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第一章
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日曜になって暇で久しぶりに渡部に連絡してみたが部活があるから無理と言われた。確かに俺も休みの日は部活漬けだったが、辞めてしまうと他のやつらも部活をやっていることなんて忘れてしまっていて。
しかたがないのでまた今日も隣に押しかけてみる。困ったときの北村君だ。
コールボタンを押すとすぐに北村はやってきた。
「すまん、今日は用事があるんだ」
「えー暇ー」
「しょうがないだろ、彼女の家に行くんだよ」
「彼女? あ、ああ、婚約者ね」
「そう。今日時間あるって言ったら向こうの父親に呼ばれてさ」
面倒くさそうに言うが、北村の表情は柔らかく。今まで自由のない人生が羨ましいなんて1度も思ったことがなかったが、この顔を見ていたらなんだかうらやましいと思った。
全身はビシッとフォーマルな姿だった。
「10時にここ出るから、あと30分なら相手できるけど」
「や、いーや。頑張ってくれ」
「悪いな、夕方には帰ってくる予定だから夕食は一緒に食おう」
「あいー」
北村に手を振り、部屋には帰らず廊下を奥に進んだ。
つまらなすぎる。
つき当たりを右に行くと自販やちょっとした休憩所があるのでぶらぶらと手を振りながら向かった。
自販にカードキーを差込み、ペットボトルの炭酸飲料を買う。
休憩所のソファに座ってちょっと一休み。
生徒会専用のこの階の休憩所のソファは他と違ってグレードが高いものを置いている。
なぜ生徒会役員ばかりが、と思ったが、生徒会に入ると学園に寄付する額も違ってくるとのことで、なるほどと思ったものだ。
うちの親は金があってもケチなもんで、始めの説明のときの寄付の額が違うと睨まれた。
炭酸は好きだが勢いよく飲むと鼻から吹いてしまう。ちびちび飲んで暇をつぶした。壁に掛けられたリトグラフも高そうで、こんなところに金をかけるなら寄付の一口の額を減らしてくれよと言いたくなる。
バタン、と廊下のほうでドアが閉まる音が聞こえた。誰か来たのか。ぼそぼそと話し声も聞こえる。ただわざと小さい声で話しているようで何を話しているかまでは分からない。
ゆっくりと立ち上がって、曲がり角の死角のこの位置から少しだけ顔をのぞかせて廊下を見やる。
ぱっと見、二人の男が抱き合っているように見えた。南だったら驚かないが、そこには松浦がいた。
松浦がもう1人の男を壁に押し付けるようにして、耳元でなにかを話している。ただもう1人の男が誰かは、松浦の影になっているためこちらからは見えない。
でも、アレはきっと。
なんとなくその人物に目星がつく。
ゆっくりと松浦が男から体を離したとき、その姿が現れた。
やはり青木だった。
松浦の右手で唇を塞がれていて、そんな青木は松浦を睨みつけているように見えた。
口を塞いでいるということは松浦が一方的に話をしていたのか。
なにやらいい雰囲気でもないが、どこか艶を含んだようにも感じられた。
絶対に自分が見つかってはいけない、そう思った。
そろそろと動き、さっきまで座っていたソファに腰をかけた。
見なかったことにしよう。
そもそも二人は仲がよくないと思っていたし、今の雰囲気はただならぬ関係を感じ取れた。それほど敏感でない俺が、だ。
今度はドアが閉まる音が二つ聞こえた。
きっと二人が部屋に戻ったのだろう。
とすると、さっきのドアの閉まる音は1度。二人は同じ部屋から出てきたのか。
いや、考えるのはやめよう。松浦のファンが泣いてしまう。
まだ半分以上中身が入っているペットボトルに蓋をし、俺も部屋へと戻った。
しかたがないのでまた今日も隣に押しかけてみる。困ったときの北村君だ。
コールボタンを押すとすぐに北村はやってきた。
「すまん、今日は用事があるんだ」
「えー暇ー」
「しょうがないだろ、彼女の家に行くんだよ」
「彼女? あ、ああ、婚約者ね」
「そう。今日時間あるって言ったら向こうの父親に呼ばれてさ」
面倒くさそうに言うが、北村の表情は柔らかく。今まで自由のない人生が羨ましいなんて1度も思ったことがなかったが、この顔を見ていたらなんだかうらやましいと思った。
全身はビシッとフォーマルな姿だった。
「10時にここ出るから、あと30分なら相手できるけど」
「や、いーや。頑張ってくれ」
「悪いな、夕方には帰ってくる予定だから夕食は一緒に食おう」
「あいー」
北村に手を振り、部屋には帰らず廊下を奥に進んだ。
つまらなすぎる。
つき当たりを右に行くと自販やちょっとした休憩所があるのでぶらぶらと手を振りながら向かった。
自販にカードキーを差込み、ペットボトルの炭酸飲料を買う。
休憩所のソファに座ってちょっと一休み。
生徒会専用のこの階の休憩所のソファは他と違ってグレードが高いものを置いている。
なぜ生徒会役員ばかりが、と思ったが、生徒会に入ると学園に寄付する額も違ってくるとのことで、なるほどと思ったものだ。
うちの親は金があってもケチなもんで、始めの説明のときの寄付の額が違うと睨まれた。
炭酸は好きだが勢いよく飲むと鼻から吹いてしまう。ちびちび飲んで暇をつぶした。壁に掛けられたリトグラフも高そうで、こんなところに金をかけるなら寄付の一口の額を減らしてくれよと言いたくなる。
バタン、と廊下のほうでドアが閉まる音が聞こえた。誰か来たのか。ぼそぼそと話し声も聞こえる。ただわざと小さい声で話しているようで何を話しているかまでは分からない。
ゆっくりと立ち上がって、曲がり角の死角のこの位置から少しだけ顔をのぞかせて廊下を見やる。
ぱっと見、二人の男が抱き合っているように見えた。南だったら驚かないが、そこには松浦がいた。
松浦がもう1人の男を壁に押し付けるようにして、耳元でなにかを話している。ただもう1人の男が誰かは、松浦の影になっているためこちらからは見えない。
でも、アレはきっと。
なんとなくその人物に目星がつく。
ゆっくりと松浦が男から体を離したとき、その姿が現れた。
やはり青木だった。
松浦の右手で唇を塞がれていて、そんな青木は松浦を睨みつけているように見えた。
口を塞いでいるということは松浦が一方的に話をしていたのか。
なにやらいい雰囲気でもないが、どこか艶を含んだようにも感じられた。
絶対に自分が見つかってはいけない、そう思った。
そろそろと動き、さっきまで座っていたソファに腰をかけた。
見なかったことにしよう。
そもそも二人は仲がよくないと思っていたし、今の雰囲気はただならぬ関係を感じ取れた。それほど敏感でない俺が、だ。
今度はドアが閉まる音が二つ聞こえた。
きっと二人が部屋に戻ったのだろう。
とすると、さっきのドアの閉まる音は1度。二人は同じ部屋から出てきたのか。
いや、考えるのはやめよう。松浦のファンが泣いてしまう。
まだ半分以上中身が入っているペットボトルに蓋をし、俺も部屋へと戻った。
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