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夜と先輩5
しおりを挟むたった今彼女さんという存在で安心を手に入れたばかりだが、先輩に対して警戒が解かれたわけじゃない。やっぱり、この先輩とはどんなことがあったとしても関わりたくないのが、本音の本音。
だからさっさとここから去りたい。
が、先輩の雰囲気がそれを許さないようで。俺の目の前に立ち、動く気配がない。
「で、お前何してんの?」
「あ、家の頼まれものです…」
ふーん、と先輩は俺が持っているかごに視線を向ける。
「アイスばっかり」
「まぁ。母親が……」
「お前んち、こっから近い?」
「え?」
「家。近い?」
家が近いか近くないかも先輩に言いたくない。
この先輩には何も知られたくない。
「あの、アイス溶けちゃうんで……そろそろ……」
いい言い訳が出来たと思って先輩の隣を通り抜けようとしたら腕をがっしりと捕まれる。この俺にはない力強さが怖い。
何を言われるのかと思ってハラハラしていると、先輩は俺が持っていたかごをひょいと奪い取る。
そしてすたすたとレジに向かう先輩の背中を呆然と見た。
「……せんぱい?」
「これ買ってあげる」
「え?」
奢ってくれるというのだろうか。
「や、いいです! 親から金貰ってるし!」
「いーからいーから」
先輩はブランドの長財布をケツポケットから取り出して、精算待ちの体勢。そんな先輩を押しのけてレジの前に立とうとするが、力の差があるので反対に俺が押しのけられる。
同い年くらいの店員はやる気がなさそうで、俺たちのことなんてお構いナシにバーコードを読んでいた。
先輩に借りなんてつくりたくないのに。それにこれがあのときのお詫びだとしても、なんだか嫌だった。
アイスと雑誌分、約4千円弱を戸惑うことなく払う先輩。レジが終って袋を手にし、後ろでオロオロしていた俺に振り向かずに出口に向かう。
俺も急いで付いていく。
「先輩っ、これ」
店から出たところで先輩に5千円札を突き出す。しかしそれをちらりと横目で見られただけで無視された。
「お前歩き? チャリ? 親と車で来てる?」
「チャリです。つか、これ受け取ってください」
「あ、これ? 早く鍵」
店の前に置かれたチャリに堂々と跨る。それは俺のだけど、俺のじゃなかったらどうするんだよ。
と、いいますか。
「せんぱい……?」
「ついでに俺んちまで送ってよ。ここから近いから」
えええええええ。
いやだ。いやだ。いやだ。
その心境がどれくらい顔に出ていたのか分からないが、先輩は眉間に皺を寄せ、睨んできた。
「アイス買ってやっただろー。礼くらいしろよー」
そんな、勝手に買ったくせに……。
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