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それからヴィネは以前同様、ヨリの手を取っては魔力を流し始めた。それからはふわふわと気持ちよく、夢うつつであったように思う。全身をゆっくりと巡る優しげな温かさはヨリを溶かし、実際、力が抜けてヴィネに抱きかかえられていた。今日のはどことなく母親の胎内とはこんな感じではないのだろうか。そう思えるくらい緩やかなものに体を覆われていたようだった。
「ふむ。以前なかった違和感はあるけど、それが何かは分からない」
ぼんやりとする頭の中、ふっと体中の温かさが消えた。
「ごめん。もう少し強くさせて」
「うん」
またアレが味わえるのなら、とヴィネに寄りかかりながら手を差し出した。
しかし「強く」と言ったのは温かさだと思っていたのに、指先から流れてきたものは弱い電流のようなものだった。
電流刑も受けたことはあるためそれほど衝撃はなかったが、先ほどまでと違って気持ちよさが一切ない。
「あの、……これ」
ビリビリしたものがゆっくりと肉の中を這いずり回るような感覚は気持ち悪さを覚えた。しかし「嫌だ」という一言が喉で詰まって出てこられない。
「少し我慢して」
繋がれた手を引っ込めようとするがきつく握られて逆に引っ張られた。
「もう少し、もう少し」
気持ちの悪い微量の電流が指から腕を通り、肩から体全体を巡る。それが項に通ったとき、鋭い焼けるような痛みに襲われた。あの老人魔術師のときと同じような痛み。折檻中は声を出すことを禁止されているため、癖でこのときも声を出さずに全身で仰け反った。
同時にヴィネと繋がれていた手にもバリッと激しい音と共に痛みが走った。手は離れ、ヴィネに寄りかかっていたが勢いでその場に倒れこんだ。
指先はジンジンと痛んだが、それより項の痛みがなくなってホッとした。
なんだって項ばかりに痛みが出るのか不思議だった。肩で息をして起き上がると、ヴィネの姿が見当たらなかった。
今の衝撃で一人どこかに行ってしまったのだろうか。こんなところに一人で置いていかれても納屋にどうやって帰ればいいのだと恐ろしくなった。
「いて、いてて……あのジジイ……」
「ヴィネ!」
いないと思ったヴィネはベッド脇の壁まで飛ばされていた。数メートルも飛ばされていることにも驚き、手の痛みを無視してヴィネのもとに這って行った。
痛みに声を出していたのに無表情で壁にもたれたまま、ヨリが近づいてくるのを待ち、ヴィネは言った。
「僕はキミに名前を教えてないはずだけど、どこで知ったの?」
老人魔術師の話から水色ローブの魔術師がヴィネだと、きっとそうだろうと思っていたが、確かに本人からは聞いていなかった。
鋭い瞳で射抜かれ、嘘など通じないことを知るが、なんとなくあのことは言ってはいけない気がした。
「他の魔術師が、あなたの事をそう呼んでいたのを影で聞いていたから……」
まったくの嘘でもない、本当のことも混じっている。他の魔術師である黒色魔術師がそう呼んでいたんだから。
視線を合わせながら言えた。
それに対しては「ふーん」と一言だけ返事をしただけだった。
「それならキミの名前を教えてよ」
「……名はヨリ」
「普通の名前だ。奴隷なのに」
「ふ、普通? でも名字はないです」
「奴隷だものね」
その言い方がどういったものを含んでいるのかは分かりかねるが、意地悪なものには聞こえなかったから不思議だった。
「僕は明日には王宮へ帰る」
先ほども聞いた話だ。
壁から背を離し、ヴィネの目の前に座り込むヨリの腕を取った。
ヨリはいつも人の顔色を窺って生きてきたが、ヴィネの表情は読み取れないでいた。
「どうしてこんなにキミが気になるかは結局分からなかった。ただうまく混ざることは出来ているから相性はいいのだと思う。違和感を探ることも無理やりできそうだけど師匠がそれを許さないらしい。でも、もうキミを知ってしまったから、僕は忘れるとこは出来ないと思う。ここへもそうそう来られない。だから……」
