オメガ判定は一億もらって隔離学園へ

梅鉢

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2年生編

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 年中忙しい朝永、合同実践の時は明後日に実家と言っていたのに、その日の夜に消えてしまった。夕食の約束をしていたのに『今日からになったごめん』なんてメッセージが着たけどちょっと悲しくて無視をしている。始業式前に戻ってきて、そして2週間でまた帰ってしまうなんて。

 継直に愚痴るが「はいはい」と適当にあしらわれ、食堂の入り口で椋地に会いさらに愚痴っていた。自分でもそのくらいは我慢するべきとは思いつつ、言いたい。そう、言いたいのだ。

「だいたいそんな忙しいことある? 高校生だよ。アルファの事情も朝永の家の事情も分かんないけどさー」
「分からないなら言わないほうがいいんじゃない。黙ってなよ」

 冷たいことを言う椋地は音を立てながら蕎麦をすすりはじめた。
 黙っていたいのは山々だけれども、ちょっとくらい愚痴を零したっていいじゃないか。
 継直も椋地とはあまり合わないようだが、これにはうんうんと頷いていた。
 完全にアウェイの空気に変わったので仕方なく豚カツ定食に手を付けることにした。今日はなんだかがっつり豚肉が食べたい気分だった。
 単純なもので、衣さくさくのカツに癒されてしまう。心の中で念仏のようにうまいうまいと唱えていると、弾んだ声が「こんばんはー!」と頭に降ってきた。

「朝永くんいないんだ?」

 顔見知りとなってまだ日の浅い朝永の弟くんが黒いお膳を持ってこちらに笑顔をむけていた。

「いないってか、実家に戻っているみたいだよ」
「ふーん、相変わらず忙しいね」

 そう、朝永は忙しい。だが弟くんは忙しく無さそうだ。この兄弟の差はなんだろう。いつもなら朝永が追い払ってしまうが、こんなときこそちょっと話を聞いてみてもいいのでは。

「座りなよ、弟くん」
「いいの?」
「いいよ」
「嬉しい! おじゃましまーす」

 にっこり笑顔の弟くんは椋地の横に座った。この2人もハトコになるのか。目の前に顔面のいい人が2人も並んでいて少し緊張する。でも1人は見慣れているはずなんだけど、朝永じゃない誰かと一緒と言うのがいつもと違って椋地を一層余所余所しく見せた。

 弟くんは朝永よりも表情が豊かで、短髪だから眉毛の動きもよく分かる。今どんなことを考えているのかが朝永よりも分かりやすい。と思っているが、実際どう思っているかは違うらしいのであまり表情を観察するのはやめておこうと思う。

「弟くんは朝永みたいに家のことしなくていいの?」
「別に親に借金してないし」
「借金?」
「朝永くん、すげー借金しているよ」
「な、なんで……」

 借金と聞くと、なんだか恐ろしいイメージがある。しかも金持ちのすごい借金とはどのくらいなのか。
 カツに視線を落としたまま考え込んでしまう。

「去年の梅雨時期くらいになにやら欲しいものが出来て、腕のいい職人を独立させてその欲しいものを作らせるために結構使ったみたいだね。それも免許制? だったかな。免許の取得に4千万近くかかって、取得と言っても国内の免許数は決められてて、免許持ちの会社一個をまずは買収したんだかしてないんだか。直接聞いてないから違うかもしれないけど」
「免許? 欲しいものに免許……」

 車の免許に4千万て掛かるのかな。いや、4千万もかかるなら誰も車の免許を取らないだろう。俺も取らないと思う。それよりまだ18歳になっていなかった。それほどお金を掛けて欲しいものってなんだろう。気になる。
 朝永だったら絶対教えてくれないだろうけど、弟くんは話してくれるし、このチャンスを逃すまい。
 何気ないふりしてご飯をつつきつつ、質問を続けた。

「そんなに高いものが欲しかったのか。それを親に金を借りてやったってこと?」
「そうらしいよ。俺達は一応好きに使えるカードもあるんだよね。朝永くんはかなり好きに使ってくれているらしいから、朝永くんも自主的に父のところに行っているかもね」
「そうなんだー……」
「だってこの学校お金掛かりすぎだもんねぇ」

 そうか、アルファはここに入るだけでも数千万は掛かっているのだった。ちょっと普通じゃない感覚に慣れてしまっているが、どう考えてもそれだけの金を払って入りたい学校ではない気がするのだが。俺がアルファなら入らないだろう。いや、アルファになると考え方は変わるのだろうか。

「……その欲しいものって、何か分かる?」
「そこまでにしていたほうがいいと思うよ」

 今までだんまりとしていた椋地が刺すような視線をこちらに向けていた。
 確かに止められるなら椋地だよな、とは思っていた。でも黙っていたから興味がないと思っていたけど、やっぱり椋地は朝永側なのか。いや、そりゃそうだ。

「朝永くんの欲しいものなんて俺はそんなに興味なかったから聞いてないけど、父親は分かるんじゃないかなー。あと兄さんあたりとか。でもその感じだと颯くんも知ってるんじゃない?」
「お前もいい加減にしなね」
「相変わらず朝永くんの味方なんだね、颯くん。いい加減俺にしておきなよ」

 朝永の借金と欲しいもの一色だった脳内は、2人のやりとりに呆気に取られて真っ白になってしまった。
 だって、弟くんが年下とは思えない流し目で椋地を見て、そして椋地の髪の毛を意味ありげに触るから。

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