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第8章

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事前の打ち合わせでは簡単な進行だった。
クライブ殿下と共に入場、殿下が開催の挨拶をしている間は少し下がった場所にロサンさんと一緒に控える。ついで国王陛下と隣国の王が並んで挨拶に立ったら花束を受け取って準備をする。挨拶が終わったら花束贈呈。
たったそれだけ。緊張こそすれ、自分で発言する機会もないしそこまで難しいこともない。

殿下の挨拶はすぐに開催を宣言するものだったし、すぐに終わった。2人の国王も普段からの親交の深さをものがたるような、穏やかながら威厳ある挨拶がされた。順調な進行に花束を持った私も息を吐いて歩を進めようとして、止まった。
私のすぐ脇を颯爽と過ぎ去った影に足が止まったのだ。そのまま視線をその姿に向ける。

「先輩?」

私の視線の先にある後ろ姿は、エルフリーデ先輩のものだ。この2年ずっと近くで見てきた姿なのだから間違えるはずもない。
ピンク色のふわふわな髪を下ろしているのと、真っ白なドレスを纏っているせいでまるで妖精の女王みたいで美しい。後ろ姿でこれなのだから正面から見たらどれだけ、なんて状況に不似合いな感想が浮かぶほど私の思考は停止していた。

「恐れながら申し上げます!」

それを破ったのは覚悟を持った先輩の声だった。緊張しているのが分かる少し強張った声はでも、意思の強さを物語るようにはっきりと響き渡る。しかも角度を変えたせいで見えた瞳には強い決意が輝いていた。

「このような場で個人的な問題で皆様のお時間を取らせることがいかに礼に失したことかは十分に承知しております。ですが、このような機会がない限り私の決意をお話しすることは出来ないと思い、この場に出て参りました」

「ーーーわざわざこの場に出てきたということは身分を明かしても構わぬということか?」

「はい」

「では問おう、我が娘エルフリーデよ。なぜ隣国のこの地で、しかも身分を隠してまで留学していた学園で、それも卒業までわずかとなったこの時にわざわざ宣言しようと思ったのだ」

さすが一国の王だと思う。予想もしなかった事態だろうに、隣国の王は僅かの同様も見せずに対応している。素直に感心しようとして、違和感に気付いた。

少し視線をやればクライブ殿下もロランさんも驚くことなく事態を見つめている。それは他の執行部の面々と見事なコントラストになるほど、落ち着いた様子で。もしや、と視線を戻すと国王陛下も隣国の王の横で穏やかな視線をエルフリーデ先輩に向けていた。

殿下とロランさんは先輩の行動を知っていたんだ。だからこそ決定的は理由をいう事なく花束の贈呈を私に振った。そしてきっと、この話は殿下から国王陛下にも伝達済みだから近衛騎士の皆さんも動くことがないのだ。とは言え、殿下以上に冷静で海千山千の国王陛下も場合は違うかもだけど。
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