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陰と先輩5
しおりを挟むふう、と一息付いて肩を下ろす。
するとしつこかった先輩の手がするすると俺から離れていった。
「じゃーしてもらおうかなー」
本当、いい性格してるよ、先輩。
「もっと陰に行こ。間違っても誰にも見られないように」
こんな授業中の中庭なんて誰も見ていないとは思うけど、それには賛成だ。俺だって誰にも見られたくない。男とこれからキスするんだから。
立ち上がった先輩は俺の腕を取ると木陰と連れて行く。木に俺の背を預けさせ、腰を抱いてくる。
さすがにこの格好は恥ずかしいどころか気が気じゃないんだが。
「あの、この手は……」
「早く」
にやにやと俺を見下ろす先輩は、本当に意地が悪い。人も悪い。性格も悪い。
けど、目の前にある、この顔だけはいい…。
「目……、目、瞑って、ください…」
目を細め、綺麗に笑って、先輩は素直に目を閉じた。
俺だったら人前で目を閉じるなんて恥ずかしくて出来ないし、したくないけど、こんなこともさらりとやってしまう先輩はきっと経験が豊富だとイヤでも考えてしまう。
あんなかわいい彼女もいるくせに。
あ、彼女。
「先輩、彼女! これ彼女に悪くないですか!?」
とてもいいひらめきだと思った。もう、彼女の話を出せばこんなことしたら罪悪感が出るに違いない。
すっと瞼を上げた先輩は無表情で俺を見た。
笑っていない先輩はちょっとどころじゃなく怖くて俺は肩を竦めた。
でも、俺は間違ってない。
「……お前ねぇ」
「え? ちょ、……んうっ……」
彼女のことを持ち出した途端、それまで気味が悪いくらいの笑顔だったのにいきなりムッとした表情に変わった先輩は、俺の頭を木に押さえつけて無理矢理唇を奪った。
きっと先輩は罪悪感が沸き起こって、それを拭うみたくキスをしたんだと思った。でも、悪いと思うからこそキスはしないと思う。
乱暴に押さえつけれられたのに先輩のキスはとても優しくて、でも激しくて。器用にうごめく舌先は俺の舌を絡め取って。そしてそれを吸われて。
息をしようにも出来なくて、時々漏れる声が太陽から俺たちを隠してくれている木陰に響いた。
名残惜しそうに離れた唇、それを薄く開いた目で追うとその唇から「タイスケ」と囁かれてまた口付けされる。
嘘の名前は言ったけど、本当の名前は教えてなかったと思う。どこから聞いたのか分からないけど、この先輩を敵に回すのはやっぱり怖いと再確認した。
角度を変えて深くまで口付けされて、それは俺をどんどんぼんやりさせる。無意識のうちに先輩の胸にしがみ付いていた。先輩は俺の後頭部を抑えてどこまでも求めてきて。
正直、すごく気持ちが良かった。ふわふわとした浮遊感。
満足したのか、先輩は俺から離れて勝ち誇ったような表情で俺を眺めていた。
俺はどんな顔をしていたか分からないけど、もう自分で立っていられなくて。先輩の彼女のことなんても頭になくて。
でも、先輩。
「……なんで、俺にこんなことするの?」
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