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「ーーー申し訳ありませんでした」
アンジェリーナの勇気を振り絞った謝罪はやっぱり小さな声にしかならなかったけれど、きちんと届いたらしい。ユーティリスが小さく息を吐いて一歩近づいたのが分かった。下を向くアンジェリーナの視界に彼の靴先が入ったからだ。
「分かってくれたならいいんだ」
穏やかな声が聞こえたと同時にそっと髪に触れる気配がした。
「綺麗な髪ですね。素敵な色だ」
きっとこの生き生きとした茶色の髪のせいもあったのだろう。ユーティリスが領地でよく見るウサギは茶色のものが多い。
数年前の記憶を思い出して微笑めば、目の前のアンジェリーナは居心地悪そうな顔で「ありがとうございます」とだけ言った。
この先のことをユーティリスずっと、綿密な計画をすべく考えていた。絶対に逃したりしないと、その為にはどうやって言質を取ってしまおうかと。でも今、目の前で困った様子で立ちすくむアンジェリーナを見ていて、そんな緻密な計画は何処かに飛んでしまった。
心の求めるままに目の前の細い肩に触れ、そっと抱き寄せた。
突然抱き寄せられたアンジェリーナは混乱の極地にいた。みんなの憧れの貴公子が何故自分を抱きしめているのか全く分からない。わからないけれど、こんな密接した触れ合いを誰かに見られたら彼の評判が落ちてしまうことだけは分かった。だから、バクバクとうるさい心臓の音を聞きながら、どうにかできる限りの落ち着いた声を出したのだ。
「あああああの、誰かに見られてしまったらユーティリス様の評判に傷が付きます」
多少吃しはしたが意味は通じただろうと返答を待つと、何故だか返事は聞こえず抱きしめる腕の力だけが強くなった。
「だだだだ誰かが来たら、その、困ると思うのです」
これなら分かるだろうと思ったのに更に腕の力は強くなり、アンジェリーナはユーティリスの腕の中にすっぽりと抱き込まれてしまった。これでは熱烈な恋人同士の抱擁としか見えない。
どうにか注意を引きたくて、彼の胸にぴたりと当たっている自身の手をぺしぺしと動かして、ようやっとユーティリティが口を開いた。
「ここは奥まっているから誰も来ませんよ。それに誰かに見られたとしても私の評判に傷などつきません。勿論、貴女の評判にも」
ユーティリティが声を発するとその胸に密着している耳や手から振動が伝わって、アンジェリーナの体全体で聞いているみたいになる。
「いや、いっそ誰かに見られた方がいいのか。そうすれば、余計な手間が省けるし、貴女の兄君も諦めずをえないでしょうから」
「あ、兄がどうして……いえ、それより、やっぱり誰かに見られるのは良くないと思うのです。何よりこの格好は凄く恥ずかしいですから」
今度はユーティリスの胸に手を置いてぐっと突っ張ってみた。勿論、男性で近衛騎士である彼の力の方が強いから密着する体を離すことは出来なかったが。
それでもアンジェリーナの抵抗する意思が伝わったのか、ようやっと拘束していた腕の力が緩まり少しだけ二人の間に隙間ができる程度には体を離すことができた。とはいえ、相変わらずアンジェリーナの腰にはユーティリスの腕が巻き付き、腕の中にいるのだが。
アンジェリーナの勇気を振り絞った謝罪はやっぱり小さな声にしかならなかったけれど、きちんと届いたらしい。ユーティリスが小さく息を吐いて一歩近づいたのが分かった。下を向くアンジェリーナの視界に彼の靴先が入ったからだ。
「分かってくれたならいいんだ」
穏やかな声が聞こえたと同時にそっと髪に触れる気配がした。
「綺麗な髪ですね。素敵な色だ」
きっとこの生き生きとした茶色の髪のせいもあったのだろう。ユーティリスが領地でよく見るウサギは茶色のものが多い。
数年前の記憶を思い出して微笑めば、目の前のアンジェリーナは居心地悪そうな顔で「ありがとうございます」とだけ言った。
この先のことをユーティリスずっと、綿密な計画をすべく考えていた。絶対に逃したりしないと、その為にはどうやって言質を取ってしまおうかと。でも今、目の前で困った様子で立ちすくむアンジェリーナを見ていて、そんな緻密な計画は何処かに飛んでしまった。
心の求めるままに目の前の細い肩に触れ、そっと抱き寄せた。
突然抱き寄せられたアンジェリーナは混乱の極地にいた。みんなの憧れの貴公子が何故自分を抱きしめているのか全く分からない。わからないけれど、こんな密接した触れ合いを誰かに見られたら彼の評判が落ちてしまうことだけは分かった。だから、バクバクとうるさい心臓の音を聞きながら、どうにかできる限りの落ち着いた声を出したのだ。
「あああああの、誰かに見られてしまったらユーティリス様の評判に傷が付きます」
多少吃しはしたが意味は通じただろうと返答を待つと、何故だか返事は聞こえず抱きしめる腕の力だけが強くなった。
「だだだだ誰かが来たら、その、困ると思うのです」
これなら分かるだろうと思ったのに更に腕の力は強くなり、アンジェリーナはユーティリスの腕の中にすっぽりと抱き込まれてしまった。これでは熱烈な恋人同士の抱擁としか見えない。
どうにか注意を引きたくて、彼の胸にぴたりと当たっている自身の手をぺしぺしと動かして、ようやっとユーティリティが口を開いた。
「ここは奥まっているから誰も来ませんよ。それに誰かに見られたとしても私の評判に傷などつきません。勿論、貴女の評判にも」
ユーティリティが声を発するとその胸に密着している耳や手から振動が伝わって、アンジェリーナの体全体で聞いているみたいになる。
「いや、いっそ誰かに見られた方がいいのか。そうすれば、余計な手間が省けるし、貴女の兄君も諦めずをえないでしょうから」
「あ、兄がどうして……いえ、それより、やっぱり誰かに見られるのは良くないと思うのです。何よりこの格好は凄く恥ずかしいですから」
今度はユーティリスの胸に手を置いてぐっと突っ張ってみた。勿論、男性で近衛騎士である彼の力の方が強いから密着する体を離すことは出来なかったが。
それでもアンジェリーナの抵抗する意思が伝わったのか、ようやっと拘束していた腕の力が緩まり少しだけ二人の間に隙間ができる程度には体を離すことができた。とはいえ、相変わらずアンジェリーナの腰にはユーティリスの腕が巻き付き、腕の中にいるのだが。
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