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After-story
マルクのお見合い騒動 前編
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-マルク視点-
「はぁ……」
仕事中、何度目かのため息を吐いた。
書類に目を向けるが、全く以って捗らない。そして又ため息を吐いた。
執務室には誰も居ない事を確認すると、俺はその場で立ち上がり、大きく伸びをする。
すると、執務室のドアが開いた。
「やぁマルク。暇そうだね」
「……職務中です」
片手をあげ、気さくに声をかけて来る男。リカルド。
こんな軽い感じで話しかけてくるが、彼はこれでも歴としたこの国の王だ。
俺が仕事中だとアピールするために書類の束を指さすが、全く気にした様子はない。
「分かっている。君の事だ。今夜のお見合いで緊張しているのだろう?」
「……まぁ」
否定は出来なかった。
……そうだな。今は誰かがこの執務室に来る予定はない。
丁度良い。リカルドに相談に乗ってもらうか。俺はいつも通りの口調で話しかける。
「相手は令嬢だ。ザガロの口車に乗せられたとはいえ、相手の気持ちも考えずに政略結婚のような事をするのは、やはり気が進まない」
相手はザガロの娘、生まれも育ちも上級貴族だ。
対する俺は、庶民出の革命により貴族になった、いわゆる成り上がりだ。
正直、不安しかない。
「じゃあ、辞めるかい?」
「そうもいかないだろ」
ヴェラ王国を打倒し、グローリー王国に名を変えてから早数ヶ月。
この国も何とか落ち着きを取り戻し、平穏が戻りつつある。
しかし、それは下手をすればすぐにでも崩れてしまいそうな程に脆い物だ。
ザガロは旧政権の人間。彼に対して反発している者は少なくはない。
能力を買われ、条件付きで雇用している元上級貴族が、些細な争いで殺されることは度々起きている。
ザガロは優秀だ。経験もある。俺が頭を悩ませる時にいつも的確なアドバイスをくれる貴重な存在だ。
もしここでザガロが居なくなれば、俺にとっても、この国にとっても相当な痛手になる。
なので、彼の保険の為にも、繋がりを持っておく必要があるのだ。
だが、だからと言ってお見合い、結婚となると話は別だ。
向こうも、元庶民が相手では嫌だろう。
「それにだ……」
問題はそれだけではない。
「それに?」
俺は小声で話しかける。
「俺さ……女性とあまり話をしたことが無いんだ……」
「あー……」
レジスタンスのリーダーをやっていた頃は、ほぼ男所帯だった。
女性と話す機会なんてほぼなかった。
だから初めてパオラに会って挨拶した時に、一目ぼれしてしまったわけで……。
「それなら私が、お見合いの挨拶と礼儀を教えてあげよう」
「ふむ。頼む」
「前に教えた挨拶があるだろう? 覚えているかい?」
「こうやって胸に手を当てて、頭を下げるのだったか?」
「そうそう。そしたら次はこうやって片膝立ちになり、相手の右手を取って手の甲にキスをするんだ」
「……」
嘘くさい。正直言って嘘くさい。
しかし、リカルドは真剣な目をしている。
「君には、パオラをちゃんと諦めて貰わないと、私の気が休まらないからね」
なるほど。そういう事か。
数か月前。パオラの取り合いで決闘したことを、リカルドはまだ根に持っているようだ。
既に2人は挙式を挙げている。そんな2人の仲に、俺が割り込める隙などない事位理解しているが。
それでも不安に思うくらい、好きなのだろうな。
「わかった。リカルド。お前を信じよう」
「あぁ。頑張れよ」
そう言って信じた俺が間違いだったようだ。
「初めまして。マルクと申します。お父上とは日頃からお仕事でお世話になっております」
「初めましてマルク様。レナと申します」
俺は挨拶をし、片膝立ちになる。
そして、スカートの裾を掴むレナの腕を取り、手の甲に口づけをした。
「まぁ……マルク様……」
「マルク様。いきなり情熱的でございますね」
