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第3章

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だってそうでなきゃ通じない。無意識に心の声が出て、しかもそれが当人に聞かれてしまっていたなんて、と焦った私が振り向くと、珍しく殿下は満面の笑みを浮かべていた。

「ああ。でも大丈夫だ。俺以外には聞いていないし、今はまず目の前の騒ぎを楽しむ方が大事だろ?」

殿下が指差す方に視線を向けると、すっかり存在を薄くしていたマグリット嬢が怒りに肩を震わせている。が、それに気付かないロランさんとエルフリーデ先輩は二人で小さく(側から見たらイチャイチャと)言い合いを続けている。

「あ、あれ……」

最初は私に文句をつけに来たのだから、とマグリット嬢の気をこちらに向けようとしたのに。声を上げかけた私の口を塞いだ殿下は耳元で「黙って」と小さく言って、私を引きずるようにしてその場を後にした。






そして連れてこられたのは生徒会室。馴染みのありすぎる部屋に気が緩んだ私は、殿下に早速文句を言った。

「どうして移動したんですか!元はと言えば、マグリット様は私に文句を言いに来たんですよ?それなのに当の私だけが逃げ出すなんて、助けに来てくれたエルフリーデ先輩とロランさんに申し訳なさすぎます!」

必要以上に語気が強くなってしまったのは、まるで抱きしめるような密着度でここまで来た恥ずかしさを誤魔化すため。最近、距離感が近いとは思っていたけれど、直接触れるのはやっぱり慣れていなくてドキドキしてしまう。勿論『推し』だからで恋愛感情じゃないけど。
そんな私の照れに気付いているのかいないのか。クライブ殿下は部屋の奥にある自分の机に後ろ向きに寄りかかりながら、私を見つめて
にやりと笑った。

「あのうるさい令嬢のことは放っておけばいい。あの二人ならリディアより数段上手く対処出来るに決まっている。それに俺がここに来たのはリディア自身の将来について話す為だ、と言えばどうだ?なかなか落ち着いて二人きりで話すタイミングは作れないからな」

私の将来。そう言われれば文句はぴたりと止まる。
あと半年ほどで、殿下は学園を卒業する。そうしたら秘書である私が学園に在籍する必要がなくなるのだ。授業で学ぶ喜びもクラスメイトの皆さんと過ごす楽しさも、知ってしまった今は手放すのが惜しい気持ちはあるけれど、それよりも私は『クライブ殿下の秘書』を辞めたくなかった。だから答えは決まっている。

「勿論、殿下の卒業と同時に学園を辞めるつもりです」

王宮で執務を取る殿下の側にいなければ秘書の仕事も務められない。令嬢には珍しく働いてお金を得て生活するのが当然なのはきっと、私に前世の記憶があるのも理由だろう。でも商会で働いていた時も今も私の給料が家族の生活を支えていて、それは私の誇りなのだから仕事を辞める選択肢はない。しかもクライブ殿下の下で働くのは楽しくてやりがいもあって心から続けたいと思える仕事なのだから、迷うことはなかった。

しばらく前から決心していた答えはしかし、殿下には意外なものだったらしい。驚きが顔に出ていた。



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