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その日も一日が終わり、ゴゴや他の少年奴隷の三人、納屋で藁に包まって寝静まっているときだった。
体全体に重みがかかり、身を捩っても動けず、ドンドンそれは重くなり苦しくて呻いた。
しかしその呻きは何ものかに押さえられ、声にはならなかった。
久しぶりの感覚に体に緊張が走る。
少し前に何度か襲われそうになることがあったからだ。しかしいつも他の2人も気が付いて追っ払ってくれた。
この国は男性同士に寛容なところもあるらしいが、このハーブ公爵家では奴隷の自慰や異性でも同性同士でも一切の性的行為はご法度だったからだ。奴隷長のビーマに相談すれば家令がすぐに頑丈な内鍵を用意してくれたし、犯人は必ず見つけ出して違うところへと売りに出されているほどだった。
だから安心していたのに。
とにかく暴れて他の2人に気付いてもらわなければならない。
「ごめん。怖がらせるつもりじゃないんだ。ちょっと大人しくしてくれないかな」
耳元で発せられた声にぴたりと暴れるのをやめた。
暗闇で姿が分からないがヴィネの声だった。驚きで固まっているとフ、と笑う声がした。
「ありがとう。ここじゃなんだから、ちょっと移動させて」
ヴィネは指をパチンパチン、と2回はじくとヨリの視界がグニャリと揺れた。
気が付いたときには一度だけ大掃除の為に入ったことのある、簡素であるが白を基調とした清潔感のある客室にいた。納屋にいたときの姿のまま、ヴィネに圧し掛かれた状態で。
まさかあの一瞬で井戸近くの納屋から侯爵家4階にある客室へと移動するなんて。
藁だらけの衣類、寒いから水浴びもろくにしていない汚い体で屋敷に入ってしまうなんて。
恐れ多くて、起き上がったヴィネのシャツを掴み詰め寄った。
「お、怒られる……。……怒られる! 戻して!」
「大丈夫だよ。結界張っているから。今、この屋敷で僕達に気が付いているのも師匠くらいだ」
ヴィネはつまらなそうに答えた。
そしてまた結界。結界というものがいまいち分からないが、本当に見えなく、聞こえなくしているのだろうか。
それでもこんな広くて綺麗なところにいることが不安で仕方ない。
藁だらけの汚い姿だというのに、すがるものがヴィネしかいないため、キョロキョロと辺りを見回しながら距離を詰めた。
そんなヨリの細い肩をヴィネはぎゅっと抱き寄せた。
擦り寄ったのは自分だが、触られるのはまた怖い。おずおずと同じような高さにいるヴィネを窺い見た。
ヴィネは真っ直ぐにヨリを見ていた。
いつもフードで隠されていたヴィネの目元。今は屋敷の人が着るような白いシャツにスラックスでいてとても魔術師なんかには見えない。少し幼さを残すが整った顔をした黒髪の少年がいるだけだ。
緑色の瞳は何かを探るでもなくただただ真っ直ぐにヨリを見ていた。
透き通った綺麗な瞳に見つめられ、心臓が少しずつ音を立てて早くなっているのが分かった。顔に熱が集まっていることも。こんな濁った灰色の瞳を持つ自分なんかが恥ずかしい。
そしてなにより、綺麗な瞳に見つめられては何かを期待してしまいそうな自分がいた。打ち消すように口を開いた。
「あの、この侯爵家では……」
「知っている。奴隷の性的行為が禁止されているのだろう」
思い上がりの恥ずかしさにさらに顔を赤くしてしまった。咄嗟に下を向いてヴィネには見られないようにした。
あの真っ直ぐな瞳に色はなかった。むしろ自分が色をつけて見ていたのではないか。
そのくせ、自分から断りをしようとしていた。顔から火が吹き出そうだった。
「この山の調査は明日で終わり、僕たちは王宮へ戻る。最後に会った日から調査も忙しくてキミに合える時間がなかった。僕はキミにどうしても確かめたいことがある。場合によっては公爵家のご法度を破ることになるかもしれないが、どういうわけか気になってしかたないんだ」
「キミも僕を気になっていると思うんだけど」と顔を覗かれ、素直に頷いた。
気になるか、ならないかと言われれば気になる。存在自体が未知のものである魔術師が気にならないわけがない。気になる、ということがヴィネの言うことと合っているかは分からないが、ヨリはずっとヴィネに合いたかったのだ。
それに未遂であっても男に組み敷かれた経験から怖さはあるが、ヴィネにされても嫌な気持ちにはならなかった。