顔を真っ赤にするレナと、困ったように笑うザガロを見て理解した。
俺はリカルドに騙されたようだ。
「はぁ……」
仕事中、何度目かのため息を吐いた。
書類に目を向けるが、全く以って捗らない。そして又ため息を吐いた。
執務室には誰も居ない事を確認すると、俺はその場で立ち上がり、大きく伸びをする。
すると、執務室のドアが開いた。
「やぁマルク。暇そうだね」
「……職務中です」
片手をあげ、気さくに声をかけて来る男。リカルド。
こんな軽い感じで話しかけてくるが、彼はこれでも歴としたこの国の王だ。
俺が仕事中だとアピールするために書類の束を指さすが、全く気にした様子はない。
「分かっている。君の事だ。今夜のお見合いで緊張しているのだろう?」
「……まぁ」
否定は出来なかった。
……そうだな。今は誰かがこの執務室に来る予定はない。
丁度良い。リカルドに相談に乗ってもらうか。俺はいつも通りの口調で話しかける。
「相手は令嬢だ。ザガロの口車に乗せられたとはいえ、相手の気持ちも考えずに政略結婚のような事をするのは、やはり気が進まない」
相手はザガロの娘、生まれも育ちも上級貴族だ。
対する俺は、庶民出の革命により貴族になった、いわゆる成り上がりだ。
正直、不安しかない。
「じゃあ、辞めるかい?」
「そうもいかないだろ」
ヴェラ王国を打倒し、グローリー王国に名を変えてから早数ヶ月。
この国も何とか落ち着きを取り戻し、平穏が戻りつつある。
しかし、それは下手をすればすぐにでも崩れてしまいそうな程に脆い物だ。
ザガロは旧政権の人間。彼に対して反発している者は少なくはない。
能力を買われ、条件付きで雇用している元上級貴族が、些細な争いで殺されることは度々起きている。
ザガロは優秀だ。経験もある。俺が頭を悩ませる時にいつも的確なアドバイスをくれる貴重な存在だ。
もしここでザガロが居なくなれば、俺にとっても、この国にとっても相当な痛手になる。
なので、彼の保険の為にも、繋がりを持っておく必要があるのだ。
だが、だからと言ってお見合い、結婚となると話は別だ。
向こうも、元庶民が相手では嫌だろう。
「それにだ……」
問題はそれだけではない。
「それに?」
俺は小声で話しかける。
「俺さ……女性とあまり話をしたことが無いんだ……」
「あー……」
レジスタンスのリーダーをやっていた頃は、ほぼ男所帯だった。
女性と話す機会なんてほぼなかった。
だから初めてパオラに会って挨拶した時に、一目ぼれしてしまったわけで……。
「それなら私が、お見合いの挨拶と礼儀を教えてあげよう」
「ふむ。頼む」
「前に教えた挨拶があるだろう? 覚えているかい?」
「こうやって胸に手を当てて、頭を下げるのだったか?」
「そうそう。そしたら次はこうやって片膝立ちになり、相手の右手を取って手の甲にキスをするんだ」
「……」
嘘くさい。正直言って嘘くさい。
しかし、リカルドは真剣な目をしている。
「君には、パオラをちゃんと諦めて貰わないと、私の気が休まらないからね」
なるほど。そういう事か。
数か月前。パオラの取り合いで決闘したことを、リカルドはまだ根に持っているようだ。
既に2人は挙式を挙げている。そんな2人の仲に、俺が割り込める隙などない事位理解しているが。
それでも不安に思うくらい、好きなのだろうな。
「わかった。リカルド。お前を信じよう」
「あぁ。頑張れよ」
そう言って信じた俺が間違いだったようだ。
「初めまして。マルクと申します。お父上とは日頃からお仕事でお世話になっております」
「初めましてマルク様。レナと申します」
俺は挨拶をし、片膝立ちになる。
そして、スカートの裾を掴むレナの腕を取り、手の甲に口づけをした。
「まぁ……マルク様……」
「マルク様。いきなり情熱的でございますね」
顔を真っ赤にするレナと、困ったように笑うザガロを見て理解した。
俺はリカルドに騙されたようだ。
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