上 下
21 / 87
第3章

1

しおりを挟む
「ーーーあのぉ、本当にこれを着るの?宛先間違ってないかしら?」

豊穣祭の当日、早朝に我が家に届けられたドレスを見て私は固まっていた。

「はい。宛名はお嬢様の名前で間違いないですし、何より送り主がクライブ殿下ですから。流石にドレス店も間違えたりはしませんよ」

「だよねぇ……」

私が幼い頃から家にいてくれる数少ない侍女も若干戸惑いを隠せていない。温厚ではあっても決して裕福ではない雇い主の家に届くには場違いすぎるドレスがそうさせるのだろう。まさか、という気持ちは私も同じだから分かる。

「社交界に準ずる、とはいえ学園内のパーティにこのドレスは……目立ち過ぎるわね」

折角贈って頂いたドレスを着ないという選択肢はないけれど、着るのに勇気がいるのは間違いない。

控えめなフレンチスリーブとレースが愛らしい上半身からドレスの裾に向かってベビーピンクからローズピンクへと鮮やかなグラデーションをみせ、品の良い華やかさを演出している。露出は控えめなのはまだ色気があるとは言い難い私のことを考えてだろうか、美しいというより可愛らしいドレスだ。うっとりとする手触りは最高級の絹で間違い無いだろうし、ふんわりと広がったスカート部分には小さな宝石がキラキラと輝いている。

「きっと王女様が晩餐会でお召しになるのはこのようなドレスなのでしょうね」

はぁぁっと夢見るような瞳で語る侍女を嗜めるでもなく、私もはぁっとため息を吐いた。

「王女様には似合っても没落貴族令嬢には豪華すぎるわ。殿下もいったい、どういうおつもりなのかしら」

採寸が必要だと言って、なんと学園にドレス店を呼び出したクライブ殿下に私は何度も言ったのだ。なんならドレス店の店主にもうるさがられるまで言った。

『とにかく控えめなドレスで。私の身に沿った、私の身分に相応わしいドレスをお願いします』

クライブ殿下は軽く眉を顰めただけではっきりとした返事はしてくれなかったけれど、店主は『お約束します』とげんなりとしながらも約束してくれたというのに。うっかり気を緩めると悪態が口を突いて出そうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

悪役令嬢と攻略対象(推し)の娘に転生しました。~前世の記憶で夫婦円満に導きたいと思います~

木山楽斗
恋愛
頭を打った私は、自分がかつてプレイした乙女ゲームの悪役令嬢であるアルティリアと攻略対象の一人で私の推しだったファルクスの子供に転生したことを理解した。 少し驚いたが、私は自分の境遇を受け入れた。例え前世の記憶が蘇っても、お父様とお母様のことが大好きだったからだ。 二人は、娘である私のことを愛してくれている。それを改めて理解しながらも、私はとある問題を考えることになった。 お父様とお母様の関係は、良好とは言い難い。政略結婚だった二人は、どこかぎこちない関係を築いていたのである。 仕方ない部分もあるとは思ったが、それでも私は二人に笑い合って欲しいと思った。 それは私のわがままだ。でも、私になら許されると思っている。だって、私は二人の娘なのだから。 こうして、私は二人になんとか仲良くなってもらうことを決意した。 幸いにも私には前世の記憶がある。乙女ゲームで描かれた二人の知識はきっと私を助けてくれるはずだ。 ※2022/10/18 改題しました。(旧題:乙女ゲームの推しと悪役令嬢の娘に転生しました。) ※2022/10/20 改題しました。(旧題:悪役令嬢と推しの娘に転生しました。)

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!

枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」 そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。 「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」 「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」  外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜

アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。 そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。 とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。 主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────? 「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」 「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」 これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。

処理中です...