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第一章
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しおりを挟む校内に外履きのまま入っていく。今日は外履きOKの日だ。
太陽の下からいきなり暗い校舎に入ったことで、目の前がチカチカと霞む。眼を細め、下を向いていると目の前にあった長い両足が立ち止まった。
まだ霞んでいる眼のまま顔を上げると切れ長の眼が俺を見下ろしていた。
いつもと変わらない、あの冷たい眼だ。
「後ろを歩かれると、いなくなったときすぐに分からないので横か前を歩いてもらえますか」
「ん? 離れるときはさすがに声掛けるけど」
「いや、そうじゃなくて。……さっきの会長の話じゃないですけど、後ろにいて、口を塞がれて連れて行かれたら、俺も気きづくのが遅くなると行動も遅くなるし、とっさの反応も出来ないじゃないですか」
「……なんの話だよ。物騒だな」
吉岡まで何を言っているんだ。なんで俺が守られる対象になっているんだよ。どんだけか弱いと思っているんだ、役員全員。今までそんなことをされたことも、未遂すらない。
暗い校舎に慣れてきた眼はハッキリと吉岡を捉えている。きつく睨んでやると右の眉だけ少し上がって。
「もしもの話です」
「ない話をされても困る」
「とにかく、横か前にいてください。後ろに人がいることも落ち着かないんで、俺」
「分かった」
ぶっきらぼうにいい、吉岡の前を行く。
無意識に口を尖らせていて、ふてくされながら歩いた。
せっかくあの後ろ姿を堪能していたのに。
あーつまらん。面白くないのを前面に押し出しながらいくものだから、時々すれ違う生徒が少し引いたような顔していたのもなんだか今日は愉快だった。
保健室に着くと、いや、着く前から廊下に汗の臭いがむんむんしていた。久々に夏の部室を思い出して臭いはずなのに懐かしい気もした。
冷房が効いているはずの保健室は異様な暑苦しさがあり、空気も澱んでいた。
いったい何人の生徒がいるんだと思うくらいウジャウジャといた。ほとんどが手当て待ちなのか、足に傷を負っている奴らが多かった。それもやはり1年が中心で。さすが団体戦。
忙しなく動いているのは救護班の腕章を付けたやつらだった。
オバサン保険医も手当てをしていたが、ケガ人の山を縫ってそばに駆け寄った。
「団体戦終わってしばらく経っているんでもうこれ以上団体戦のケガ人は増えないと思います」
「どうせ喧嘩してまた運ばれてくるでしょ」
「まぁ、そうですね」
淡々と告げる保険医は、面倒くさそうに目の前の生徒にガーゼを当てていた。
保険医のデスクを除いてみれば、ケガ人のデータが書かれている紙があった。忙しい合間に書いたものだろう、殴り書きで読めないものもあったから。
「今日これで何人目ですか?」
「私で20人近いから、全部で40はいっているんじゃない」
「結構な数ですね」
「去年より多いわね」
そう言って、手当てをしたばかりの傷をバシッと叩き、叩かれた生徒は悲鳴を上げていた。
そうこうしているうちに保健委員もやってきたので、廊下にも椅子やら処置道具やらを置いて手当てをすることにした。
ケガの酷いものは寮に返し、軽いものはまたグラウンドへ。
そうやってしばらくすると怪我人も減り、少しずつ保健室も穏やかさを戻していくことができた。
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