自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

嘉月

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疑問符ばかりが頭を埋める中、そっと見上げるとユーティリスはとても嬉しそうに微笑んでアンジェリーナを見下ろしていた。
それはまるで愛しいものを見つめるような蕩けそうな甘い眼差しで、居た堪れなくなったアンジェリーナはすぐに視線を下げた。

「きちんとお会いするのは今日が初めてだと思うのです。なのに急になぜ……」

控えめに口にした困惑は、ユーティリスの小さな笑い声で最後まで紡ぐことは出来なかった。

「ふふっ。なるほど、貴女にとっては初めてか。でも私にとってはようやく、なのですよ」

うっとりするような甘い声で囁かれた言葉はしかし、アンジェリーナの頭の中に疑問符を増加させただけで何の答えにもなっていない。
おずおずともう一度視線を上げて、小さく声を上げた。

「ようやく、なのですか?」

ユーティリスの腕の中でゆるく首を傾げると、彼の笑みはますます深くなる。

「ええ、ようやくです。ようやく、貴女を捕まえることが出来た。逃げられないと思って観念してくださいね」

更に追加された理解できない言葉に返事もなく固まった時、唐突に木々をかき分けるガサリッという音が聞こえた。
ハッとしてアンジェリーナ振り返ると、そこには木々に手をかけたままびっくりした顔で固まっていた王太子殿下がいた。

しばらく無言で見つめ合った3人の沈黙が破られたのは、殿下の固まっていた表情が破顔した瞬間だった。

「なーんだ、そういうことか。急に貴族の令嬢子息を集めて懇親を図ろうだの、勢力図の把握は不可欠だの急に言い出すから、どんな魂胆があるのかと思って後を付けてみたら……言い出した理由がやっと分かったぞ。俺も母上もユーティリスの恋路の手助けをまんまとさせられたって訳か」

大きな声で心底愉快そうに笑いながら茂みから抜け出した王太子がこちらに歩いてくる。流石に抱き合った体勢のままで迎えるのは不敬に当たるだろうとアンジェリーナは逞しい腕から抜け出そうとしたが、何故だか腕の力が緩むことはない。それどころか、ユーティリスは自身の主人に向かってニヤリと不敵な笑みを浮かべている。

「見つかってしまいましたか。きっちりと完全に捕まえてから殿下にはお知らせしたかったのに、残念です」

ちっとも残念そうではない口調でいう彼の顔は、そのセリフに反してとても楽しそうだ。これまた分からない、とアンジェリーナが困惑の表情を浮かべた時、ぐいっと顔を近付けて王太子に顔を覗き込まれた。

「なんと!爽やかな近衛騎士の皮を被った腹黒策士に捕まったのはアンジェリーナ嬢であったか。なるほど、あの兄を出し抜くためにはユーティリスといえど手段を選ばない訳だ」
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