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第一章
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夏休み最後の土日。さすがに顧問の土屋もこの連休ばかりは休みをくれた。補佐たちは毎日ではないが、俺達2年はほとんど土日関係なく毎日ちょっとしたことでも呼びつけられていたから。
かといって、仕事漬けに慣れたこの体、連休に何をしたらいいのかも忘れてしまっていた。
まずはゆっくり眠ろうと思って寝てみたが、その分早く起きてしまって。もう爺にでもなってしまったのだろうか。
北村もゆっくりと休みたいだろうから7時くらいまでは寝せておいてあげよう。それまでテレビで暇つぶしをしようとしたが、俺の腹の虫が限界だった。まだ6時を過ぎたばかりだったが食堂は朝練者のために5時からやっている。だから隣の部屋に突撃だ。
やっぱり北村もゆっくり休んでいたようだ。寝癖がすごいし、眼が開いていない。
「……早すぎるだろ」
「分かんないけど目が覚めちゃって。メシ行こうぜ」
「……仕度する」
いいお婿さんになれますぞ、北村くん。女は俺よりもわがままなんじゃないか? 俺で慣れていれば結婚しても大丈夫。
勝手なことを思いながら北村を待つ。
あの北村の様子だとすぐには来ないだろうと思い、しゃがんで待つことにした。案の定、北村はなかなか来なくて。
5分経ってもこないからイライラして立ち上がった。するとエレベーターの到着する音が鳴った。
朝帰りですか、お盛んね。
どうせ南だろ、そんなことを思ってエレベーターの扉が開かれるのをボーっと見ていた。
そこにはふわふわした茶色いパーマの男ではなく、頭はフードがかぶさっているが、前髪が黒髪で覆われた背の高い男が立っていた。灰色のパーカーにくたびれたジーンズ姿。かなりラフな格好で髪の毛もセットしたものが崩れた、そんな髪型だった。
誰だ……。
そう思ったのは一瞬で、歩き出したときの背筋のキレイさにその人物が吉岡であることを知る。
いつも七三分けで制服をキッチリと着ている姿しか見たことがなかったため、驚いてしまった。
でも本当に吉岡だろうか、眼鏡もしていないし。伸ばされた背筋が同じでもあの気だるさ、いつもと雰囲気が違いすぎる。
まさか吉岡が朝帰りとは。意外と南と同じタイプだったりするんだろうか。
吉岡がこっちに向かうのと同時に、俺も1歩、2歩とゆっくりと無意識に歩き出していた。
吉岡はまったく俺に気がつかないでいる。ずっと下を向いて、10メートル以上はなれた俺にまで聞こえるくらい大きなため息を吐いていて。
俺の部屋の前で立ち止まり、吉岡を待った。吉岡の部屋は俺の部屋の前でもあるから。
それからすぐだ、吉岡が俺に、というか、“この廊下”に人物がいるということに気がついたのは。多分下を向いていて俺の足元が見えたのだろう。歩いている途中で勢いよく顔を上げたのだから。
今度は吉岡が驚く番で。
俺と眼が合うなり、チッと舌打ちをしやがった。
「吉岡……だよな」
「おはようございます」
すぐに視線をそらした吉岡は自分の部屋の前へと行く。また背中が話しかけるなとでも言っているようだったが、丁寧な挨拶が出た唇には血がついていたのを俺は見逃さなかった。
右の口端が切れていて、痣のようなものあった。
吉岡はけだるそうにポケットからカードキーを取り出し、部屋へと入っていった。
別に無視をされたわけでもないが、なんだか面白くない気分だった。
かといって、仕事漬けに慣れたこの体、連休に何をしたらいいのかも忘れてしまっていた。
まずはゆっくり眠ろうと思って寝てみたが、その分早く起きてしまって。もう爺にでもなってしまったのだろうか。
北村もゆっくりと休みたいだろうから7時くらいまでは寝せておいてあげよう。それまでテレビで暇つぶしをしようとしたが、俺の腹の虫が限界だった。まだ6時を過ぎたばかりだったが食堂は朝練者のために5時からやっている。だから隣の部屋に突撃だ。
やっぱり北村もゆっくり休んでいたようだ。寝癖がすごいし、眼が開いていない。
「……早すぎるだろ」
「分かんないけど目が覚めちゃって。メシ行こうぜ」
「……仕度する」
いいお婿さんになれますぞ、北村くん。女は俺よりもわがままなんじゃないか? 俺で慣れていれば結婚しても大丈夫。
勝手なことを思いながら北村を待つ。
あの北村の様子だとすぐには来ないだろうと思い、しゃがんで待つことにした。案の定、北村はなかなか来なくて。
5分経ってもこないからイライラして立ち上がった。するとエレベーターの到着する音が鳴った。
朝帰りですか、お盛んね。
どうせ南だろ、そんなことを思ってエレベーターの扉が開かれるのをボーっと見ていた。
そこにはふわふわした茶色いパーマの男ではなく、頭はフードがかぶさっているが、前髪が黒髪で覆われた背の高い男が立っていた。灰色のパーカーにくたびれたジーンズ姿。かなりラフな格好で髪の毛もセットしたものが崩れた、そんな髪型だった。
誰だ……。
そう思ったのは一瞬で、歩き出したときの背筋のキレイさにその人物が吉岡であることを知る。
いつも七三分けで制服をキッチリと着ている姿しか見たことがなかったため、驚いてしまった。
でも本当に吉岡だろうか、眼鏡もしていないし。伸ばされた背筋が同じでもあの気だるさ、いつもと雰囲気が違いすぎる。
まさか吉岡が朝帰りとは。意外と南と同じタイプだったりするんだろうか。
吉岡がこっちに向かうのと同時に、俺も1歩、2歩とゆっくりと無意識に歩き出していた。
吉岡はまったく俺に気がつかないでいる。ずっと下を向いて、10メートル以上はなれた俺にまで聞こえるくらい大きなため息を吐いていて。
俺の部屋の前で立ち止まり、吉岡を待った。吉岡の部屋は俺の部屋の前でもあるから。
それからすぐだ、吉岡が俺に、というか、“この廊下”に人物がいるということに気がついたのは。多分下を向いていて俺の足元が見えたのだろう。歩いている途中で勢いよく顔を上げたのだから。
今度は吉岡が驚く番で。
俺と眼が合うなり、チッと舌打ちをしやがった。
「吉岡……だよな」
「おはようございます」
すぐに視線をそらした吉岡は自分の部屋の前へと行く。また背中が話しかけるなとでも言っているようだったが、丁寧な挨拶が出た唇には血がついていたのを俺は見逃さなかった。
右の口端が切れていて、痣のようなものあった。
吉岡はけだるそうにポケットからカードキーを取り出し、部屋へと入っていった。
別に無視をされたわけでもないが、なんだか面白くない気分だった。
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