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第9章
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「お父様。殿下がどう説明されたかは分かりませんが、事実です」
大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと告げる。とは言え親に交際報告なんて恥ずかし過ぎて顔は俯いてだったけれど。
それでもなんとか最後まで告げてホッとしていると、父がガクンと音を立てて項垂れたのが見えた。
「そう、そうか。では、私はこんなにも突然娘を手放す覚悟をしなければならないのだな」
ーーーん?
今にも泣き出しそうな父に突っ込むのは気が引けるが、スルー出来ない言葉に顔を上げた。
交際が始まったばかりなのに、もう娘を手放す覚悟なんて流石に話が飛躍しすぎではないだろうかと疑問符が頭を埋める。
「あのー……お父様?」
がっくりと項垂れたまま、こちらを見ない父に声をかけたのに、返事をしてくれたのは隣に座る母だった。
「昨日、クライブ殿下はリディアと想いが通じた事と同時に今後の予定についてもお話しされたの。殿下のご予定では一ヶ月後に婚約、その一年後には結婚だと。予想していた私でも流石に早すぎるとは思いましたが、それは嬉しそうにお話されて。どうも周辺へのお話もすでに終わっているようなお話ぶりしたので、こちらとしてお断りすることも出来なくて」
確かに王家から求められて弱小貴族の我が家から断るなど社会的に不可能なのは明白だ。でも、困ったように頬に手を当ててはいるが母のその瞳はキラキラと輝いていて、楽しんでいることは明白だ。
「そうですか。それで、お父様とお母様は承諾されたのですね」
しっかり者の母が了承しているならお人好しの父に断る事は無理だったろう。質問と言うより確認するために質問すると、満面の笑みで母が答えた。
「ええ、勿論。お断りする理由がありませんもの。それともリディアは断って欲しかった?」
ーーーそう聞かれると答えにくい。
「いえ、そういう訳ではないです。ただ、私も聞いていないお話だったので正直びっくりしてしまって……」
だって気持ちが通じ合った日に将来のことを決定事項として語られるなんて予想外だ。
ちょっとだけ顔を顰めた私に母は労わるように言葉を継いだ。
「そうだったの。それは驚いたでしょう?でもきっと殿下はずっと待ってらしたのね。こうなったら仕方ないからお付き合いして差し上げなさい」
労ってもらったと思ったのに、最後には優しく突き放されてしまった私が状況を把握したのはそれから数日後だった。
大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと告げる。とは言え親に交際報告なんて恥ずかし過ぎて顔は俯いてだったけれど。
それでもなんとか最後まで告げてホッとしていると、父がガクンと音を立てて項垂れたのが見えた。
「そう、そうか。では、私はこんなにも突然娘を手放す覚悟をしなければならないのだな」
ーーーん?
今にも泣き出しそうな父に突っ込むのは気が引けるが、スルー出来ない言葉に顔を上げた。
交際が始まったばかりなのに、もう娘を手放す覚悟なんて流石に話が飛躍しすぎではないだろうかと疑問符が頭を埋める。
「あのー……お父様?」
がっくりと項垂れたまま、こちらを見ない父に声をかけたのに、返事をしてくれたのは隣に座る母だった。
「昨日、クライブ殿下はリディアと想いが通じた事と同時に今後の予定についてもお話しされたの。殿下のご予定では一ヶ月後に婚約、その一年後には結婚だと。予想していた私でも流石に早すぎるとは思いましたが、それは嬉しそうにお話されて。どうも周辺へのお話もすでに終わっているようなお話ぶりしたので、こちらとしてお断りすることも出来なくて」
確かに王家から求められて弱小貴族の我が家から断るなど社会的に不可能なのは明白だ。でも、困ったように頬に手を当ててはいるが母のその瞳はキラキラと輝いていて、楽しんでいることは明白だ。
「そうですか。それで、お父様とお母様は承諾されたのですね」
しっかり者の母が了承しているならお人好しの父に断る事は無理だったろう。質問と言うより確認するために質問すると、満面の笑みで母が答えた。
「ええ、勿論。お断りする理由がありませんもの。それともリディアは断って欲しかった?」
ーーーそう聞かれると答えにくい。
「いえ、そういう訳ではないです。ただ、私も聞いていないお話だったので正直びっくりしてしまって……」
だって気持ちが通じ合った日に将来のことを決定事項として語られるなんて予想外だ。
ちょっとだけ顔を顰めた私に母は労わるように言葉を継いだ。
「そうだったの。それは驚いたでしょう?でもきっと殿下はずっと待ってらしたのね。こうなったら仕方ないからお付き合いして差し上げなさい」
労ってもらったと思ったのに、最後には優しく突き放されてしまった私が状況を把握したのはそれから数日後だった。
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