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(ざまぁ)28.平凡令嬢、元婚約者と姉に引導を渡す。
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-パオラ視点-
ついに私は、いえ、私達はここまでたどり着いた。
長い廊下を抜けた先。そこにあるのは王の間の扉。
バンッ!
扉を開くと、そこにはあの時のように、ジュリアン様とカチュアお姉さまが佇んでいます。
ここで私は、ジュリアン様に婚約破棄を言い渡され、カチュアお姉さまに言い負かされ、泣いて逃げ出しました。
「ジュリアン様……カチュアお姉さま……」
思わず名前をつぶやくと、ジュリアン様とカチュアお姉さまは、私を見て笑います。
まるで、口が裂けるのではないかと思えるほどの笑みを、ニタァと浮かべて……。
……怖い。
2人は笑っているだけだというのに、何故か足が竦み、全身が震えます。
「パオラ。大丈夫だ」
ポンっと、私の頭に手が置かれました。
リカルド様は私の緊張を察して、頭を撫でてくれたのでしょう。
ですが、私の頭を撫でるリカルド様の手は、少し震えていました。
リカルド様は恐怖に捕らわれながらも、私の心配をしてくださっている。
……私も覚悟を決めようと思います。
我が家に伝わるナイフを手に、大きく深呼吸をします。
魔力を込め、ナイフから剣の長さになるように魔力で編んだ刃を伸ばし、構えました。
その間にも王座の周りにはゾロゾロと人が集まり、既にジュリアン様もカチュアお姉さまも囲まれた状態です。
囲まれた状態だというのに、ジュリアン様もカチュアお姉さまも余裕の笑みを浮かべたまま。まるでこの程度造作でもないと言わんばかりに……。
「戦う前に一つ良いか?」
私達の前に、マルク様が出てきました。
余裕の笑みでジュリアン様とカチュアお姉さまが答えました。
「ほう? 申してみろ」
「ちなみに、今更寝返ると言った所で、もう遅いですよ」
そんな2人に対し、マルク様の視線は冷ややかです。
はぁ、とわざとらしくため息をついて、ジュリアン様とカチュアお姉さまを指さしました。
「お前たち。それぞれが皇帝竜と魔王を倒したって嘯いてるけど、倒したのはリカルドとパオラだぞ?」
「えっ?」
「えっ?」
ジュリアン様とカチュア様が同時に顔を見合わせ、そしてこちらを見ます。
「えっ、ええ、そうですけど。カチュアお姉さまは御存じなはずですが?」
「兄上も、私が皇帝竜を倒したのは知っているはずですが?」
「いやっ、その……」
「何というか、だな……」
『おい。我はこの男が皇帝竜を倒した男だから組むと、盟約を交わしたのだが』
『待った待った。魔王を倒した娘と共に戦うと聞いたのだが?』
何やら2人の背中から黒い靄が出ています。
その靄から発せられる低い声に聞き覚えがありました。かつて私が倒した魔王です。
一体、どうしたというのでしょうか?
私達が皇帝竜と魔王を倒したというだけであそこまで狼狽え、しかも背後にはそれぞれ魔王と皇帝竜の残滓のような物が居ます。全く話が見えません。
「つまりだ。ジュリアンもカチュアも皇帝竜や魔王を倒してなんかいない。リカルドとパオラの手柄を横取りしただけで、戦う力なんか無いってことだ」
えっ……?
お姉さまは非凡で、私程度じゃ相手にならない。そんな存在だったはずですが?
チラっとお姉さまを見ると「ヒィッ」と小さな悲鳴を上げられました。
まさか、今までカチュアお姉さまが私に言っていたのは、嘘だったのですか?
『悪いが勝ち目のない戦いをする気はない。さらばだ!』
そう言うと、黒い靄は四散し消えていきました。
必死に消える靄を掴み、口から取り入れようとするジュリアン様とカチュア様ですが、掴もうとした靄は既に消え去っています。
消えた靄を見つめるジュリアン様を、カチュアお姉さまがキッと睨みつけます。
「ど、どういう事よ! ジュリアン様は私に今まで嘘をついてらっしゃったのですか!?」
「き、君の方こそ、魔王を倒したと私に嘘をついていたではないか!」
「あ、あなたって人は、自分を棚に上げて!!!」
2人が顔を真っ赤にしながらキーキーと金切り声を上げ、言い争い始めました。
私はと言うと、いまだに理解が追い付かず、その様子をポカーンと眺めているだけです。
……つまり、ジュリアン様も、カチュアお姉さまも平凡で、私がその嘘に踊らされていただけ?
