上 下
36 / 49
After-story

マルクのお見合い騒動 前編

しおりを挟む
-マルク視点-


「はぁ……」

 仕事中、何度目かのため息を吐いた。
 書類に目を向けるが、全く以って捗らない。そして又ため息を吐いた。
 執務室には誰も居ない事を確認すると、俺はその場で立ち上がり、大きく伸びをする。
 すると、執務室のドアが開いた。

「やぁマルク。暇そうだね」

「……職務中です」

 片手をあげ、気さくに声をかけて来る男。リカルド。
 こんな軽い感じで話しかけてくるが、彼はこれでも歴としたこの国の王だ。
 俺が仕事中だとアピールするために書類の束を指さすが、全く気にした様子はない。

「分かっている。君の事だ。今夜のお見合いで緊張しているのだろう?」

「……まぁ」

 否定は出来なかった。
 ……そうだな。今は誰かがこの執務室に来る予定はない。
 丁度良い。リカルドに相談に乗ってもらうか。俺はいつも通りの口調で話しかける。
 
「相手は令嬢だ。ザガロの口車に乗せられたとはいえ、相手の気持ちも考えずに政略結婚のような事をするのは、やはり気が進まない」

 相手はザガロの娘、生まれも育ちも上級貴族だ。
 対する俺は、庶民出の革命により貴族になった、いわゆる成り上がりだ。
 正直、不安しかない。

「じゃあ、辞めるかい?」

「そうもいかないだろ」

 ヴェラ王国を打倒し、グローリー王国に名を変えてから早数ヶ月。
 この国も何とか落ち着きを取り戻し、平穏が戻りつつある。
 しかし、それは下手をすればすぐにでも崩れてしまいそうな程に脆い物だ。
 
 ザガロは旧政権の人間。彼に対して反発している者は少なくはない。
 能力を買われ、条件付きで雇用している元上級貴族が、些細な争いで殺されることは度々起きている。

 ザガロは優秀だ。経験もある。俺が頭を悩ませる時にいつも的確なアドバイスをくれる貴重な存在だ。
 もしここでザガロが居なくなれば、俺にとっても、この国にとっても相当な痛手になる。
 なので、彼の保険の為にも、繋がりを持っておく必要があるのだ。

 だが、だからと言ってお見合い、結婚となると話は別だ。
 向こうも、元庶民が相手では嫌だろう。

「それにだ……」

 問題はそれだけではない。

「それに?」

 俺は小声で話しかける。

「俺さ……女性とあまり話をしたことが無いんだ……」

「あー……」

 レジスタンスのリーダーをやっていた頃は、ほぼ男所帯だった。
 女性と話す機会なんてほぼなかった。

 だから初めてパオラに会って挨拶した時に、一目ぼれしてしまったわけで……。

「それなら私が、お見合いの挨拶と礼儀を教えてあげよう」

「ふむ。頼む」

「前に教えた挨拶があるだろう? 覚えているかい?」
 
「こうやって胸に手を当てて、頭を下げるのだったか?」

「そうそう。そしたら次はこうやって片膝立ちになり、相手の右手を取って手の甲にキスをするんだ」

「……」

 嘘くさい。正直言って嘘くさい。
 しかし、リカルドは真剣な目をしている。
 
「君には、パオラをちゃんと諦めて貰わないと、私の気が休まらないからね」

 なるほど。そういう事か。
 数か月前。パオラの取り合いで決闘したことを、リカルドはまだ根に持っているようだ。

 既に2人は挙式を挙げている。そんな2人の仲に、俺が割り込める隙などない事位理解しているが。
 それでも不安に思うくらい、好きなのだろうな。

「わかった。リカルド。お前を信じよう」

「あぁ。頑張れよ」

 そう言って信じた俺が間違いだったようだ。

「初めまして。マルクと申します。お父上とは日頃からお仕事でお世話になっております」

「初めましてマルク様。レナと申します」

 俺は挨拶をし、片膝立ちになる。
 そして、スカートの裾を掴むレナの腕を取り、手の甲に口づけをした。

「まぁ……マルク様……」

「マルク様。いきなり情熱的でございますね」

 顔を真っ赤にするレナと、困ったように笑うザガロを見て理解した。
 俺はリカルドに騙されたようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

自分の完璧に応えられない妻を売った伯爵の末路

めぐめぐ
恋愛
伯爵である彼――ボルグ・ヒルス・ユーバンクは常に、自分にとっての完璧を求めていた。 全てが自分の思い通りでなければ気が済まなかったが、周囲がそれに応えていた。 たった一人、妻アメリアを除いては。 彼の完璧に応えられない妻に苛立ち、小さなことで責め立てる日々。 セーラという愛人が出来てからは、アメリアのことが益々疎ましくなっていく。 しかし離縁するには、それ相応の理由が必要なため、どうにかセーラを本妻に出来ないかと、ボルグは頭を悩ませていた。 そんな時、彼にとって思いも寄らないチャンスが訪れて―― ※1万字程。書き終えてます。 ※元娼婦が本妻になれるような世界観ですので、設定に関しては頭空っぽでお願いしますm(_ _"m) ※ごゆるりとお楽しみください♪

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

【完結】妃が毒を盛っている。

ファンタジー
2年前から病床に臥しているハイディルベルクの王には、息子が2人いる。 王妃フリーデの息子で第一王子のジークムント。 側妃ガブリエレの息子で第二王子のハルトヴィヒ。 いま王が崩御するようなことがあれば、第一王子が玉座につくことになるのは間違いないだろう。 貴族が集まって出る一番の話題は、王の後継者を推測することだった―― 見舞いに来たエルメンヒルデ・シュティルナー侯爵令嬢。 「エルメンヒルデか……。」 「はい。お側に寄っても?」 「ああ、おいで。」 彼女の行動が、出会いが、全てを解決に導く――。 この優しい王の、原因不明の病気とはいったい……? ※オリジナルファンタジー第1作目カムバックイェイ!! ※妖精王チートですので細かいことは気にしない。 ※隣国の王子はテンプレですよね。 ※イチオシは護衛たちとの気安いやり取り ※最後のほうにざまぁがあるようなないような ※敬語尊敬語滅茶苦茶御免!(なさい) ※他サイトでは佳(ケイ)+苗字で掲載中 ※完結保証……保障と保証がわからない! 2022.11.26 18:30 完結しました。 お付き合いいただきありがとうございました!

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...