが無視だ。
「朔ちゃんもアイスいる?」
「結構です」
そりゃー変態宣言したのも同然なんだし、食べられるわけないだろう。二ノ瀬も可哀想に。
ちらっと二ノ瀬に振り返れば、我関せずといったように体ごと南とは反対の方に向けていて少し笑ってしまった。
二ノ瀬を可哀想だとも思うけど、この冷たさは南も可哀想に思えてくるから不思議だ。
体を起こし、テーブルに両肘をついてその匂いに浸っていようと思ったら、なぜか匂いがしない。風の位置があるようで、背もたれに寄りかかってこそ感じられるにおいのようだった。
いくらいい匂いだからってこっそりと嗅いでいるのは変態ぽっいので、そのまま頬杖をついてグラウンドを見ることにした。
前半の競技もそろそろ終わる。徒競走は面倒だからパスしたし、あとリレーだけだし。
もう暑いし早く終わってくれないかな。さすがにリレーまでパスできないしな。
目の前の南がごそごそと動き始め、視線を移動させた。
本部席真ん中に不自然に置かれていたショッキングピンクのクーラーボックスの蓋を開け、何かを探っている。ガラガラと音がするのは氷でも入っているのだろうか。
奴が取り出したのはアイスだった。
「うっそ! アイス!」
アイス大好きな俺、そしてクソ暑い今。
歓喜に満ちた声を上げれば、南はいやらしく笑った。
「佐野も食べたいの?」
「ちょう好き! 大好き!」
「お前コレね」
渡されたのは昔懐かしい子供だましの野球にちなんだミルクアイス。
金持ちの癖になんでこんなアイスなんだよ。もっと高級なアイスを期待していたのに。
ケチな俺んちの母ちゃんが小さかった俺を誤魔化すために買っていたアイスじゃねーか。
それでもこの暑さ、文句は言えまい。バニラは一番好きだし。
外装を破るがアイスにくっついてなかなか取れない。楽しみなだけにもどかしいんだよな。
「本当は朔ちゃんに、と思って買っていたんだけどさ~」
「え、そうなの? じゃー二ノ瀬にやるわ」
「いいよ、佐野がアイス大好きなら、お前食べなよ。まだあるし。なんならバナナのアイスもあるけど?」
「いや、バニラが一番好きだからこれでいいよ」
相変わらずニヤニヤと薄気味の悪い笑顔でいる南は、高級なカップのアイスを手にしている。
いや、それこそ俺が食べたかったやつじゃないか。
恨めしくも思ったが、もらえるだけでもいいとしようと思ってアイスを口に含んだ。
「まぁ、そのアイスって俺のモノよりも細いし短いしさ、ちょっと形も違うけど。でもダラダラと液を垂らした長いものを舐めてる姿みると結構楽しいよね。佐野は顔面だけはいいから」
にんまりとした笑顔で気持ちの悪いことを言われ、口に含んでいたアイスの先端を思わず齧ってしまった。
童貞の俺でも南の言わんとしていることがすぐ分かった。
でもアイスに罪はないのでその後は齧るだけでなめることはしなかった。「あ~あ齧っちゃダメでしょーが」などとほざいているが無視だ。
「朔ちゃんもアイスいる?」
「結構です」
そりゃー変態宣言したのも同然なんだし、食べられるわけないだろう。二ノ瀬も可哀想に。
ちらっと二ノ瀬に振り返れば、我関せずといったように体ごと南とは反対の方に向けていて少し笑ってしまった。
二ノ瀬を可哀想だとも思うけど、この冷たさは南も可哀想に思えてくるから不思議だ。
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