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17.平凡令嬢、話し合いの席を設ける。
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‐ウェンディ邸‐
その部屋は、普段から掃除が行き届いてるのでしょう。
全体的に純白を思わせるような白い壁に囲まれ、窓から入る光が部屋全体に拡散し、清潔感のある明るさが感じられます。
奇麗に磨き上げられた床は、まるで鏡のように反射しています。
部屋全体が甘い匂いに包まれているのは、きっとお香が焚かれているからでしょう。
壁に掛けられた大きな絵画、美術的価値が高そうな調度品の数々。それらは見栄の為ではなく、見る者を楽しませるように配置されており、厭らしさを感じさせません。
「パオラ。どうぞ」
「わざわざリカルド様が……いけません」
客間に通された私達は、客室用の大きなテーブルまで来ました。
テーブルに座ろうとする私に対し、リカルド様が私に椅子を引いてくれたのは嬉しいのですが、身分差を考えればそのような事をさせるなんて恐れが多いです。
「私が君にしてあげたいんだ。ダメかな?」
物憂げにはにかむリカルド様。そんな目で見られては、断る事が出来ません。
それに例え断ったとしても、座ってくれるまでここから一歩も動かないぞ、とリカルド様の顔に描かれています。
「ありがとうございます」
とはいえ、リカルド様の面子を潰すわけにもいきません。
素直にお礼を言って座ると、満足そうに私の隣に座りました。
マルク様はリカルド様の隣に座り、アンソン様は私達の対面に座りました。
しばしの沈黙。
コツコツコツと床の歩く音を立て、祭服に身を包んだ一人の初老の男性がやってきました。
「初めまして皆様方。司教のウェンディと申します」
穏やかな笑みを浮かべ、軽く会釈をするウェンディ様。
「お初にお目にかかります。リカルドと申します」
立ち上がり、胸に手を当てて腰を折るリカルド様。
それに続き私も立ち上がり、スカートの裾を少し持ち上げ挨拶をします。
私が目で合図を送ると、マルク様も慌てて立ち上がり、リカルド様をチラリと見て、同じような挨拶をしました。
その様子に、私とリカルド様も思わず笑いそうになってしまいます。
その後にアンソン様も立ち上がり、ウェンディ様に挨拶を済ませました。
「それで、本日はどのようなご用件で……」
ウェンディ様はテーブルの端にある上座に座ると、使用人が私達に紅茶を入れ、お香とはまた違った甘い匂いがふわりと広がっていきます。
全員の視線がアンソン様に向けられます。アンソン様はコホンと一つ咳をしてから話し始めました。
ヴェラにある商業都市が突如消滅し、その為に物流が滞っている事。
更にその状況に興じてヴェラを侵略しようとしている組織と、それらを手引きしている者が居る事。
その槍玉として挙げられたのが、ローレンス商会の会頭ローレンス様、宗教国家テミスの大司教ウェンディ様、等の有力な方々です。
ジュリアン様は彼らを捕えるため、ほぼ侵略に近いような強引な手を使っているというのです。
「わ、私どもがそのような恐れ多い事を……? それはありえません」
ウェンディ様も、流石の内容に温和の笑みを崩し、抗議します。
「おかしくありませんか? その様な事をすれば、例え真実であったとして、諸外国から反感を買うのではないでしょうか?」
最悪の場合、戦争の引き金にだってなりかねません。
非凡なジュリアン様と、非凡なカチュアお姉様がそのような命令を本当に下したのでしょうか?
些か疑問が残ります。
「正直、私も困惑している。民を守るべきの我々がこのような事をしていては、いずれ、いや、既に取り返しのつかない事態に陥ってしまっているかもしれん」
「それでしたらアンソン様。リカルド様に力をお貸しください。民からも慕われている貴方がこちらに加わって貰えれば……」
「それはなりません。私は武人。主君を裏切る事は出来ません……」
アンソン様はそう言うと、リカルド様に頭を下げます。
「このままでは、我々はウェンディ殿を力づくで連れて行かねばならなくなります。勝手な事だと分かっていますが出来れば今すぐウェンディ殿を連れて逃げてくださりませんか?」
「アンソン……。分かった。貴殿の心使いに感謝する。ウェンディ殿もそれで宜しいでしょうか?」
「……はい。今の状況で私がここに残れば、周囲の者にも被害をもたらすことになるでしょう」
ウェンディ様は頷いた後、使用人に荷物の準備を指示します。
「それと、私の息子ロウルズを連れて行って貰えないだろうか? 正義感が強く、それで融通が利かない事もあるが、リカルド様と共にしどちらが本当の正義か見極めて貰いたいのだ」
「わかりました。マルクも良いよね?」
「あぁ、構わない」
ウェインディ様とロウルズ様を連れ、私達はバハムートの背に乗りテミスを出ました。
はぁ……つい溜め息が出ます。色々な事があり、少々混乱しているからでしょう。
こんな時は立ち上がって空からの景色を楽しみ、気分を変えたいのですが、あいにく下着を殿方に見せる趣味はありません。
代わりに、ポケットに入っている草を取り出します。前にリカルド様から頂いた物です。
これを口に当ててプーと音を出してみると。いくらか気分が晴れてきました。
少々しなびてしまったせいか、音が変わった気がします。ですが、それはそれで面白い物です。
