オメガ判定は一億もらって隔離学園へ

梅鉢

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三年生編

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 二学期に入って少しすると新堂から進路について話をされた。
 俺以外にも何も考えていなさそうな人は絶対いると思っていたのに、やはりアルファ側がしっかりしているのか全員希望が決まっていた。
 なんなら夏休み中に七人ほどが番になるとかで辞めていた。ほとんど接点のないクラスメイト達ではあったが、がらんとした教室はかなり寂しいものがあった。
 残りの人数は十人となっていた。
 まだ継直も8番も残っていてホッとする。

「なんで急に辞めていくんだろう」

 休み時間に疑問を口にすれば、継直は興味なさそうに「さあ」とだけ言った。
 そこで隣にいた8番にも聞いてみた。

「辞める人たちに何か聞いたことある?」

 ガムを取り出していた8番は、口の中にそれを放り込むと何度か口をもぐもぐとさせた後に話し始めた。

「3番はアルファが十八歳になったからってのは聞いたけど。3番ももう十八歳なってたし。番うだけなら十六歳なればできるから、年下と契約した人なんかはアルファが十六歳なったからとかもありそうだけどね。みんなの理由までは知らないなー」
「はあ、なるほど」

 オメガの友人がまったくいないため、クラスでの情報が何も分からない。一年のときのトラウマからか、なかなか人付き合いというものに積極的になれないでいた。そもそも初めから得意な方でもなかったのに、輪をかけてしまった感じか。

「仲良くしていたわけじゃないけど知らないうちにいなくなられると寂しいものだね」
「そうかもね。俺は3番とそれなりに仲良かったから結構さみしい」
「8番は卒業までいるの?」

 素朴な疑問だ。この感じでは卒業までいそうであるけど。
 残念そうに眉を下げた8番を見て、心の中で「え、違うの?」と少し焦る。

「俺も本当は早めにここから出たいけど、俺の卒業まではここで安全に学校生活をまっとうして欲しいんだって。俺のダンナがね」
「なるほど」
「どこも一緒なんだな」

 俺たちの会話に興味ないかと思いきや、継直が呆れ顔で振り返っていた。
 継直も先輩に止められているため、卒業までここから出ることは叶わない。どんなに願っても、だ。
 また継直の愚痴が始まり、それに共感するものでもあったのか8番がうんうん頷く。
 二人の進路も結局は俺と一緒で“無職でアルファと一緒に暮らす”ということだった。無職、という響きが非常に気になるが、それがアルファ達の願いであるのは全員共通だった。そしてみんな世の中にでたあとの発情期が怖いというのもあって、甘えることにしたのだ、とも。
 無職で喜ばれる日がくるなんて思いもしない。

 しかも二人とも都内に行くらしい。
 これ以上ない嬉しい話だった。



 ***



 暦の上ではそろそろ衣替えだというのに、まだまだ残暑が厳しい日々。
 校内はどこも室温を快適にはしてるが、乾燥で喉がよく乾く。移動教室の帰りに継直と玄関横の自販機で飲み物を買っていると、久しぶりに那須野を見かけた。同じく飲み物を買いに来たのだろうか。
 以前はよく出会っていたのに、あの食堂の件から会うことはなかったから、きっと那須野が意識的に俺達を避けていたんだと思う。
 朝永と那須野に何があったのかはよく分からないが、他のアルファが近づくと朝永が非常に不機嫌になるわ怒るわで、こうやって偶然会うのすらゴメンだった。
 俺を認識したあと少し眼を見開き、しかしすぐに人好きする笑顔になった。継直が好きな正統派と言われる、以前のままの那須野だった。

 横を素通りしようとするが、なんてこった継直さんが「正統派じゃん」と声を掛けてしまっていた。

「ちょ……」
「久しぶり。最近全然見ねえな、お前」
「お久しぶりです」
「相変わらずイケメンだわ」
「そうですか、自分じゃ分かりませんね」
「よく言うわ。未契約のオメガには目の毒だと思うから早いとこ誰かと契約しろよー」

