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夜と先輩9
しおりを挟む霧吹きで液体を掛けられる。
「なに……?」
「水」
なるほど。一応これで汚れを落とすのか。
ガーゼで血を拭いてはまた霧吹きで水を掛けていく。それを何度か繰り返した。
傷口を触られるたびひやひやした。少し背中に冷や汗が出ている。
でも、我慢できる痛みだったので、とにかくじっとして手当てが終るのを待った。
男らしい先輩の手は器用に汚れを落としていく。
その手がぴたりと止まって肘掛に背を預け、寝そべる俺に先輩が笑顔を向けた。あの胡散臭い、俺が嫌いな笑顔。
一気に鳥肌が立つ。
「じゃ、消毒ねー」
「あ、あの」
嫌な予感がして起き上がろうとしたら先輩の腿に乗せていた足、膝裏をぐいと持ち上げられ、俺の胸に付くくらいに押し付けられた。
嫌な予感は的中。
「せんぱいっ!?」
「消毒、消毒」
消毒よりなにより、この体勢は。
あの行為を思わせるような足の開き方、その上に被さるようにしてきた先輩。俺の奥と、先輩の中心がくっ付いている。
口を歪めて笑う先輩はとても怖かった。こんな体勢で消毒なんて出来るはずない。
手で力強く押さえつけられた足をなんとか自由にしたくて、でもこの体勢が恥ずかしくて顔を背けながら先輩の腕を掴む。俺の力なんて効かないみたいで先輩の腕はびくりともしない。
「せんっ、ぎゃっ!」
びりっとした痛みが走る。
先輩から顔を逸らしていたためそれがなんだか分からなくて、おそるおそるそこを見れば、先輩は俺の膝、傷の付いた膝をぺろりと舐めていた。
「き! 汚いですよっ!」
「鉄の味がする」
「せ、せんぱっ! 痛っ……」
舌先に力を入れ、傷口を抉ってくる。
先輩の整った顔がすぐ近くにある。膝を舐める舌の動きはいやらしくて、そんな先輩から目が離せなくなっていた。
ちゅる、と吸われたり、傷はジンジンと痛むが、でも、音と先輩の舌の動きにその痛みが麻痺したように感じた。
体が熱くなる。
先輩は上目使いで、痛みとよく分からない疼きに拳を噛んで耐えている俺を見て、目を細めて笑う。
「する?」
「え?」
「エッチ」
エッチ?
「ししししませんっ! 帰ります!!!」
ちょっと、脳が麻痺していたけど、何言ってんだこの人は!
先輩も力を抜いていたので俺はすんなり起き上がれた。急いで先輩から離れて立ち上がる。
睨みはするが、きっと顔は真っ赤だから効果なんてない。
先輩も爆笑している。
体中が熱い。
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