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第一章
プロローグ
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梅雨が終わってこれから本格的な夏がくる、そんなときだった。
HRも終わり、友人である渡部に挨拶をして部活に行こうとすると生徒指導の土屋に「佐野ー佐野市也いるかー」と大声で呼ばれた。
「いまーす。部活行くところでしたよー」
たった今挨拶をしたばかりの友人が、俺の腕を掴んで返事をした。何故お前が返事をするのだと睨んでやるが、やつは楽しそうに笑っていた。
「おお、お前ちょっと用事あるからすぐに指導室に来い。今すぐだぞ」
「指導室? 俺なんかしました?」
「何もしてないけど、いいから来いよ」
何もしていないけど、指導室に呼ばれる理由とは。
忙しいのかそれだけ言って土屋は小走りで教室から去った。
その後姿を眼で追いながら、心当たりを探ってみるが一向に見当たらない。
「お前何したのよ」
「いや、なんも。まったく分からない」
「まぁ、土屋の顔見ても怒っている風でもないしねー」
そうだ。あの顔は別に俺が悪いことして呼んでいるのではなさそうな顔だった。普通の、いつも通りの顔。揉め事があると、土屋は分かりやすいほど感情を前面に押し出す性格をしていたから、この呼び出しは問題ごとではないのだろう。
そうと分かれば足取りも軽くなった。
「じゃー俺指導室行ってくるわ。うちの部長にちょっと遅くなるかもって伝えてくれよ」
「おっけー」
俺がバレー部、渡部がバスケ部でコートが隣同士のため、伝言を頼んで指導室へと向かった。
歩いている途中後ろから声を掛けられた。
隣のクラスの北村だった。初等部からあるこの学園ではほとんどの生徒と同じクラスになったことがあるし、北村は中等部の3年間一緒のクラスだったため、仲もよかった。
「もしかして、佐野も指導室?」
「おー、そうそう。お前も?」
「さっき土屋先生に呼ばれてね。何の用なんだろうな」
律儀に“先生”とつけるあたり、こいつは真面目だ。
北村も呼び出された理由を知らないらしい。そしたらもっと呼び出しされた人がいるんだろうか。
一応ドアをノックして「失礼します」と声を掛けながら部屋に入った。
腕を組んで仁王立ちをしている土屋がまず眼に入り、少し離れたところにあるテーブルに俺達と同じ1年生の2人の生徒が腰を下ろしていた。
黒髪色男の松浦は腕を組んで、軽い雰囲気の南は肘をついてダラッとしていた。どのみちどんな姿でもイケメンはイケメンなんだなと思わせる2人だった。
2人とも俺たちをチラリと一瞥しただけで土屋に視線を戻した。
「よし、4人そろったな。じゃー始めるか。北村と佐野も空いてるとこ座れ」
そそくさと空いているパイプ椅子に座った。
組んでいた腕を下ろした土屋は、机にあった書類を持ち話し始めた。
「お前ら4人は今年の生徒会の補佐をやってもらうことになった。任命証書を渡すから、取りにこい。まず松浦な。お前生徒会長補佐ね」
淡々と、言われたそれに全員が驚いた。
その証拠に取りに来いと言われ、名前を呼ばれた松浦ですらボケっとしていて動けないでいる。
割と冷静である北村ですらあまり状況をも見込めないでいるようだったが、北村や松浦ですらこれだもの、俺なんてもっとだ。
やっと動き出した松浦が土屋から証書を受け取る。それに眼を落とすがそのときはもうボケっとしていた松浦はいなくて、いつも通りの凛々しい顔がそこにあった。
副会長補佐に南、会計に北村と呼ばれて最後が俺だった。しかしよく分からないので手を上げて訊いてみた。
「センセー、なんで俺達なの?」
「おー最後は佐野な。お前は書記ね。まぁ書記長の補佐だな」
「いや、俺の質問の答えになってないし」
「あー、面倒くさいやつだな。お前も他の奴らみたいに素直に受け取れ」
俺が悪いのか。
しぶしぶ証書を受け取るが他のやつらだって納得して受け取っているわけではないだろうよ。
「だってさ、選ばれる理由が分かんないんだけど」
思ったことを口にしてみれば「佐野はそうだろうね」と南が答える。
「俺らはなんとなく分かるんじゃない? 頭いいし、運動神経もいいし。付け足せば顔もいいでしょ。佐野は運動神経と顔だけだもんね」
ケラケラと笑う南は、とっても失礼なことを言ったように思う。まるで頭が悪いとでも言っているようだった。事実、この3人より頭はよくないけど、それほどバカってほどでもない、はずだ。
「まぁまぁ、とりあえず選ばれたんだ、お前達は。選定基準等は秘密だから今は教えられない。まぁ、そのうちな。嫌だったら断ってもいいんだぞ」
断る。
生徒会に入れば個室がもらえ、授業免除やその他メリットが多く密かに生徒会になりたいやつは沢山いた。俺は個室を求めたい。
それになんだか釈然としないのは俺1人だろう。