ずっと、何の感情ものせていなかったヴィネ。少しだけ切なく目を細めて「だから、キミの体に僕の痕を残させて」と言われたら、それがどんなものかも知らないのに断ることなんて出来なかった。
「ふむ。以前なかった違和感はあるけど、それが何かは分からない」
ぼんやりとする頭の中、ふっと体中の温かさが消えた。
「ごめん。もう少し強くさせて」
「うん」
またアレが味わえるのなら、とヴィネに寄りかかりながら手を差し出した。
しかし「強く」と言ったのは温かさだと思っていたのに、指先から流れてきたものは弱い電流のようなものだった。
電流刑も受けたことはあるためそれほど衝撃はなかったが、先ほどまでと違って気持ちよさが一切ない。
「あの、……これ」
ビリビリしたものがゆっくりと肉の中を這いずり回るような感覚は気持ち悪さを覚えた。しかし「嫌だ」という一言が喉で詰まって出てこられない。
「少し我慢して」
繋がれた手を引っ込めようとするがきつく握られて逆に引っ張られた。
「もう少し、もう少し」
気持ちの悪い微量の電流が指から腕を通り、肩から体全体を巡る。それが項に通ったとき、鋭い焼けるような痛みに襲われた。あの老人魔術師のときと同じような痛み。折檻中は声を出すことを禁止されているため、癖でこのときも声を出さずに全身で仰け反った。
同時にヴィネと繋がれていた手にもバリッと激しい音と共に痛みが走った。手は離れ、ヴィネに寄りかかっていたが勢いでその場に倒れこんだ。
指先はジンジンと痛んだが、それより項の痛みがなくなってホッとした。
なんだって項ばかりに痛みが出るのか不思議だった。肩で息をして起き上がると、ヴィネの姿が見当たらなかった。
今の衝撃で一人どこかに行ってしまったのだろうか。こんなところに一人で置いていかれても納屋にどうやって帰ればいいのだと恐ろしくなった。
「いて、いてて……あのジジイ……」
「ヴィネ!」
いないと思ったヴィネはベッド脇の壁まで飛ばされていた。数メートルも飛ばされていることにも驚き、手の痛みを無視してヴィネのもとに這って行った。
痛みに声を出していたのに無表情で壁にもたれたまま、ヨリが近づいてくるのを待ち、ヴィネは言った。
「僕はキミに名前を教えてないはずだけど、どこで知ったの?」
老人魔術師の話から水色ローブの魔術師がヴィネだと、きっとそうだろうと思っていたが、確かに本人からは聞いていなかった。
鋭い瞳で射抜かれ、嘘など通じないことを知るが、なんとなくあのことは言ってはいけない気がした。
「他の魔術師が、あなたの事をそう呼んでいたのを影で聞いていたから……」
まったくの嘘でもない、本当のことも混じっている。他の魔術師である黒色魔術師がそう呼んでいたんだから。
視線を合わせながら言えた。
それに対しては「ふーん」と一言だけ返事をしただけだった。
「それならキミの名前を教えてよ」
「……名はヨリ」
「普通の名前だ。奴隷なのに」
「ふ、普通? でも名字はないです」
「奴隷だものね」
その言い方がどういったものを含んでいるのかは分かりかねるが、意地悪なものには聞こえなかったから不思議だった。
「僕は明日には王宮へ帰る」
先ほども聞いた話だ。
壁から背を離し、ヴィネの目の前に座り込むヨリの腕を取った。
ヨリはいつも人の顔色を窺って生きてきたが、ヴィネの表情は読み取れないでいた。
「どうしてこんなにキミが気になるかは結局分からなかった。ただうまく混ざることは出来ているから相性はいいのだと思う。違和感を探ることも無理やりできそうだけど師匠がそれを許さないらしい。でも、もうキミを知ってしまったから、僕は忘れるとこは出来ないと思う。ここへもそうそう来られない。だから……」
ずっと、何の感情ものせていなかったヴィネ。少しだけ切なく目を細めて「だから、キミの体に僕の痕を残させて」と言われたら、それがどんなものかも知らないのに断ることなんて出来なかった。
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