痛がる人を見るのが大好きな先輩との話

梅鉢

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空と先輩2

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ドアも直って、先輩とその友達は俺の傍に来た。
俺は一歩も動くことが出来なくて、先輩をみることも出来なくてただ俯いていた。

「何? 元気ないね、お前」
「いや、……暑くて」
「まーね。でもここ、風気持ちいーな」

会話が途絶えた、と思うことなく先輩の隣にいた人が「二年?」と話しかけてきた。
気まずい思いをしなくてすんでよかったと肩を撫で下ろし、その人をちらりと見て頷いた。

先輩よりも5センチは背の高いその人、見たことある人だった。先輩と同じ集団にいて、時々先輩と二人でいるのを見かけたから。
頻繁に髪型を変えては目立っている人だった。夏休みの間に固めのパーマからボーズにしたらしく涼しそうな頭になっていた。

「キミ、碧と仲良くなんないほうがいいよ。こいつ男もいけるからね」

楽しそうな声。
きっと何気ない一言だろうけれど、今の俺に打撃を与えるには十分だった。
どうやったらこの場から逃げることが出来るのだろう。
足はどうやったら動かせるのだろう。
ジリジリとした太陽の暑さだけが俺の感覚だった。
もし関わりをもつ運命なら、こんな中途半端じゃなくてもっともっと親密な関係がほしかった。

そう、先輩との距離が0の、この喜田って人のように。
この暑いさなか、二人の距離は1mmもない。汗ばんだ腕がぴったりとくっ付いている。
それも先輩のほうから近付いているように見えるのは気のせいだろうか。
それに皆「トーノ」と呼ぶのに、この人は名前で呼んでいた。

しまったはずのものはいつの間にか飛び出していて。

「あのねーこいつはすでに俺にメロメロよ?」

下を向いたら強引に肩を抱かれ、体が強張った。
今度は先輩と俺の距離が0になった。

「うわーマジで? カワイソウにー」
「ばーか。タイスケはMだから俺とぴったりなのー」
「どーせ無理矢理だろー」
「でもネコちゃん素質たっぷりだよ」

「なぁ?」と、緊張で顔を上げられない俺に先輩が覗きながら言う。
メロメロなのは認めるけど、人に言ってほしくなかった。
それにMでもない。この先輩はどこまでも俺のことを考えていないのだろう。

頭にきて乱暴に腕を振りほどけば、驚きながらも笑顔の先輩が目の前に。
俺が何を思っているのか察したのか、喜田さんは「碧クンは人間的に出来も悪いし性格も悪いからあまり本気にしないでね」と言った。
けどそんなのも無視だ。
俺よりも長い間一緒に過ごしてきたのも知ってるし、当然俺より先輩のことを知っているのも分かってる。
でも他人の口から先輩のことを聞くのは面白くなかった。くだらない嫉妬だったけど、どうしようもなかった。

「俺っ、……先輩に好きだって言ったけど、オモチャになるつもりで言ったんじゃない」

興奮のせいで自然と息が上がる。
それが恥ずかしくてゆっくりと呼吸した。

「痛いことされてもいいって、言ったけど、…でも、こう時々会ったときにだけ弄られるようなつもりで言ったんじゃ、ない」

それまで少し困ったような表情だった先輩。
もっと困らせたくて「本気で言ったのに」と言ったら、一瞬だけ苦しそうに、辛そうに顔を歪めた。
俺の本気を知ってほしくて先輩も悩めばいいと思ったけど、その顔を見たら言ってはいけなかったのだろうかと後悔が出てきた。
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