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俺と先輩2
しおりを挟む先輩は嘘つきだ。
出会ったころ、自分でもそう言っていた。人に嘘を付かれるのは大嫌い、でも自分は嘘を付くのが大好きと。
言うこと、やることなすこといちいち憎たらしい先輩だとは十分知っていた。軽くて、その場のノリだけで話をするような性格にもイライラしたりもした。
どうにもこうにも惹かれる要素が何一つとしてないはずなのに、どうしてこんなに好きになるのか。それは考えに考えたことだけど、ただ先輩が恋しくてたまらないとしか言えなかった。
はっきりしたものがない。でも好き。
例え嘘つきだとしても、ドSだとしても。
でも言わずにはいられない。
ベッドに横たわったまま、パンツ一丁で床に胡坐をかく先輩に睨みをきかせた。
「……嘘つき」
ガラガラに掠れた声。中学校のとき体育祭の応援練習の扱きにあって以来の掠れようだ。
本当はもっと言いたいことがあったけど一度声を出してみたら声を出すのも面倒だと分かって、それ以上は口にすることをやめた。それにきっと先輩は俺が何を言ったって楽しむような人だろうし。
「すげー声。おっさんキャラで売るニューハーフみてぇ」
何か飲み物の入ったマグカップを片手にゲラゲラと俺を笑う。心底スッキリしたという顔だ。
声だけで笑われて泣きそうになった。悔しくて。
知らず知らずに唇を震わせてしまって、見られたくなくて毛布をかぶった。そのとき体を丸めたのだが、あまりの腰と尻の痛さに呻かずにはいられなかった。
だいたいこんな体験は二度目だとしても、あれからずいぶんと時間も空いているし初めてと言ってもいいくらいなのに有り得ない体位をいくつもやらされた。もしかしたら普通なのかもしれないけど、俺にとって正常位以外はすべて変態行為に感じるから仕方ない。体の硬い俺の足をコレでもかと開き、その状態のまま押し潰したりして股関節が異常に痛い。
大体まだ十分に解れてなかっただろう場所に無理矢理押し入ってきたのがすごく辛かった。
「痛い、痛い」と思い切り叫んで、近所に聞かれでもしたらと焦って止めるかと思ったのに「この部屋元はピアノ部屋だったんだ。超防音きいてるから叫びたい放題だよ」なんて悪魔の声が聞こえたときは一瞬眩暈がした。
それからずっと叫び通しだった気がする。
ほんと、思い出したくない行為。好きな人として幸せのはずなのに幸せが何一つとして感じられない。大体先輩から愛しさというもののかけらも感じられなかったからジンワリと空しさが胸を締め付けていった。
痛くてもいいといったのは俺だけど体だけという関係ほど空しいものもない。それでもいいという人はいるだろうけど、俺はそこまで起用じゃないし割り切れるような人間でもない。女々しさ爆発な人間なのだから。
あの屋上の日から大切にはしてくれていたと思う。
でも実際こうなってみるといかに自分がバカバカしいことを言ったのかがよく分かる。
瞼がジワリと痛み出して毛布をかぶったまま目を閉じた。とてもじゃないけど動けないし、このまま寝たフリでもして涙が出てこないように気を張るしかない。
そんなことを思っていると先輩が立ち上がった気配がした。ぺたぺたと床を歩く音が近付いてくる。
まだ泣いてないけど目は赤いだろうからどうか先輩が毛布を捲りませんようにとギュッと手を握った。
ギシ、とベッドがきしむ。それと同時に俺の体が強張った。
「もう嫌いになった?」
嘘つきでドSな先輩。嫌いになれたらここまで考えないよ。憎たらしいのに、それでも好きだから俺にもどうしようもない。
「俺ね、好きなやつには痛くしちゃうのよ。ガキだから」
ドSをガキという言葉で済ませるつもりだろうか。ガキならあんなセックスはしないだろうが。とは言えないけど。
でも好きな奴があんなに痛いと叫んでいるのに笑顔で腰を動かすことが出来るのだろうか。好きな奴を相手に、あんなに痛いことをしたがるのだろうか。
本当に好きならもっと…。
考えるとどんどん辛くなってギュッとシーツを握った。
「なんかねー、タイスケの泣き顔見てるとね、こう、ゾクゾクしてさ。なんてゆーかな。今タイスケは俺に痛いことされて泣いてるんだーと思ったら我慢できなくてねー。涙を流しながら必死で許しをこう姿なんてキたよー。タイスケは何一つ悪いことしてないのに。でも俺がそれをさせていると思うとたまんなくて」
いつになく真剣な声でものすごく変態発言をされて目を見開いた。
先輩は真性の変態だった。
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