生徒会書記長さん

梅鉢

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第一章

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週があけ、本格的に2学期の授業が始まる。
コース選びを失敗したせいでほとんどの授業が週に2~3時間くらいだった。ひたすら電卓を叩いて終わったりする超専門科目は週に1時間しかない。だからテストの教科科目も多くなってしまっていた。

科目が多いせいで教科書に資料集などで机は常にパンパンだった。

10あるコースの中で会計コースにしようと思ったが、結構楽だと言われて決めてしまった流通経済コース。俺の家業にはあまり関係のないコースだったから余計やる気が起こらない。楽だからって簡単に決めなければよかった。

窓際のおかげでよく空を見ては現実逃避をする。

雲の流れが速い。中庭の木々は静かだ。
あの雲の上に行って風を浴びてみたい。

眼を閉じるがさっきまであった空の青がまだ残っていた。

今日の生徒会室に吉岡はくるだろうか。




放課後になって、真っ先に生徒会室に向かった。
こんなに吉岡が気になっているのは気がついていない。俺は無意識でのことだったから。

ダッシュで行くとまだ誰も来ていなかった。

「……ま、そうだよな」

荒くなった息のまま、机に向かった。
昨日までなかった書類が数枚上がっていた。また、付箋が貼られている。そこにはやはり右上がりのきれいな字が書かれていた。

“議事録遅くなりました。確認お願いします。”

名前を書かないのはわざとなんだろう、これで2回目だったから。
机にただ置いているわけでもなく丁寧に付箋を貼っているのだからよしとしよう。

書類を確認していると、俺のメモなんて必要なかったんじゃないかと思うくらいすべての協議事項での話を要点だけ、ピンポイントで分かりやすくまとめ上げられていた。
松浦の一方的な話のときも大事なところは漏れもなく記載されている。
俺が付け足すようなところが何もない。メモを渡してはいたけれども。

吉岡はすごい。

素直にそう思えた。
でも知らず知らず、大きなため息をついてしまっていた。
2枚目を見ているときに次々と役員がやってきた。

そして最後に来たのが吉岡だった。
今日は来ないかと思っていた。
だからドアが開かれたとき、思わず顔を上げて注目してしまった。

吉岡の席は俺の左側。だからこっちに近づいてくるときもジーッと見てしまって。やっぱり背筋が綺麗に伸ばされているなーなんて思った。

俺があまりにも見ていたせいか椅子に座る直前に一瞥した。その表情はやっぱり冷たくて、無駄に綺麗に整っている横顔からの視線だったため少し怖く感じた。
しかし吉岡はすぐに自分の机に上がっている書類を手に取った。

今日は先週の会議と違って吉岡の傷側にいる。気になっていた傷は、ぱっと見ただけでは分からなくなっていた。やっぱりコレを見られたくないために休んでいたんではないだろうか。

「吉岡、大丈夫なのか?」
「すみませんでした」

いつも思うけど、あまり会話が成り立たないんだよな。
頭のいい奴はどこかおかしかったりするけど、吉岡もそうなんだろうか。それともわざとなんだろうか。なんだか後者の気もするけどそれほど吉岡を知っているわけでもないからなんとも言えない。

それからはいつも通り、皆熱心に仕事をした。

松浦が用事があるからと18時過ぎに帰ったのを切っ掛けに、みんなも帰ることにした。体育祭まであと1週間だがそこそこ目処も立ってきていたし、あまりあせるような仕事もないし。

机を片付け終え、北村の後を追うようにドアに向かうと「佐野さん」と呼び止められた。
低く、そして少し擦れたような吉岡の声だった。

名前を呼ばれたのが珍しくて返事を忘れて振り向いた。まだ椅子に座っていた吉岡はジッと俺を見つめていた。吉岡がこの部屋に入ってきたときとは反対に、瞬きする以外は俺だけを見ている。
その強い眼差しに捉えられたかのように俺も眼が離せなかった。そして言葉を発することも忘れてしまっていてただ吉岡と見詰め合っていた。

「……メモ、ありがとうございました」

表情を変えずに、吉岡が何かを言っていたが俺の耳には届かなかった。

「え?」
「会議のときのメモ、ありがとうございました」
「あ、ああ……あれね」

メモなんて、どうせ要らなかっただろうにそれでも礼を言う吉岡をやっぱり真面目だな~なんて思って。

「俺のメモなんて必要なかったんじゃないか? かなり要点まとめられていたし、抜けもなかったと思ったし」

ちょっと笑ってそう言うと吉岡の切れ長の眼が細まり、スッと視線を逸らされた。PC画面に向き直った吉岡は「助かりました」と変わらない調子で言った。

吉岡はもう俺を見ることはなかったが、「吉岡なら安心して任せられる」と一言告げて生徒会室を後にした。
寮に帰るまでの俺の足取りは軽かった。
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