だから「頑張ります」とお辞儀をすると、土屋はゴリラみたいな顔をしているくせににっこりと俺に笑顔を向けた。
そこでやっと思い出した。土屋は生徒指導と生徒会の顧問をしていたことに。
HRも終わり、友人である渡部に挨拶をして部活に行こうとすると生徒指導の土屋に「佐野ー佐野市也いるかー」と大声で呼ばれた。
「いまーす。部活行くところでしたよー」
たった今挨拶をしたばかりの友人が、俺の腕を掴んで返事をした。何故お前が返事をするのだと睨んでやるが、やつは楽しそうに笑っていた。
「おお、お前ちょっと用事あるからすぐに指導室に来い。今すぐだぞ」
「指導室? 俺なんかしました?」
「何もしてないけど、いいから来いよ」
何もしていないけど、指導室に呼ばれる理由とは。
忙しいのかそれだけ言って土屋は小走りで教室から去った。
その後姿を眼で追いながら、心当たりを探ってみるが一向に見当たらない。
「お前何したのよ」
「いや、なんも。まったく分からない」
「まぁ、土屋の顔見ても怒っている風でもないしねー」
そうだ。あの顔は別に俺が悪いことして呼んでいるのではなさそうな顔だった。普通の、いつも通りの顔。揉め事があると、土屋は分かりやすいほど感情を前面に押し出す性格をしていたから、この呼び出しは問題ごとではないのだろう。
そうと分かれば足取りも軽くなった。
「じゃー俺指導室行ってくるわ。うちの部長にちょっと遅くなるかもって伝えてくれよ」
「おっけー」
俺がバレー部、渡部がバスケ部でコートが隣同士のため、伝言を頼んで指導室へと向かった。
歩いている途中後ろから声を掛けられた。
隣のクラスの北村だった。初等部からあるこの学園ではほとんどの生徒と同じクラスになったことがあるし、北村は中等部の3年間一緒のクラスだったため、仲もよかった。
「もしかして、佐野も指導室?」
「おー、そうそう。お前も?」
「さっき土屋先生に呼ばれてね。何の用なんだろうな」
律儀に“先生”とつけるあたり、こいつは真面目だ。
北村も呼び出された理由を知らないらしい。そしたらもっと呼び出しされた人がいるんだろうか。
一応ドアをノックして「失礼します」と声を掛けながら部屋に入った。
腕を組んで仁王立ちをしている土屋がまず眼に入り、少し離れたところにあるテーブルに俺達と同じ1年生の2人の生徒が腰を下ろしていた。
黒髪色男の松浦は腕を組んで、軽い雰囲気の南は肘をついてダラッとしていた。どのみちどんな姿でもイケメンはイケメンなんだなと思わせる2人だった。
2人とも俺たちをチラリと一瞥しただけで土屋に視線を戻した。
「よし、4人そろったな。じゃー始めるか。北村と佐野も空いてるとこ座れ」
そそくさと空いているパイプ椅子に座った。
組んでいた腕を下ろした土屋は、机にあった書類を持ち話し始めた。
「お前ら4人は今年の生徒会の補佐をやってもらうことになった。任命証書を渡すから、取りにこい。まず松浦な。お前生徒会長補佐ね」
淡々と、言われたそれに全員が驚いた。
その証拠に取りに来いと言われ、名前を呼ばれた松浦ですらボケっとしていて動けないでいる。
割と冷静である北村ですらあまり状況をも見込めないでいるようだったが、北村や松浦ですらこれだもの、俺なんてもっとだ。
やっと動き出した松浦が土屋から証書を受け取る。それに眼を落とすがそのときはもうボケっとしていた松浦はいなくて、いつも通りの凛々しい顔がそこにあった。
副会長補佐に南、会計に北村と呼ばれて最後が俺だった。しかしよく分からないので手を上げて訊いてみた。
「センセー、なんで俺達なの?」
「おー最後は佐野な。お前は書記ね。まぁ書記長の補佐だな」
「いや、俺の質問の答えになってないし」
「あー、面倒くさいやつだな。お前も他の奴らみたいに素直に受け取れ」
俺が悪いのか。
しぶしぶ証書を受け取るが他のやつらだって納得して受け取っているわけではないだろうよ。
「だってさ、選ばれる理由が分かんないんだけど」
思ったことを口にしてみれば「佐野はそうだろうね」と南が答える。
「俺らはなんとなく分かるんじゃない? 頭いいし、運動神経もいいし。付け足せば顔もいいでしょ。佐野は運動神経と顔だけだもんね」
ケラケラと笑う南は、とっても失礼なことを言ったように思う。まるで頭が悪いとでも言っているようだった。事実、この3人より頭はよくないけど、それほどバカってほどでもない、はずだ。
「まぁまぁ、とりあえず選ばれたんだ、お前達は。選定基準等は秘密だから今は教えられない。まぁ、そのうちな。嫌だったら断ってもいいんだぞ」
断る。
生徒会に入れば個室がもらえ、授業免除やその他メリットが多く密かに生徒会になりたいやつは沢山いた。俺は個室を求めたい。
それになんだか釈然としないのは俺1人だろう。
だから「頑張ります」とお辞儀をすると、土屋はゴリラみたいな顔をしているくせににっこりと俺に笑顔を向けた。
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