「あっ……」
そういえばこの草笛……リカルド様が一度、口にしてから頂いたものでした……。
それって、つまり……リカルド様と間接キス……ですよね……。
その部屋は、普段から掃除が行き届いてるのでしょう。
全体的に純白を思わせるような白い壁に囲まれ、窓から入る光が部屋全体に拡散し、清潔感のある明るさが感じられます。
奇麗に磨き上げられた床は、まるで鏡のように反射しています。
部屋全体が甘い匂いに包まれているのは、きっとお香が焚かれているからでしょう。
壁に掛けられた大きな絵画、美術的価値が高そうな調度品の数々。それらは見栄の為ではなく、見る者を楽しませるように配置されており、厭らしさを感じさせません。
「パオラ。どうぞ」
「わざわざリカルド様が……いけません」
客間に通された私達は、客室用の大きなテーブルまで来ました。
テーブルに座ろうとする私に対し、リカルド様が私に椅子を引いてくれたのは嬉しいのですが、身分差を考えればそのような事をさせるなんて恐れが多いです。
「私が君にしてあげたいんだ。ダメかな?」
物憂げにはにかむリカルド様。そんな目で見られては、断る事が出来ません。
それに例え断ったとしても、座ってくれるまでここから一歩も動かないぞ、とリカルド様の顔に描かれています。
「ありがとうございます」
とはいえ、リカルド様の面子を潰すわけにもいきません。
素直にお礼を言って座ると、満足そうに私の隣に座りました。
マルク様はリカルド様の隣に座り、アンソン様は私達の対面に座りました。
しばしの沈黙。
コツコツコツと床の歩く音を立て、祭服に身を包んだ一人の初老の男性がやってきました。
「初めまして皆様方。司教のウェンディと申します」
穏やかな笑みを浮かべ、軽く会釈をするウェンディ様。
「お初にお目にかかります。リカルドと申します」
立ち上がり、胸に手を当てて腰を折るリカルド様。
それに続き私も立ち上がり、スカートの裾を少し持ち上げ挨拶をします。
私が目で合図を送ると、マルク様も慌てて立ち上がり、リカルド様をチラリと見て、同じような挨拶をしました。
その様子に、私とリカルド様も思わず笑いそうになってしまいます。
その後にアンソン様も立ち上がり、ウェンディ様に挨拶を済ませました。
「それで、本日はどのようなご用件で……」
ウェンディ様はテーブルの端にある上座に座ると、使用人が私達に紅茶を入れ、お香とはまた違った甘い匂いがふわりと広がっていきます。
全員の視線がアンソン様に向けられます。アンソン様はコホンと一つ咳をしてから話し始めました。
ヴェラにある商業都市が突如消滅し、その為に物流が滞っている事。
更にその状況に興じてヴェラを侵略しようとしている組織と、それらを手引きしている者が居る事。
その槍玉として挙げられたのが、ローレンス商会の会頭ローレンス様、宗教国家テミスの大司教ウェンディ様、等の有力な方々です。
ジュリアン様は彼らを捕えるため、ほぼ侵略に近いような強引な手を使っているというのです。
「わ、私どもがそのような恐れ多い事を……? それはありえません」
ウェンディ様も、流石の内容に温和の笑みを崩し、抗議します。
「おかしくありませんか? その様な事をすれば、例え真実であったとして、諸外国から反感を買うのではないでしょうか?」
最悪の場合、戦争の引き金にだってなりかねません。
非凡なジュリアン様と、非凡なカチュアお姉様がそのような命令を本当に下したのでしょうか?
些か疑問が残ります。
「正直、私も困惑している。民を守るべきの我々がこのような事をしていては、いずれ、いや、既に取り返しのつかない事態に陥ってしまっているかもしれん」
「それでしたらアンソン様。リカルド様に力をお貸しください。民からも慕われている貴方がこちらに加わって貰えれば……」
「それはなりません。私は武人。主君を裏切る事は出来ません……」
アンソン様はそう言うと、リカルド様に頭を下げます。
「このままでは、我々はウェンディ殿を力づくで連れて行かねばならなくなります。勝手な事だと分かっていますが出来れば今すぐウェンディ殿を連れて逃げてくださりませんか?」
「アンソン……。分かった。貴殿の心使いに感謝する。ウェンディ殿もそれで宜しいでしょうか?」
「……はい。今の状況で私がここに残れば、周囲の者にも被害をもたらすことになるでしょう」
ウェンディ様は頷いた後、使用人に荷物の準備を指示します。
「それと、私の息子ロウルズを連れて行って貰えないだろうか? 正義感が強く、それで融通が利かない事もあるが、リカルド様と共にしどちらが本当の正義か見極めて貰いたいのだ」
「わかりました。マルクも良いよね?」
「あぁ、構わない」
ウェインディ様とロウルズ様を連れ、私達はバハムートの背に乗りテミスを出ました。
はぁ……つい溜め息が出ます。色々な事があり、少々混乱しているからでしょう。
こんな時は立ち上がって空からの景色を楽しみ、気分を変えたいのですが、あいにく下着を殿方に見せる趣味はありません。
代わりに、ポケットに入っている草を取り出します。前にリカルド様から頂いた物です。
これを口に当ててプーと音を出してみると。いくらか気分が晴れてきました。
少々しなびてしまったせいか、音が変わった気がします。ですが、それはそれで面白い物です。
「あっ……」
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