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第1章

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私が暮らしているのが、大好きだった乙女ゲーム『秘密のエルドラド』の世界だと気付いたのは、前世を思い出してから一年後。国中がクライブ殿下が外遊に行く話題でもちきりになった時だ。
その時に殿下が自分よりニつ年上だと分かって、隠れて小躍りしたのだ。だって王立学園は15歳以上の貴族が通う5年制度の学校だ。二歳差ならば学園内で会える可能性だって十分にある。

生のクライブ殿下に会える!もしかしたら凍えるような視線で睥睨されて冷たい台詞でも吐いてもらえるかも!!

ドSの推しに酷くされたいなんて、自分でもちょっとMなのではとは思う。でも前世でゲームをやり込んでいる時から一番好きなキャラクターだったのだ。他の攻略対象ルートじゃなく、何度もクライブ殿下とのルートばかり選択していたくらいなのだから、思うくらいは許して欲しい。

しかも自分はゲームのキャラじゃなくとも貴族令嬢。王立学園に進学するのが当然だし、そうなれば殿下の卒業パーティでのヒロイン溺愛宣言を生で観覧出来るのだ!最前列の特等席でその勇姿を拝顔しよう!

と、意気込んでいたのに現実は上手くいかず。今の私は王立学園に立ち入ることさえ出来やしない。

でもま、いいのだ。

両親は優しくてわたしを心から愛してくれている。使用人たちも少人数だからと、それぞれが色々な仕事を兼務しながら尽くしてくれる。

その人達の為になるなら得意分野を活かして働くのも、そのせいで社交界と縁遠くなっても構やしない。
と、納得してはいても押しに会いたいと思うのがファン心理だ。つい言葉が溢れてしまった。

ダメだなぁと自己反省しながら得意でない刺繍を続ける私にそう言えば、と思い出したような母の声が聞こえて来た。

「来月のグリンデル伯爵家のお茶会にクライブ殿下がお忍びでお越しになるらしいって夫人が言っていたわ。やっぱりリディアも出席してはどうかしら?ね、そうしましょうよ」

「あーグリンデル伯爵家の、ですかぁ……。どうしようかな」

数少ない友人の主催する茶会に娘と出席出来る、とハートマークが付いてそうな声でウキウキと話す母には申し訳ないが、その提案にはあまり気が進まない。
憧れのクライブ殿下に会えるかも、だとしても。

「ーーーマグリット様も参加されますよね?」

グリンデル夫人はとても優しくて大好きだけど、私はその姪のマグリット嬢があまり得意ではない。いや、はっきり言って苦手だ。

幼い頃にグリンデル伯爵家で会った時に彼女が憧れていた貴族令息が私と仲良しだったからか、どこかの大人に私と容姿を比べられたのだったか。
とにかく、私が知らないところで嫌われて以来ずっとキツく当たられている。

多分、彼女自身が裕福な伯爵家令嬢だし階級意識の強い人だから、貧乏貴族の娘は対等に扱わなくても良いと判断してのことだろう。
ま、貧乏なのは事実だし仕方ない。みんながみんな仲良しになれるわけじゃないしね、と前世の大人の割り切りで開き直って泣かないのも気に食わないらしい。

会うたびにぐちぐちと聞こえよがしに貶められるのが鬱陶しくて、最近はグリンデル伯爵家のお茶会には参加していないのだ。
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