オメガ判定は一億もらって隔離学園へ

梅鉢

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朝永

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 ブーッとブザーが鳴り、通信が途切れた。
 目の前にある薄暗い窓からは、夜詩人がベッド上で横たわっている姿が見えている。俺のカーディガンを咥えたままで。
 夜詩人がいる隔離部屋からは無駄に大きい鏡にしか見えないが、暗い裏側の閲覧部屋からでは部屋全体が丸見えだ。ここと夜詩人のいる部屋とはマジックミラーと分厚いガラス越しでしかない。通信の切れた今、無防備に裸でゴロゴロとしている夜詩人は俺がこんな近くにいるとも思わないだろう。

 きっと酷い発情中もずっとああやって俺のカーディガンにすがり付いていたと予想できる。カーディガンの話をしたときの夜詩人の焦りようといったら思い出すだけでも笑えた。小動物のようでかわいかった。
 確かにそのまま返すには気が引けるほどボロボロだった。でも俺の匂いが染み付いただけのあんなカーディガンくらい何枚でもあげるのに。

 先ほどの気持ちよさそうな夜詩人の痴態を堪能し、俺自身も勃起していたがここで抜くのも味気ないので我慢することにした。
 俺の声を欲しがり感じまくる姿は本当にかわいかった。何も知らなかっただろう男子学生だったのに、オメガと知らされてから戸惑いも明けぬうちの発情期。それなのに素直に乱れて感じて。後ろをいじる手も拙いものだった。精一杯手を伸ばして感じるところを探しているようで。
 もっと気持ちよくさせてどれだけ乱れるか見てみたい。先ほどは声を我慢していたようだが、好きに喘がせたらどんな声を聞かせてくれるのだろう。そして勝手に濡れてくるあそこに押し入ったらどれほど気持ちいいのだろう。

 オメガはみんな外見がいい人が多い。
 そんな中、夜詩人はそれほど秀でたものを持ってはいない。だが初めて見たときから四方を囲い込みたくなる、どこか無垢なものを感じた。もう校内でどこにいても嫌でも見つけてしまう。五感が研ぎ澄まされたように夜詩人の気配にも敏感になった。昨日、連絡をくれてどうしても気になった。お陰で発情はじめの夜詩人を、他のアルファの前に晒さないことが出来て本当によかった。
 去年からこの学校にいるためたくさんのオメガと会ってはきた。今年入ってきたオメガクラスの人たちを見ても感情が揺れてしまうな、と感じるのは今のところ夜詩人だけだ。男も女も興味がなかった。去年体調を崩し、アルファであると診断され、この学校でオメガに出会ってからは男でも無性にかわいいと思えて困ったものだった。ほとんど年上オメガだったが。だがそれも観察する内に浮わついただけのものと知れた。

 通信時間は終わったがまだ部屋の閲覧時間はある。いやらしい姿を見せていた夜詩人はもう動く気配はなさそうだったが、その場でジッと部屋の中を見ていた。ニ日目でこの程度なら割りと軽い発情期の部類だ。初めてだからこの程度ですみ、この先はもっと酷くなるかもしれないが。
 そういえば一年のオメガ生徒の発情期は何人か閲覧したが、ニ年や三年のオメガの生徒の発情は見たことがなかった。
 勉強のために見てみるのもありか。

「閲覧だけだとあと何分?」

 一緒に夜詩人の痴態を眺めていた椋地は、腕組みをしながら聞いてきた。
 朧気ならやめようと思っていたが、夜詩人の意識がはっきりしていそうだったことと、自慰をし始めたので意地悪心で思わず課金し、通信してしまったけど。残りはあと、

「三分くらいかな」
「ふうん」

 十分十万円。十分を一単位としてこの閲覧部屋が購入できる
 オメガの発情中の隔離部屋を閲覧できる権利だ。
 そして通信付だとさらに一分十万円かかる。これは一分を一単位としての購入となる。
 常に誰かに見られているかもしれないとはオメガたちは知らされていないし、これはアルファだけの閲覧制度だ。
 それをアルファからオメガに教えることもNGとなっている。
 以前惚れ合ったアルファとオメガはこの部屋の制度について相手のオメガに伝えたところそのアルファは強制退学となった。その後も国の権力を使ってアルファにとっては苦痛と感じるなにかを強いられたらしい。あくまで噂のレベルだが。
 他のアルファに見られたくないのならオメガの発情期中の時間をすべてを買い取ればいい、というこの学校の考え方だ。
 まったくオメガにもアルファにも優しくない学校だ。

「名前も知っているんだ」
「ああ、夜詩人ね。かわいいだろ」
「そうだね」

 素直にそうだねと答えた椋地に違和感が残る。
 夜詩人を見に行くと椋地に伝え、それなら一緒に、とここまで来たが。
 未だベッドに横たわる夜詩人を眺め、視線を逸らさない椋地。

「椋地は夜詩人が欲しい?」
「さぁ。どうだろ」
「勃ってるぞ」
「そりゃあね。匂いも思い出したし」

 確かに分からないでもない。
 それにシャワーを浴び終わって部屋に戻ってきたときの夜詩人は、濡れた髪の毛に綺麗な肌を惜しげもなく晒し、ただ一つ真っ黒い首輪だけの姿に眩暈がした。
 首輪を引きちぎってあの白い項に顔を埋めたい。そんな衝動も湧き上がって。
 乱暴なまでのこの衝動は抑えなければならないし、夜詩人に欠片でも見せてもならない。
 怖がられてはおしまいだ。

 そしてまだ俺には家に提出しなければならないことがある。他のオメガ達の個人情報を集めなければならない。
 我ながら面倒な家に生まれたものだと静かに息を吐いた。

 夜詩人を手中に収めてしまえばもう少し気分も落ち着くだろうか。
 硬い真っ白な紙に、真っ黒い色水を浸透させるようにゆっくりと夜詩人に侵蝕していきたい。

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