隣に立つリカルド様を見ると、同じようにポカーンと口を開けていました。
「そんな……」
どうやら、リカルド様も気づいて居なかったようです。
「マ、マルク様はいつから気付いてたのですか?」
マルク様に問いかけます。
「ははっ、いつからだろうね」
完全に目を逸らして、苦笑いをされました。
実は知ってましたよね!? その顔、知ってて黙ってた顔ですよね!?
「俺を問い詰めるよりも先に、問い詰める人物が居るだろ?」
そう言ってマルク様が指さす先には、兵士に取り押さえられ、なおも口汚く罵り合いをしているジュリアン様とカチュアお姉さま。
私が2人に近づくと、ジュリアン様が兵士を振り払い、私にしがみついてきました。
「パオラ。君だけだ! 私には君しかいない! 私はあの悪い女に騙されていただけなんだ!」
私の両腕を掴み、必死に懇願してきます。
「私と君は婚約者だ。もう一度やり直そう! 今度こそ理想の国を作ろう!」
そう言うと笑顔を作り、吸い込まれそうな程に透き通った青い瞳を、段々と私に近づけてきます。
パァン!
乾いた音が、辺りに響き渡りました。私がジュリアン様に平手打ちをした音です。
パァン!
続けざまにもう一度、平手打ちをしました。
何という浅ましさでしょうか。
この状況で、そこまで言えるとは。
婚約者? 一方的に破棄をしたのはジュリアン様ではないですか。
「こぉんの! 調子に乗りやがってクソビッチが! 誰の顔をはたいたと思っているんだ!」
もはや、ジュリアン様には何も感じません。
このような方をお慕いし、婚約破棄に涙を流したのですか。私は……。
はぁ。溜め息が出ます。
「よくやったわパオラ! 私はあの男に騙されていたのよ! 貴女なら分かってくれると信じていたわ!」
暴れるジュリアン様に兵士が集中した瞬間を狙い、カチュアお姉さまが私に飛びついてきました。
「貴女と私は血を分けた姉妹。分かり合えると信じていたわ。色々と誤解はあったけど、これで全て水に流して昔みたいに仲良くしましょう? ねっ?」
……はぁ。
もはや怒る気力すら起きません。
「……カチュアお姉さま」
「なぁにパオラ?」
満面の笑みで、私を見つめるカチュアお姉さま。
「これからジュリアン様とカチュアお姉さまは捕えられ、身分のはく奪が行われます」
「えっ……?」
カチュアお姉さまの笑顔が固まりました。
どうやら、この後自分たちがどうなるか、考えてなかったみたいです。
「お二人はもう王族でも貴族でも無くなります。当然、財産も没収されます」
「な、何を言ってるの?」
「その後、裁判が待っています。治安維持の名目で、数多くの民を今まで死に至らしめたので、死罪が妥当でしょう」
「ちょっ、ちょっとやめなさいよ」
「その前に監獄ですね。カチュアお姉さまはとても美しいですから、ストレスのたまった囚人達のお相手をさせられるんじゃないでしょうか」
「お相手って、それってまさか……いや、イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
淡々と語り掛けますが、実の所どうなるかわかりません。
ただ私だったら嫌だなと思う事を、適当に口から出まかせを言っているだけですが、効果は絶大のようです。
「いやよ! なんで私が! 私は悪くない! 謝るから! お願い許して……イヤアアアアアアアアアア!!!」
兵士達に押さえつけられてもなお、頭を振り回し半狂乱になりながら、キンキンと頭に響く金切り声をあげるカチュアお姉さま。
取り押さえられ連行される間、お姉さまの叫び声は王宮全体に木霊していたそうです。
「あの……申し訳ありません。私一人でやってしまいましたが、リカルド様は宜しかったのでしょうか?」
感情のままにぶつけてしまい、リカルド様の復讐の事を忘れていました。
「いや、良いよ。君がやってくれたおかげで、私の胸もすいたよ」
申し訳なく俯く私の頭を、リカルド様はそう言うと優しく撫でてくれました。
ジュリアン様とカチュアお姉さまの叫び声が木霊すと、リカルド様が笑います。
それにつられ、他の者も笑いだしました。
ついに私は、いえ、私達はここまでたどり着いた。
長い廊下を抜けた先。そこにあるのは王の間の扉。
バンッ!
