【完結】嘘つきヒロインの懺悔は王子様には愛の告白

嘉月

文字の大きさ
上 下
3 / 6

3

しおりを挟む
『リンジー、私怖いの。だって魔物も瘴気も沢山現れるんでしょう!?そんな場所で、しかもずっと野営なんて、私気が狂ってしまうわ』

泣き続けるナタリアを説得することに皆が限界を感じていたのは事実だ。平民とはいえ裕福な家で何不自由なく育ったナタリアが神殿に入ってからまだ日は浅い。いきなり「国の為に生きろ」だの「自分の事より民のことを優先せよ」と言われた所で心からの理解など出来るはずがないのだ。それを分かっていて、リンジーは利用した。

『いいわ、あなたの代わりに私が征伐軍と一緒に行く。貴女より力は弱いけれど私だって聖女だもの、誰も反対はしないはずよ。だからねナタリア、私の嘘に黙って頷いてちょうだい。』

震える背を撫でながら物分かりの良い優等生の台詞を紡げば、ナタリアは涙を溢しながら頷いた。未成熟な部分はあれ素直な子なのだ、自分の代わりに危ない場所に行く人がいることに罪悪感を感じたのだろう。まさか、それを当人が望んでいるとも知らず。
その誤解すらも利用して、私は嘘を吐いた。ナタリアと話し合った翌朝『ナタリアと私は昨夜、同時に同じ夢を見た。その夢見で今回従軍するのは私が適任だとお告げがあった』と。

「私よりは力が強いとはいえ、ナタリアも歴代の聖女に比べれば大した力があるわけではありません。それに癒しヒールの力に目覚めていないのも同じ。所詮、旗印としての従軍なのですから『聖女』であれば構わないのだと思っていました。それは神殿も軍も同じ意見でした。殿下もそう思われていたでしょう?」

聖女などと敬われようと、その魔法で叶えられる事などたかが知れている。成長グロウの力を使っても一夜で作物を成らせることは出来ないし、天候ウェザーも雨を晴れにすることは叶わない。魔法はもう、その程度の力しかないのだ。
実際、神殿も軍も王もリンジーが従軍する事に難色を示さなかった。極論、聖女が従軍しさえすれば騎士達の戦意は保たれるのだと。
でも、それが全てではなかったのだ。

「ナタリアはまだ力のコントロールが上手くありません。ですが、風を止めることは出来るのです……」

顔をあげてアルバート殿下の左肩に視線を向けると、握り込んだ両手でグッと胸を抑える。

「それはこの肩を負傷した時の事を言っているのかな?」

リンジーの視線に気付いたろう彼が、自らの肩にそっと触れた。傷はもう塞がっているだろうが、まだ痛むはずのその傷はリンジーが原因なのだ。こくりと頷き、懺悔を続ける。

は季節外れの強風のせいで瘴気が収まらず、そのせいで魔物も活性化していました。でも、風さえ止めたれたら……」

「僕が怪我をすることもなかった?」

「はい。落馬した私に魔物が襲い来ることも、それを庇った殿下の肩が魔物の爪に裂かれたせいで魔毒に苦しむこともなかった。全ては私が吐いた嘘のせいです」

恐ろしい光景だった。
大きな魔物が視界いっぱいに迫ってきたのも、その魔物を倒す際に怪我をしたアルバート殿下の肩が血でぐっしょりと濡れていくのも。

「ーーーなるほど。その理屈は間違っているとは言えないかも知れないな」

はぁっと大きなため息を吐いた後冷たい声音で言い放すと、大きな手がリンジーの視界に飛び込んできた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】婚約破棄寸前の悪役令嬢は7年前の姿をしている

五色ひわ
恋愛
 ドラード王国の第二王女、クラウディア・ドラードは正体不明の相手に襲撃されて子供の姿に変えられてしまった。何とか逃げのびたクラウディアは、年齢を偽って孤児院に隠れて暮らしている。  初めて経験する貧しい暮らしに疲れ果てた頃、目の前に現れたのは婚約破棄寸前の婚約者アルフレートだった。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

処理中です...