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第9章
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勿論そんな希望が叶うはずもなく、手をひかれたまま進んだ庭園で連れられるままにお庭を見学する。
そこには庭師によって完璧に管理された薔薇や季節の花々が咲き乱れた夢のような場所で。こんな場所を2人で散歩なんて物語のような展開だけど、殿下と私の間で交わされていたのはちっともロマンチックではない内容だった。
「さすが王宮のお庭ですね」
「そうだな。王妃が花を好んでいるのも理由の一つだが、国内の貴族や諸外国に王の権威を示すためにも手を抜けないということだ」
「なるほど。庭園すらも外交に関わってくるとは王族でいるのも大変ですね」
「ーーーまるで他人事だな」
斜め前を歩くクライブ殿下がついっと鋭い視線を流したことで、失言に気付いた。
「あ、や……そんな事はない、です」
ほんの数日前まで、近い将来に殿下の秘書として王宮で働く将来を夢見ていたのだから他人事に思っている訳では本気でないんだけど、と心の中で言い訳をしていると、小さなため息が聞こえた。
「いや。正直、仕方ないと思う。この間もなぜか中途半端なものになってしまったし、その後も急な仕事で王宮に缶詰になって会いに行けなかったからな。すまないと思っている」
珍しく弱気な発言をした殿下はくるりと振り返ると、私の両手をその大きな手で包み込んだ。
「想いが通じたあの日からやり直したい。だから今、リディアが不安に思っていることを教えてくれないか?」
アイスブルーの瞳が何一つ見逃さないように私を見つめる。そこにはあの日、想いが通じ合った日に見たのと同じ熱を孕んでいた。その瞳に促されて口を開く。
「私、殿下が好きだって気持ちもやっと認めたくらいで。だから将来どうしたいとか、どうなりたいとか何も考えていなくて。大体、殿下の結婚相手として自分が色々と不足してる事は理解してたから……」
いくら恋愛結婚が許されているとはいっても、王太子の結婚相手なのだから条件は良いに越した事はない。だからこそ隣国の姫で彼女自身もこの上なく魅力があるヒロインが相応しいと思っていた。私もそれを望んだし、ゲームでも誰からも文句の出ない王道ルートだった。
「それなのに、目が覚めたら父は娘を手放す寂しさにずっと落ち込んでいるし、今日は宰相様から今後のスケジュールを知らされて。私、付き合うことになった自覚はあっても結婚する決意をした記憶はなくて。でも、周りはどんどん進んでるからなんだか怖くなってしまって……」
話しているうちに迷子の気持ちになって声は小さく、視線は下がっていく。自分がどうなってしまうのかに対する漠然とした不安は、どうやら私自身が思うより深妹のだったらしい。最後の方はうっすらと涙声になってしまった。
「そうだな。リディアの不安は当然だ。そしてその原因は全て俺の責任だ。すまない」
静かな声で謝罪した殿下は握っている両の手にぐっと力を入れると、手を握ったまま私の前に跪いた。
そこには庭師によって完璧に管理された薔薇や季節の花々が咲き乱れた夢のような場所で。こんな場所を2人で散歩なんて物語のような展開だけど、殿下と私の間で交わされていたのはちっともロマンチックではない内容だった。
「さすが王宮のお庭ですね」
「そうだな。王妃が花を好んでいるのも理由の一つだが、国内の貴族や諸外国に王の権威を示すためにも手を抜けないということだ」
「なるほど。庭園すらも外交に関わってくるとは王族でいるのも大変ですね」
「ーーーまるで他人事だな」
斜め前を歩くクライブ殿下がついっと鋭い視線を流したことで、失言に気付いた。
「あ、や……そんな事はない、です」
ほんの数日前まで、近い将来に殿下の秘書として王宮で働く将来を夢見ていたのだから他人事に思っている訳では本気でないんだけど、と心の中で言い訳をしていると、小さなため息が聞こえた。
「いや。正直、仕方ないと思う。この間もなぜか中途半端なものになってしまったし、その後も急な仕事で王宮に缶詰になって会いに行けなかったからな。すまないと思っている」
珍しく弱気な発言をした殿下はくるりと振り返ると、私の両手をその大きな手で包み込んだ。
「想いが通じたあの日からやり直したい。だから今、リディアが不安に思っていることを教えてくれないか?」
アイスブルーの瞳が何一つ見逃さないように私を見つめる。そこにはあの日、想いが通じ合った日に見たのと同じ熱を孕んでいた。その瞳に促されて口を開く。
「私、殿下が好きだって気持ちもやっと認めたくらいで。だから将来どうしたいとか、どうなりたいとか何も考えていなくて。大体、殿下の結婚相手として自分が色々と不足してる事は理解してたから……」
いくら恋愛結婚が許されているとはいっても、王太子の結婚相手なのだから条件は良いに越した事はない。だからこそ隣国の姫で彼女自身もこの上なく魅力があるヒロインが相応しいと思っていた。私もそれを望んだし、ゲームでも誰からも文句の出ない王道ルートだった。
「それなのに、目が覚めたら父は娘を手放す寂しさにずっと落ち込んでいるし、今日は宰相様から今後のスケジュールを知らされて。私、付き合うことになった自覚はあっても結婚する決意をした記憶はなくて。でも、周りはどんどん進んでるからなんだか怖くなってしまって……」
話しているうちに迷子の気持ちになって声は小さく、視線は下がっていく。自分がどうなってしまうのかに対する漠然とした不安は、どうやら私自身が思うより深妹のだったらしい。最後の方はうっすらと涙声になってしまった。
「そうだな。リディアの不安は当然だ。そしてその原因は全て俺の責任だ。すまない」
静かな声で謝罪した殿下は握っている両の手にぐっと力を入れると、手を握ったまま私の前に跪いた。
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