生徒会書記長さん

梅鉢

文字の大きさ
上 下
19 / 112
第一章

17

しおりを挟む
そういえば吉岡は唇の端を切っていたり痣を作っていたりしていた。アレは喧嘩によって作られた傷なんだろうか。
だとしたら本人が“強い”と言い切れるのはこの外見にして場慣れでもしているんだろうか。

本当に人は見かけによらないものだ。

「分かったよ。吉岡とこんなときに喧嘩している場合じゃないし」

右手をヒラヒラと振り、前を向きなおした。歩き出そうとしたとき、その右手を力強く掴まれて後ろに思い切り引っ張られた。あまりの強引さによろけてしまい、そしてよろけた先には吉岡がいた。
俺がぶつかってもびくともしないのは、俺が思っている以上にやはり強かったり、体幹がしっかりしていたりするんだろう。

いったいどうしたんだよと驚いて吉岡を見上げれば、すぐ近くにあの切れ長の瞳が俺を不機嫌に見下ろしていて。しかもなんかいい匂いするし。

眼鏡の銀色がやっぱりこの人を余計に冷たく見せている。

「もう少し、自覚しておいて欲しいです。狩られる側の人間だってことを」

狩られる?

「何言って……。とにかく、離せっ」

掴まれた右腕を引くと、それはあっさりと解放された。
結構強い力で掴まれていたから、少し痛い。
右腕をさすりながら吉岡を睨むが、吉岡はあの不機嫌さがなくなっていていつもの涼しい表情で窓の外を見ていた。

こんなことしておいて眼も合わせないことにも頭に来る。
腹がたって仕方ない俺は今度こそ出口に向かって大股で歩き出した。

どうせ今日は1人で行動しちゃダメとかうるさく言われるのなら、吉岡じゃなくて二ノ瀬といるほうが100倍マシ。
そんなことを考えていると、俺の思考を読んだかのように吉岡が「今日一日、俺が補佐をしますので」と悪魔の囁きが聞こえ、聞こえなかったように出来ないだろうかと返事をせずに歩き続けた。



本部にもどると北村、青木、田口の3人がいなかった。
松浦は足と腕を組んで偉そうにふんぞり返っているし、南はPC画面に夢中、二ノ瀬は競技中のグラウンドを眺めていた。

「ただいまー。去年よりも負傷者多いけど保健委員が来たからなんとかなりそうだった。けが人もだいぶはけていたわ」
「お疲れさん」

1列目には松浦と南、そして3列目に二ノ瀬。俺は2列目に座っていたから当然同じ場所に座ったが、二ノ瀬と同じく3列目にいた吉岡は俺の横、北村の席に座りやがった。
こいつ、俺の補佐をするとかいいつつ、監視しているだけなんじゃ……。

それに気がついた南が後ろを振り向いて俺と吉岡を交互に見やる。表情を変えずに「ふ~ん」とつぶやいてから、また画面に首を戻して。

面倒だから何も言わないでおこう。
南に何かを言っても返されるだけだし、俺のストレスがたまるだけだ。まず口で勝ったためしがない。

「そういや他の3人どこに行ったんだ?」
「柔剣道場裏と校門の同時2箇所から喧嘩があったらしく風紀からのSOSだ」
「同時に来たのか……」
「とりあえず、柔剣道場裏の人が足りないようだったから、3人ともそっちに行ってもらっている」

こんなところに偉そうに足や腕なんか組んでいないで、松浦が行けば一番手っ取り早く解決できるんじゃないかと思えるが、現状把握のために会長様と副会長様はずっとここで待機なんだもんな。ちょっとうらやましいわ。

しかしよかった。喧嘩騒ぎは好きじゃないから、ちょうどいいときに保健室に行けて。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...