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俺と先輩3
しおりを挟む「タイスケが俺でいっぱいになって、俺のことしか考えれない、考えてない、というか俺が与えた痛みしか感じてないと思うとさ、マジで、こう……。足を広げるたびに顔を赤くさせて焦って、体を引っかけば声を上げて身を捩って、とにかく俺のやることなすことに反応するタイスケがあまりにも可愛くてね、ついつい」
恥ずかしすぎる変態発言が聞こえ、俺はゆっくりと布団をめくってベッドに座る先輩を恐る恐る見た。
そこには穏やかに唇を上げた先輩の笑顔。俺の脳に刻まれた行為中のあの悪魔のようなものではなく、微笑みかけるような優しいものだった。
空しくて、辛くて、でも我慢できていた涙がなぜかここで溢れた。
だって先輩の顔が見たことないくらいに、いや、初めて見る優しいものだったから。
歪んだ笑みが得意の先輩なのに、あの笑顔が先輩の笑顔だと思っていたのに。
なんでそんな優しい顔で俺を見ているんだよ。
泣き顔が好きなはずの先輩は、涙を流し始めた俺に少しだけ困ったように首を傾げてそれがまた涙を流させた。
「あのな、もう一度聞くけど、俺はお前に痛いことを平気でしちゃう人間だよ。……本当にそれでもいいのか?」
いい、いいよ。
泣きながら夢中で頷いた。
そんな俺に先輩は「やっぱりお前はバカだ」と言って優しいキスをくれた。
だって先輩、こんなに痛くされたのにやっぱり先輩を嫌いに慣れなくて、それどころか何をされても好きだから空しく辛くて。
なのにそんな優しい笑顔をくれて、キスをくれて。
ダメだよ先輩、俺はもう先輩じゃなきゃいやだ。
丁寧に、慰めるように唇を啄んでくる先輩の首に腕を絡ませて口付けを深いものとした。
先輩はキスが上手で、これは先輩を好きになった一つの原因でもある。
「……すき、せんぱい」
やっとで離れた唇、間を置かずに言った。
甘いとろけるような時間だったから言わずにはいられなかった。
やっぱり酷い声だったけど、今回は笑われなかった。先輩は優しい笑顔のままだった。
でも、フと口元を歪ませて。
「俺もお前が好きだよ。それこそ痛めつけたいくらいに。俺は二度『痛くする人間だ』と言ったんだからな、覚悟しろよ」
初めて先輩から「俺が好き」と言われ、本来なら舞い上がるはずなのに全然喜べない。
顔を青くする俺に「好きなやつは苛めてなんぼだ」とあの嫌な笑みで言われた。
きっとそれが先輩の愛情表現のようなものなのだろうとは理解した。したけど受け入れられるかは別問題で、でも俺は痛くてもいいと同意して。
「三度目は聞かないよ。もう逃がさないって決めたし。タイスケの泣き顔に叫び顔はマジでイイから」
ちょっと嬉しいような、全然嬉しくないような…。なんとも言えない台詞だと思った。
唖然とする俺に合わせるだけのキスをして「こんな俺はきっとタイスケだけしか見たことないよ」と言われ胸が躍った。
俺だけ、俺だけしか見たことがない先輩。
そう考えると一気に嬉しさが勝つ。微妙だった台詞すらすんなりと俺の中に入ってきて。
流されているとも知らずに。
どうにかこのドSの先輩を正常に戻すかを考えたが何も思い浮かばず。
それどころか痛みに少しずつ慣れてきた俺はそこに少しだけの快感が生まれていくのが分かって焦った。わざと痛くしているのが分かるのに、俺だって痛いのに、それでもどこか体の奥が疼いて。
どうやら俺がM属性へと変更しているらしかった。そんな俺に気が付いた先輩は心底嬉しそうな表情で笑った。
その笑顔にときめいて「Mになってきてよかった」などアホなことまで考えてしまって。
キスだけはいつでも優しくて甘いものだった。
だからどんどん好きになっていった。
「逃げるなよ」と俺に言った先輩だけどその台詞は俺も言いたい。
だから言ってみた。人の体をこんな風にして、先輩こそ逃げないでくださいと。
そのときの先輩の驚いた顔といったら今思い出しても笑えてくる。
でもそのあと不適に笑い「タイスケのくせに生意気」と言って酷くされたことは思い出したくない。
おしまい
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