扉を開くと、そこにはあの時のように、ジュリアン様とカチュアお姉さまが佇んでいます。
ここで私は、ジュリアン様に婚約破棄を言い渡され、カチュアお姉さまに言い負かされ、泣いて逃げ出しました。
「ジュリアン様……カチュアお姉さま……」
思わず名前をつぶやくと、ジュリアン様とカチュアお姉さまは、私を見て笑います。
まるで、口が裂けるのではないかと思えるほどの笑みを、ニタァと浮かべて……。
……怖い。
2人は笑っているだけだというのに、何故か足が竦み、全身が震えます。
「パオラ。大丈夫だ」
ポンっと、私の頭に手が置かれました。
リカルド様は私の緊張を察して、頭を撫でてくれたのでしょう。
ですが、私の頭を撫でるリカルド様の手は、少し震えていました。
リカルド様は恐怖に捕らわれながらも、私の心配をしてくださっている。
……私も覚悟を決めようと思います。
我が家に伝わるナイフを手に、大きく深呼吸をします。
魔力を込め、ナイフから剣の長さになるように魔力で編んだ刃を伸ばし、構えました。
その間にも王座の周りにはゾロゾロと人が集まり、既にジュリアン様もカチュアお姉さまも囲まれた状態です。
囲まれた状態だというのに、ジュリアン様もカチュアお姉さまも余裕の笑みを浮かべたまま。まるでこの程度造作でもないと言わんばかりに……。
「戦う前に一つ良いか?」
私達の前に、マルク様が出てきました。
余裕の笑みでジュリアン様とカチュアお姉さまが答えました。
「ほう? 申してみろ」
「ちなみに、今更寝返ると言った所で、もう遅いですよ」
そんな2人に対し、マルク様の視線は冷ややかです。
はぁ、とわざとらしくため息をついて、ジュリアン様とカチュアお姉さまを指さしました。
「お前たち。それぞれが皇帝竜と魔王を倒したって嘯いてるけど、倒したのはリカルドとパオラだぞ?」
「えっ?」
「えっ?」
ジュリアン様とカチュア様が同時に顔を見合わせ、そしてこちらを見ます。
「えっ、ええ、そうですけど。カチュアお姉さまは御存じなはずですが?」
「兄上も、私が皇帝竜を倒したのは知っているはずですが?」
「いやっ、その……」
「何というか、だな……」
『おい。我はこの男が皇帝竜を倒した男だから組むと、盟約を交わしたのだが』
『待った待った。魔王を倒した娘と共に戦うと聞いたのだが?』
何やら2人の背中から黒い靄が出ています。
その靄から発せられる低い声に聞き覚えがありました。かつて私が倒した魔王です。
一体、どうしたというのでしょうか?
私達が皇帝竜と魔王を倒したというだけであそこまで狼狽え、しかも背後にはそれぞれ魔王と皇帝竜の残滓のような物が居ます。全く話が見えません。
「つまりだ。ジュリアンもカチュアも皇帝竜や魔王を倒してなんかいない。リカルドとパオラの手柄を横取りしただけで、戦う力なんか無いってことだ」
えっ……?
お姉さまは非凡で、私程度じゃ相手にならない。そんな存在だったはずですが?
チラっとお姉さまを見ると「ヒィッ」と小さな悲鳴を上げられました。
まさか、今までカチュアお姉さまが私に言っていたのは、嘘だったのですか?
『悪いが勝ち目のない戦いをする気はない。さらばだ!』
そう言うと、黒い靄は四散し消えていきました。
必死に消える靄を掴み、口から取り入れようとするジュリアン様とカチュア様ですが、掴もうとした靄は既に消え去っています。
消えた靄を見つめるジュリアン様を、カチュアお姉さまがキッと睨みつけます。
「ど、どういう事よ! ジュリアン様は私に今まで嘘をついてらっしゃったのですか!?」
「き、君の方こそ、魔王を倒したと私に嘘をついていたではないか!」
「あ、あなたって人は、自分を棚に上げて!!!」
2人が顔を真っ赤にしながらキーキーと金切り声を上げ、言い争い始めました。
私はと言うと、いまだに理解が追い付かず、その様子をポカーンと眺めているだけです。
……つまり、ジュリアン様も、カチュアお姉さまも平凡で、私がその嘘に踊らされていただけ?
