生徒会書記長さん

梅鉢

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第一章

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補佐たちとの顔合わせの日、一番ウキウキしていたのはもちろん南だった。
頭上に音符マークが付きそうなほどに。

俺たちの反対側に向かい合わせで座る1年達。それぞれがいい男だが、金髪のくせにやけに美人なのは南が選んだ副会長補佐だろう。いくら生徒の自由を尊重するからといって副会長補佐が金髪ってどうなのよ。あの個人写真は黒髪美人だったのに。もったいない。

入り口のほうで立ったままの顧問の土屋が得意の仁王立ちをして「青木から挨拶しろ」と偉そうに言った。

青木と呼ばれた生徒が動く。
やはり食堂で松浦と一緒にいた生徒だった。今、この場でもやる気がなさそうに口をへの字に曲げている。見方によっては機嫌が悪いのかとも取れる表情だ。
いかにもだるそうにテーブルに手を着いて立ち上がる。

「1-C、青木歩です。」

それだけ言ってさっさと座ってしまった。土屋もこれには苦笑していた。ちらりと松浦を見れば、眉間に皺が出来ていて、いや、お前が選んだんだろと心の中で突っ込んだ。
そして青木、どれだけ嫌か分からないけど、断るという選択肢もあったんだから、ここは大人な対応しておけよとも思う。まぁ一人部屋につられたんだろうな。

「青木は会長補佐な。じゃ、次に二ノ瀬」

会長補佐と聞いて南だけが驚いていた。俺と北村は食堂で見かけたからなんとなく分かっていたし。

「副会長補佐をやらせていただくことになりました1-A二ノ瀬朔です。中等部では部活以外何もしたことがないので、生徒会のことはよく分かりません。色々聞くことが多いかもしれないですが1年間よろしくお願いします」

金髪とは裏腹に、1年生らしい初々しい挨拶だった。美人が柔らかく微笑むから空気も和らぐ。
そんな二ノ瀬に満足したように南は隣でうんうんと頷いていた。「金髪も似合うね~。大丈夫、仕事は俺がするから」なんて、のん気な声を出して。
二ノ瀬が座ると同時に隣の大男が勢いよく立った。

「会計補佐に選ばれました田口陵介です! 頑張ります! よろしくお願いします!」

重量級の柔道でもしていそうな暑苦しいその外見と同じで暑苦しそうな話方だった。南が小さい声で「ええ~……」なんて困惑した声をだすからうっかり笑ってしまって。
それに気がついた田口は眼をパチパチさせながら顔を赤くしていた。南に対して笑ったけれど、挨拶をしているときに笑われたら誰だって面白くないよな。自分を笑ったのかと勘違いもしてしまう。

「ごめん、笑って。田口くんがあまりにも外見と中身が一緒だなーと思って」
「はい! よく言われます!」
「ブッ!」

今度は北村が噴出した。いや、松浦と一緒でおまえが選んだんだろうよ。
ごほごほと咳払いをしているが今更誤魔化しても。

「まぁ、田口はこう見えて華道の家元だ。生けるものがあったら頼むといい。じゃあ最後だな、吉岡」
「吉岡翔馬です。個人部屋に誘われてこの話を受けました。俺も生徒会は初めてです。教えてもらわないと分からないことだらけなんでよろしくお願いします。暗記力には自信あるんで」

いまどきキッチリした七三分けに銀縁めがね、その外見よりも砕けた挨拶でなんだか気が抜けた。もっとクソまじめな奴だと想像していたから。

俺の目の前に座る吉岡は個人写真よりも髪が少し長くなっていて、下をむくとときどきハラリと前髪が目元までかかることがあった。その髪の毛を人差し指と中指で直す仕草がとてもキレイで。伸ばされた背筋もこの中で一番だ。育ちがいいのが分かる。

テスト前のため今日はコレだけで解散したが、解散後すぐに南が二ノ瀬の元へと駆け寄った。
二人並んで分かったが、二ノ瀬は南よりも少しだけ背が高かった。南でも180cm近いのに、二ノ瀬はこんな顔して背が高いのかと驚いた。

「朔チャンさ、俺の部屋と向かいになるんだよね。案内する?」
「いや、大丈夫です。ありがとうございます」
「そう? じゃ、俺の部屋遊びに来ない? 楽しいのいっぱいあるよ」

二人の会話を耳にしながら、他の奴らは会議室から退室する。
楽しいのいっぱいって、楽しい何があるんだよ、と南の言葉は突っ込みたいことだらけだ。

「先輩の噂はかねがね聞いていますし、俺、彼女いるんで」

思いがけない二ノ瀬の言葉に、頭だけ会議室に振り返った。
俺の後ろにいた北村も振り返って見ているあたりやっぱり珍しいことなんだろう、南が初対面でこうもはっきりとお断りされている図は。

南も南で、眉を上げて驚いてはいるが、すぐに表情を戻して今度は楽しそうに唇を歪めて。

「そっか、残念だなー。でもこれから一緒だし、いつでも気が変わってね」
「はい、そのときはよろしくお願いします」

“そのとき”なんて来ないとでも言うように、二ノ瀬はきつく唇を結んで会議室を後にした。あの美人に似合う爽やかな匂いを残して。
南はそんな後ろ姿に笑顔でひらひらと手を振った。呆れを通り越してうっかり尊敬さえ覚えてしまいそうだ。
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