体全体に重みがかかり、身を捩っても動けず、ドンドンそれは重くなり苦しくて呻いた。
しかしその呻きは何ものかに押さえられ、声にはならなかった。
久しぶりの感覚に体に緊張が走る。
少し前に何度か襲われそうになることがあったからだ。しかしいつも他の2人も気が付いて追っ払ってくれた。
この国は男性同士に寛容なところもあるらしいが、このハーブ公爵家では奴隷の自慰や異性でも同性同士でも一切の性的行為はご法度だったからだ。奴隷長のビーマに相談すれば家令がすぐに頑丈な内鍵を用意してくれたし、犯人は必ず見つけ出して違うところへと売りに出されているほどだった。
だから安心していたのに。
とにかく暴れて他の2人に気付いてもらわなければならない。
「ごめん。怖がらせるつもりじゃないんだ。ちょっと大人しくしてくれないかな」
耳元で発せられた声にぴたりと暴れるのをやめた。
暗闇で姿が分からないがヴィネの声だった。驚きで固まっているとフ、と笑う声がした。
「ありがとう。ここじゃなんだから、ちょっと移動させて」
ヴィネは指をパチンパチン、と2回はじくとヨリの視界がグニャリと揺れた。
気が付いたときには一度だけ大掃除の為に入ったことのある、簡素であるが白を基調とした清潔感のある客室にいた。納屋にいたときの姿のまま、ヴィネに圧し掛かれた状態で。
まさかあの一瞬で井戸近くの納屋から侯爵家4階にある客室へと移動するなんて。
藁だらけの衣類、寒いから水浴びもろくにしていない汚い体で屋敷に入ってしまうなんて。
恐れ多くて、起き上がったヴィネのシャツを掴み詰め寄った。
「お、怒られる……。……怒られる! 戻して!」
「大丈夫だよ。結界張っているから。今、この屋敷で僕達に気が付いているのも師匠くらいだ」
ヴィネはつまらなそうに答えた。
そしてまた結界。結界というものがいまいち分からないが、本当に見えなく、聞こえなくしているのだろうか。
それでもこんな広くて綺麗なところにいることが不安で仕方ない。
藁だらけの汚い姿だというのに、すがるものがヴィネしかいないため、キョロキョロと辺りを見回しながら距離を詰めた。
そんなヨリの細い肩をヴィネはぎゅっと抱き寄せた。
擦り寄ったのは自分だが、触られるのはまた怖い。おずおずと同じような高さにいるヴィネを窺い見た。
ヴィネは真っ直ぐにヨリを見ていた。
いつもフードで隠されていたヴィネの目元。今は屋敷の人が着るような白いシャツにスラックスでいてとても魔術師なんかには見えない。少し幼さを残すが整った顔をした黒髪の少年がいるだけだ。
緑色の瞳は何かを探るでもなくただただ真っ直ぐにヨリを見ていた。
透き通った綺麗な瞳に見つめられ、心臓が少しずつ音を立てて早くなっているのが分かった。顔に熱が集まっていることも。こんな濁った灰色の瞳を持つ自分なんかが恥ずかしい。
そしてなにより、綺麗な瞳に見つめられては何かを期待してしまいそうな自分がいた。打ち消すように口を開いた。
「あの、この侯爵家では……」
「知っている。奴隷の性的行為が禁止されているのだろう」
思い上がりの恥ずかしさにさらに顔を赤くしてしまった。咄嗟に下を向いてヴィネには見られないようにした。
あの真っ直ぐな瞳に色はなかった。むしろ自分が色をつけて見ていたのではないか。
そのくせ、自分から断りをしようとしていた。顔から火が吹き出そうだった。
「この山の調査は明日で終わり、僕たちは王宮へ戻る。最後に会った日から調査も忙しくてキミに合える時間がなかった。僕はキミにどうしても確かめたいことがある。場合によっては公爵家のご法度を破ることになるかもしれないが、どういうわけか気になってしかたないんだ」
「キミも僕を気になっていると思うんだけど」と顔を覗かれ、素直に頷いた。
気になるか、ならないかと言われれば気になる。存在自体が未知のものである魔術師が気にならないわけがない。気になる、ということがヴィネの言うことと合っているかは分からないが、ヨリはずっとヴィネに合いたかったのだ。
それに未遂であっても男に組み敷かれた経験から怖さはあるが、ヴィネにされても嫌な気持ちにはならなかった。
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