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18.平凡令嬢、商人と聖人の仲を取り持つ。

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 私達は、ローレンス様のお屋敷へ戻ってきました。

 バハムートに乗って帰れば、必ず騒ぎになるという事で、一度森で降りてから馬車に乗り換えて来ました。
 空の旅はとても便利なので惜しいのですが、今は下手に目立つのは良くないので仕方がありません。

 戻った私達を、ローレンス様と死神の鎌。それにローレンス様が集めたという有力な商会の会頭さんがお出迎えしてくれました。
 ウェンディ様やロウルズ様を軽く紹介して、早速会議との事です。
 本当はゆっくりしてからと言いたい所ですが、私が思っている以上に状況が変わっているのでしょう。

 現在ローレンス様のお屋敷には、ローレンス様の家族の他に、ミシェラン商会の会頭ミシェラン様とそのご家族、シーズ商会の会頭シーズ様とそのご家族。それと、レジスタンスの方々が避難しています。
 私達がウェンディ様をお迎えする間に、ローレンス様と死神の鎌が色々と動いてくださったおかげで、彼らに被害が出る前に保護することが出来たそうです。

 レジスタンスの方々の無事を確認したい所ですが、まずは会議です。
 会議には出席するのは。

 各会頭のローレンス様、ミシェラン様、シーズ様。
 レジスタンスからはマルク様とゴードン様。テミスの大司教のウェディ様。
 そして、リカルド様と私の8人です。
 長方形のテーブルにそれぞれが座ったのを確認すると、ローレンス様が立ち上がりました。

「本日はお忙しい所、お越しくださいまして誠にありがとうございます」

「そないな挨拶いらんから、本題移れや!」

「せやせや!」

 ローレンス様の挨拶に、ミシェラン様とシーズ様がヤジを飛ばしました。
 それに対し「すんまへん」と笑いながら返すローレンス様。
 ヤジを飛ばした側も笑っている所を見ると、怒ってるのではなく、これが彼らなりの挨拶なのでしょう。
 ですが、それを良しとしない方もいました。

「全く。これだから商人という人種は……」

 ウェンディ様です。
 あえて聞こえるような声で呟き、大きくため息を吐きました。

「なんや爺さん? やんのか!?」

「商人だからなんや? 自分らなんて乞食しとるだけやないか!」

 一瞬の内にお互いがヒートアップしていきます。商人と聖人。相容れない関係とは聞き及んでおりますが、ここまでとは思いませんでした。
 なおも口汚く罵り合い、マルク様やリカルド様が仲裁に入ろうとしても聞く耳を持ってくれません。

「このような連中と組めというのでしたら、私は辞退させていただく!」

「な、なんやねん自分……」

 ダンッ!とテーブルを叩き、立ち上がったウェンディ司祭。会頭の方々は言い過ぎたと思っているのか、先ほどと打って変わって大人しくなっています。 
 このままウェンディ様が出ていけば、会議どころではなくなります。このまま見過ごすわけには行きません。

「ウェンディ様!」

「……なにかね?」

 私は急いで立ち上がり、去ろうとするウェンディ様の前に立ちました。

「今一度、お考え直しを」

「考え直す? 申し訳ありませんが無理ですよ。神を信じろとまでは言いませんが、馬鹿にされては黙っていられません」

「いえ……彼らは決して神を馬鹿にはしておりません」

「ほう?」

「証拠ならあります」

 ウェンディ様は足を止めて、無言でローレンス様達を品定めするように見てから、私に向き直りました。

「どこに証拠があるというのかな?」

 ローレンス様に、私は語り掛けます。

「ローレンス様、それとミシェラン様にシーズ様。貴方達の手は、汚れていますか?」

 もちろん汚いかどうかではなく、罪があるかという意味です。

「めっちゃ汚れとるで……」

 ローレンス様の返事の後、2人は続けて「ワイもや」と言いました。
 ウェインディ様のため息のつく声が聞こえてきます。

「それでは、手を洗いましょう?」

「はぁ……ワイらのは、もう洗った所で落ちへんわ」

 ローレンス様、ミシェラン様、シーズ様がそう言うと、ウェンディ様は不快感を顔に出しました。

「ウェンディ様。彼らは自らに罪がある事を認め、それが洗った程度じゃ落ちないと言っております。もし神を馬鹿にする方でしたら自らの手が汚れているというでしょうか?」

「むっ……」

「自らの罪の重さに、手を洗っても落ちないと嘆く彼らは……救うべき迷える子羊なのではないでしょうか?」

「う、う~む……」

 注目を集め、ウェンディ様はしばし悩みぬいた後、大きくため息をつきました。

「貴方達御三方。これから毎朝、手を洗い清めるのですよ。出来る限り、私も立ち会いますから」

 そう言うと、ウェンディ様は踵を返し、自分の席に戻っていきました。
 ふぅ……。これで、何とか会議は続けられそうです。

「パオラ良くやった。凄いじゃないか」

「いえ、それほどでも……」

 席に座った私の頭をリカルド様が撫でてくれました。
 頭を撫でられ嬉しいのですが、まだ心臓がバクバクいっており、それどころではありません。
 正直、納得してもらえるか不安で、自分でも少々混乱していたのですから。
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