痛がる人を見るのが大好きな先輩との話

梅鉢

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夜と先輩7

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ふう、と一息ついた先輩が俺を見下ろす。
俺も先輩を見上げた。

やっぱり先輩はどんなに悪くて酷い性格だとしても顔だけはいい。取り柄はきっとこれだけしかないと思う。人間、どこか一つくらい取り柄はあるんだなーと少しだけ感心していた。
このところどころにある街灯の明かりが俺たちを薄く照らしている。先輩はかっこいいけど、凛々しい顔つきじゃない。でも、つり目で黒い瞳がとても印象的で。体にほどよく筋肉がついているから男らしく見えるんだな、きっと。

自分がどんな表情で先輩を見ていたのかは分からない。けれど先輩が不適に笑うから、相当間抜けな顔をしていたのかもしれない。
無駄に色気を纏った先輩の笑顔。

その先輩の顔が近くなっていく。目を開けたまま、見ていた。
ああ、かっこいいな……って。

高校に入って唇に人の温度を感じるのは二度目。しかも短期間に。
一度目も、二度目も、相手は先輩。
起きたことは頭の中でもしっかりと分かっていた。
俺は先輩とキスをした。でも、どこか頭は働いていない。だって抵抗も何もしなかった。

「お前、頭も打っちゃった?」

やっぱり、こんな俺はおかしいのだろう。先輩は首を傾げて苦笑しながら俺に訊ねた。

うん、きっと、俺、転んで頭も打って、体全部がおかしくなったかもしれない。
だって先輩がかっこいいと思ったら、本当にかっこよく見えてしまって。
こんな間近に先輩の顔があるから見入ってしまう。

何も言わず、ただぼーっと先輩を見つめる俺の手を繋ぎ、先輩は歩き出す。自転車は先輩が片手で押しながら。
歩いてみると右足が痛くて、すこし引きずりながら歩いた。
それに気が付いた先輩は俺に合わせてゆっくりと歩いてくれた。

「俺ね、お前のこと、結構気に入ってんのよ」

そうは思えないんだけどな。
その言葉を心の中で反復した。

「ホームランじゃないけどね」

また野球ですか。
ホームランじゃないって、微妙に気に入ってる、って意味かな。
なんだか別に褒められてもけなされてもない気がした。

「ほら、ここ俺んち」

歩いて数分も経ってない気がした。後ろを振り返ると転んだ場所からそう遠く離れてはいなかった。
ここだと、俺の家からチャリで10分くらいかな。

先輩の家は沢山の緑に囲まれていて、とても静かそうな日本風の家だった。綺麗に手入れされた木々たちは、どうしても先輩の性格と結びつかなくて本当に先輩の家なのかどうなのか問いただしたくなった。

自転車を玄関前に止め、先輩が家の鍵を開ける。
そこでやっと我に返った。なにぼんやりしてこんなところまで来ているんだ。わざわざ悪魔のテリトリーに自分から足を踏み入れるなんて。

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