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第9章
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エルフリーデ先輩との素晴らしいお茶の時間を過ごした私はすっかりくたびれていたけれど、気力を振り絞って生徒会室へと足を向けた。
「もういらっしゃらないかもだけど、ね」
かなり長い時間先輩のお部屋で過ごしたので、すっかり陽も傾いている。先輩とのことを心配してくれていたクライブ殿下にこれ以上ないほど素晴らしい時間を過ごせた事と、先輩から全て話を聞けたことを報告しようと思ったのだが、王宮に帰っていてもおかしくない時間だ。無駄足になるのは承知だったけれど、高揚した気持ちも相待ってこのまま家に帰るのは惜しくなったのもある。
生徒会室の部屋をノックしたが、応答はない。やはり帰られたかと思いながら扉を開けると、夕日に照らされて殿下が外を眺めている姿が目に入った。
その横顔は凛々しくも美しく、金の髪は夕陽に染まって燃えるようなオレンジに輝いている。高台にある学園から街を眺めるのはきっとそこに生きる国民を想うから。王族として王太子として生きることを自らに課してその責任から真正面から向き合っているその強さと覚悟を美しいと思う。
私、やっぱりこの人が好きだ。
その姿を見ながら、ここしばらく見ないふりをしていた自分の気持ちを自覚した。推しだからでも、ゲームの攻略対象だからでもない。玉の輿に乗りたい訳でも勿論なくて、ただ好きだと思う。好きだから彼のそばに居て手助けをしたい、出来るなら必要とされたいと思う。結構重い片想いだけど。
「リディア、戻ってきたのか」
思いのままに見つめていると、視線に気付いたのかクライブ殿下が振り返って口元を緩めた。
「はい。殿下のことですから、心配して下さっているかと思って来ました」
扉を閉め、窓際に立つ殿下のそばへと歩きながら軽口を叩くと殿下の笑みは深くなる。
「ははっ。俺はリディアのことだから俺に報告に来てくれるかと思って待っていた」
「ふふっ。それではまるで、」
「以心伝心、だな。心が通じているということだろうか?」
歩みを止めた私に、今度は殿下が歩み寄る。
「そうなら、俺の気持ちにもそろそろ気付いてくれていてもおかしくはないと思うのだが」
「殿下……」
突然だと思う。でも突然ではないとも思う。だって、
「これまで遠回しでもあって気持ちを伝えてきたつもりだったのだが、どうしてだかリディアには上手く伝わらなくてどうしたらいいのかと困惑していたのだ。だが、こんなにも簡単だったのだな。俺とリディアは心が通じているのだから。伝わらないと思っていたが、それはリディアが受け取りたくないと思っていたのではないか?」
「わ、私……でも、」
「そしてそれは俺が嫌いだからではない。むしろ好ましく想ってくれているから、だと思うのは自惚すぎか?」
私の目の前で立ち止まったクライブ殿下の手がいつの間にか俯いていた私の顎をそっと持ち上げる。
「リディアが欲しい。俺の人生にリディアがいないなど考えられないくらいに惚れている。正直惚れすぎて、真っ正面から口説くことが出来なかったくらい愛している。だから諦めて俺の側から離れるな」
私を見つめるアイスブルーはこれまでに見たことがないくらい熱を孕んで目がそらせない。じっと見つめたまま、どうにか口を開こうとしてーーー私は瞳を閉じた。
「もういらっしゃらないかもだけど、ね」
かなり長い時間先輩のお部屋で過ごしたので、すっかり陽も傾いている。先輩とのことを心配してくれていたクライブ殿下にこれ以上ないほど素晴らしい時間を過ごせた事と、先輩から全て話を聞けたことを報告しようと思ったのだが、王宮に帰っていてもおかしくない時間だ。無駄足になるのは承知だったけれど、高揚した気持ちも相待ってこのまま家に帰るのは惜しくなったのもある。
生徒会室の部屋をノックしたが、応答はない。やはり帰られたかと思いながら扉を開けると、夕日に照らされて殿下が外を眺めている姿が目に入った。
その横顔は凛々しくも美しく、金の髪は夕陽に染まって燃えるようなオレンジに輝いている。高台にある学園から街を眺めるのはきっとそこに生きる国民を想うから。王族として王太子として生きることを自らに課してその責任から真正面から向き合っているその強さと覚悟を美しいと思う。
私、やっぱりこの人が好きだ。
その姿を見ながら、ここしばらく見ないふりをしていた自分の気持ちを自覚した。推しだからでも、ゲームの攻略対象だからでもない。玉の輿に乗りたい訳でも勿論なくて、ただ好きだと思う。好きだから彼のそばに居て手助けをしたい、出来るなら必要とされたいと思う。結構重い片想いだけど。
「リディア、戻ってきたのか」
思いのままに見つめていると、視線に気付いたのかクライブ殿下が振り返って口元を緩めた。
「はい。殿下のことですから、心配して下さっているかと思って来ました」
扉を閉め、窓際に立つ殿下のそばへと歩きながら軽口を叩くと殿下の笑みは深くなる。
「ははっ。俺はリディアのことだから俺に報告に来てくれるかと思って待っていた」
「ふふっ。それではまるで、」
「以心伝心、だな。心が通じているということだろうか?」
歩みを止めた私に、今度は殿下が歩み寄る。
「そうなら、俺の気持ちにもそろそろ気付いてくれていてもおかしくはないと思うのだが」
「殿下……」
突然だと思う。でも突然ではないとも思う。だって、
「これまで遠回しでもあって気持ちを伝えてきたつもりだったのだが、どうしてだかリディアには上手く伝わらなくてどうしたらいいのかと困惑していたのだ。だが、こんなにも簡単だったのだな。俺とリディアは心が通じているのだから。伝わらないと思っていたが、それはリディアが受け取りたくないと思っていたのではないか?」
「わ、私……でも、」
「そしてそれは俺が嫌いだからではない。むしろ好ましく想ってくれているから、だと思うのは自惚すぎか?」
私の目の前で立ち止まったクライブ殿下の手がいつの間にか俯いていた私の顎をそっと持ち上げる。
「リディアが欲しい。俺の人生にリディアがいないなど考えられないくらいに惚れている。正直惚れすぎて、真っ正面から口説くことが出来なかったくらい愛している。だから諦めて俺の側から離れるな」
私を見つめるアイスブルーはこれまでに見たことがないくらい熱を孕んで目がそらせない。じっと見つめたまま、どうにか口を開こうとしてーーー私は瞳を閉じた。
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