【完結】嘘つきヒロインの懺悔は王子様には愛の告白

嘉月

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この国では大昔、魔法が生活の中に溶け込んでいた。一説によれば、多い時には国民の三分の一が魔法を使えた時代もあったのだという。しかし、今ではその名残があるのみ。一世代に数人、ほんの少しの魔法を使える少女が出現するだけになった。魔法が使える少女に身分に関係なく、力が出現するタイミングも使える力の種類も大きさもそれぞれだったけれど、聖女と呼ばれ等しく尊ばれる存在になった。
そして魔法に覚醒した少女は皆神殿預かりとなり、その身を護られ、国の為に力を使うのが慣わしとなった。

「今代、魔法が使えるのは私とナタリアの2人だけです。私が成長を促すグロウの力に目覚めたのに対して、ナタリアは天候ウェザーの力。残念なことに癒しヒールの力を持つ聖女は出現しませんでしたから、本当なら今回の征伐隊に従軍するのは力の強いナタリアのはずでした」

聖女はその力により、与えられる役割が変わる。成長を促すグロウの力に特化した聖女は地方を訪れて森や農園で祈りを捧げ、時には学校で生徒たちの成長を願う。天候ウェザーの力なら王宮で王立科学院の学者たちや政府関係者と状況確認と話し合いを重ねて、自然界に悪影響が出ないように降雨や晴天を祈り、癒しヒールの力を使える聖女は病院や救護所に赴き、病人や怪我人を癒す。そして戦いがあれば隊に従い、過酷な戦地でその力で戦士を癒すのだ。
特に戦場に聖女が共に赴く事による戦意高揚は大きく、癒しヒールの聖女が出現していない時代には別の力を発現させた聖女を従軍させた程だという。

「今回の瘴気を撒き散らす魔物討伐は大掛かりで危険を伴うものでした。ですから聖女の従軍が是非にと望まれたのも当然だと神官様たちも皆様お考えになり、ナタリアが殿下と共に戦地に赴くべきだと意見がまとまっていたのです」

しかし貴族令嬢に生まれたリンジーに比べ力の発言した歳も遅く、しかも平民に産まれたナタリアには「責務」という考えは身に沁みたものではなかった。見知らぬ場所、しかも戦地とあれば並の少女なら怯えるのが当然というもの。神官達もリンジーも、ナタリアの恐怖を嘲笑う者などいなかった。ただ聖女として生きる者の責務に本人の意思は関係のない事で、意に沿わなくとも民のために行わなければならないのだ。

「ナタリアより数年早く力に目覚め、かつ伯爵令嬢として己が責務を幼い頃より教え込まれてきた私が、ナタリアを教え諭すのが当然の努めでした。でも、愚かにも私は彼女の無知を自分の欲の為に利用したのです」

「利用?」

「はい。利用です。彼女が後々、自分の決断を後悔するかもしれないことも、征伐軍にはナタリアの力の方が有益であることも全て分かった上で利用しました。自分の欲望を叶える為に」

俯いたままのリンジーの視界にはだらりと垂れたアルバート殿下の手が映る。馬鹿正直にこんな告白をしなければ、今頃はきっとあの大きい手に抱きしめられていたに違いないのに。
殿下と国のために全てを告白すると決めてなおそう考えてしまう自分の弱さに、小さくため息を吐く。


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