 継直の腕を叩き、止めるのもむなしく二人は会話を始めてしまった。
 まあいいか、俺だけ先を行けば。一人で歩くのは禁止されているけど、教室は一階だし、玄関からもかなり近い。今ならまだクラスの生徒もその辺にいるはずだ。

 そろそろと歩き始めると、大きな手で腕を力強く掴まれた。熱をもったそれに驚き、咄嗟に振り払うと那須野が不思議そうにこちらを見ていて、そして継直は不思議そうに那須野を見ていた。
 なんなんだ、と言いたくなったがあえて口を噤んだ。

「先輩」
「おい、そいつに絡むとまた北原にやっつけられるぞ」
「そう、北原さん。北原さんね」

 自分に確認でもするかのように何度か頷き、笑顔を消している那須野はしっかりと俺に向き合ってきた。

「あの北原さんが惚れたんだ。先輩は普通のオメガじゃないのでしょう?」

 何を言うかと思えば。
 しかも本気で分からないって顔で聞いてきやがる。あの朝永が俺を好きになって、だから俺は普通じゃないってどうしてそうなる。なにか人より秀でた、または特殊なものでも持っていないとおかしいということか。
 確かにそう考えるのが普通なのかもしれない。俺に朝永のような人が惚れる、その理由が説明できない。

「いたって普通のオメガです……」

 気分のいい会話でもないため、じりじりと後ずさっていた俺は、脱兎の如くその場から逃げた。継直から「おい! 置いていくなよっ」と非難めいた叫びが聞こえるが無視だ。継直は分かっていて那須野を引き止めたのだから。

 涼しい教室内で息を整える。
 なんとなく胸に広がる違和感は、戻ってきた継直によって解消された。

「なんかあいつ、北原のこと好きなんじゃね」
「あっ」

 まさか朝永がこの会話を聞いているとも思わず、俺達は好き勝手に話し始めた。

「そう思う?」
「いや、分かんないけど。なんとなく。お前に絡んでくるからてっきりお前狙いかと思いきや、ずっとそんな感じじゃなかったからなー。じゃあ、お前じゃないなら誰なんだ? と。でも北原が好きっていうよりちょっとした執着っぽい気もするけどな」
「あー、ああ、あるほど。そうだよね。俺達によく話しかけてきてたけど、俺は椋地が好きなんだと思ったこともあったよ。でも朝永かもって思ってきてる」

 買ったばかりのイチゴオレにストローをさし、喉を潤す。が、イチゴオレが飲みたかったはずなのに、今はもっとさっぱりしたものが飲みたくなった。短距離ではあるが久しぶりに全力疾走してしまったためだ。全部那須野が悪い。

「オメガに興味は無いのかもな。勿体ない。アレだったらすげーもてると思うんだけどな」
「二年のオメガ達は好きそうではあるね」
「まあ、北原には憧れの先輩って感じでもあるし、あまり害は無さそうだから大丈夫だろ。なんかあっても北原だし大丈夫だと思うけど」
「うん」

 椋地はアルファからもてているらしいし、朝永も多少は憧れ含めてアルファから好意を貰うこともあるのかと、ちょっと安心してしまった。私怨をたくさん持たれていると聞いてしまったからかもしれない。嫌われるよりは好かれた方がいいのではとも思っている。
 ……好かれすぎるのも問題だとは思うけど。そうだ、相手はアルファなんだ。力ずくで負けるとは思わないけど、アルファの奴らは何をするか分からない奴らばかりだった。
 いらない心配かもしれないけど、一応朝永にも言ってみようか。朝永のことだから陰から襲われることはないかもしれないけど、古渓が先輩アルファに悪いことをしていたこともあったし。
 思ったら即電話だ。
 これから夕食とのことで、そこでじっくり顔を見て話すことに決めた。電話だと表情が見えてこないから朝永の口調だけでは何を思っているか分からないし。


 
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