隣に立つリカルド様を見ると、同じようにポカーンと口を開けていました。
「そんな……」
どうやら、リカルド様も気づいて居なかったようです。
「マ、マルク様はいつから気付いてたのですか?」
マルク様に問いかけます。
「ははっ、いつからだろうね」
完全に目を逸らして、苦笑いをされました。
実は知ってましたよね!? その顔、知ってて黙ってた顔ですよね!?
「俺を問い詰めるよりも先に、問い詰める人物が居るだろ?」
そう言ってマルク様が指さす先には、兵士に取り押さえられ、なおも口汚く罵り合いをしているジュリアン様とカチュアお姉さま。
私が2人に近づくと、ジュリアン様が兵士を振り払い、私にしがみついてきました。
「パオラ。君だけだ! 私には君しかいない! 私はあの悪い女に騙されていただけなんだ!」
私の両腕を掴み、必死に懇願してきます。
「私と君は婚約者だ。もう一度やり直そう! 今度こそ理想の国を作ろう!」
そう言うと笑顔を作り、吸い込まれそうな程に透き通った青い瞳を、段々と私に近づけてきます。
パァン!
乾いた音が、辺りに響き渡りました。私がジュリアン様に平手打ちをした音です。
パァン!
続けざまにもう一度、平手打ちをしました。
何という浅ましさでしょうか。
この状況で、そこまで言えるとは。
婚約者? 一方的に破棄をしたのはジュリアン様ではないですか。
「こぉんの! 調子に乗りやがってクソビッチが! 誰の顔をはたいたと思っているんだ!」
もはや、ジュリアン様には何も感じません。
このような方をお慕いし、婚約破棄に涙を流したのですか。私は……。
はぁ。溜め息が出ます。
「よくやったわパオラ! 私はあの男に騙されていたのよ! 貴女なら分かってくれると信じていたわ!」
暴れるジュリアン様に兵士が集中した瞬間を狙い、カチュアお姉さまが私に飛びついてきました。
「貴女と私は血を分けた姉妹。分かり合えると信じていたわ。色々と誤解はあったけど、これで全て水に流して昔みたいに仲良くしましょう? ねっ?」
……はぁ。
もはや怒る気力すら起きません。
「……カチュアお姉さま」
「なぁにパオラ?」
満面の笑みで、私を見つめるカチュアお姉さま。
「これからジュリアン様とカチュアお姉さまは捕えられ、身分のはく奪が行われます」
「えっ……?」
カチュアお姉さまの笑顔が固まりました。
どうやら、この後自分たちがどうなるか、考えてなかったみたいです。
「お二人はもう王族でも貴族でも無くなります。当然、財産も没収されます」
「な、何を言ってるの?」
「その後、裁判が待っています。治安維持の名目で、数多くの民を今まで死に至らしめたので、死罪が妥当でしょう」
「ちょっ、ちょっとやめなさいよ」
「その前に監獄ですね。カチュアお姉さまはとても美しいですから、ストレスのたまった囚人達のお相手をさせられるんじゃないでしょうか」
「お相手って、それってまさか……いや、イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
淡々と語り掛けますが、実の所どうなるかわかりません。
ただ私だったら嫌だなと思う事を、適当に口から出まかせを言っているだけですが、効果は絶大のようです。
「いやよ! なんで私が! 私は悪くない! 謝るから! お願い許して……イヤアアアアアアアアアア!!!」
兵士達に押さえつけられてもなお、頭を振り回し半狂乱になりながら、キンキンと頭に響く金切り声をあげるカチュアお姉さま。
取り押さえられ連行される間、お姉さまの叫び声は王宮全体に木霊していたそうです。
「あの……申し訳ありません。私一人でやってしまいましたが、リカルド様は宜しかったのでしょうか?」
感情のままにぶつけてしまい、リカルド様の復讐の事を忘れていました。
「いや、良いよ。君がやってくれたおかげで、私の胸もすいたよ」
申し訳なく俯く私の頭を、リカルド様はそう言うと優しく撫でてくれました。
ジュリアン様とカチュアお姉さまの叫び声が木霊すと、リカルド様が笑います。
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