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9.非凡太子、商会へ強気の交渉に出る。

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-ジュリアン視点-


 カチュアを宥め、私は部屋に戻ってきた。
 彼女程の人物が、一体何に怯えていたかは分からなかったが、落ち着きを取り戻してくれたようなので大丈夫だろう。

 それよりも当面の問題は商業都市の消滅か。
 部屋に戻る際にアンソンを見つけ出し、詳しい話を聞いたが、どうも様子がおかしい。
 商業都市は、ここ王都の次に大きい都市だ。それが、いとも簡単に落とされるのだろうか?
 しかも話を聞くと、突然消滅したと言っている。そんな事は不可能だ。

 ……いや、そんなことが出来る人物に一人だけ心当たりがある。弟のリカルドだ。
 私よりも優秀なくせに、あいつはいつも「このくらいは平凡ですよね」などと、涼しい顔で言い放つのが気に食わなかった。
 皇位継承権は私のが上だ。だが誰も私を見ようとしなかった。優秀なあいつを慕いまるで時期国王のように扱われてた。

 努力しても勝てないのは分かっていた。だからあいつの成果を全て横取りにしてやった。
 あいつが何をするのか逐一確認しながら。
 リカルドが古代ルーン魔法の実験をしていたら、私は「古代ルーンの魔法を使ってみようと思う」と周りに触れ込むだけで、古代ルーン魔術の使い手と持て囃された。
 リカルドが皇帝竜討伐に向かったら、私は「今から皇帝竜を討伐してくる」と周りに触れ込むだけで、皇帝竜討伐の勇者と持て囃された。
 リカルドが良い政策を考え付いたら、私は「良い政策を思いついた」と周りに触れ込むだけで、名君主と持て囃された。
 馬鹿なあいつはそれに気づかず「流石兄さん。平凡な私とは違います」と言い続けた結果。あいつは追放同然の扱いを受け、国外へ逃亡した。

 こうして地位も名誉も手に入れ、皇太子としての位を確立させた。
 だが、それでも不安は残った。もし本気で弟が復讐に来たら、私では勝てない。いや、我が国の精鋭を揃えた部隊をもってしてもリカルドには敵わないだろう。
 不安で眠れぬ夜が続いた。

 ある日、私は風の噂で「非凡な令嬢が居る」と聞いた。
 曰く。彼女は神級魔法の使い手だ。
 曰く。彼女は魔王を討伐した。
 曰く。彼女は名領主である。

 噂の非凡令嬢を見つけ出し、婚約したは良いが、相手は平凡令嬢だった。
 幸いにして、”本物”の非凡は姉の方らしく、上手く彼女と婚約をする事が出来た。
 こうして、私に安息が訪れた。

 と言うのに、ここに来て婚約者カチュアの慌てようよ。
 聡明な彼女の事だ。商業都市の消失により、何らかの悪い未来が見えたに違いない。  
 ならば早急に手を打たねばならない。

「死神の鎌。居るか?」

「ここに」

 私の声に反応し、白い仮面に黒いフードで全身を隠した集団が現れる。
 彼らは我ら王族に古くから仕える暗殺者集団『死神の鎌』のメンバーだ。

「隣接するイーリス国にいる大商人の商会に協力を要請しろ。ただし交渉する気は一切ない。死ぬか服従かだ」 

「……要請も我々が?」

「そうだ。もし断った場合は『死神の鎌』と分かるように派手に殺していけ。大商人クラスならお前たちの事も知っているだろうから、断ったらどうなるか良い見せしめになる」

「しかし、わざわざ我々の存在を公に表すような真似をするのは、得策ではないと思われますが」

 腰から剣を引き抜き、私に口答えをした男の首を落とした。
 この程度の剣にすら反応出来ない腕で、何が死神の鎌だ。

「道具は道具らしく、言われた事を忠実にこなしていれば良い」

「はっ。御意に……」

 そう言い残すと、一瞬で姿を消した。今しがた殺した男の死体と飛び散った血も消えている。
 コンコンコン
 彼らが消えたと同時に、ノックの音が聞こえた。

「ジュリアン様。私です」

 こんな夜更けにどうしたかと思ったが、カチュアの格好を見て納得した。
 全身が透けて見えるランジェリー、恥部を隠すはずの下着だが、逆に恥部を見せるように作られた物で私の情欲を誘う。
 夜の営みに来たようだ。

「あの……声が聞こえた気がしたのですが、誰かいらっしゃったのでしょうか?」

「いや、商業都市が消滅してしまったのでな。どうするか考えていた所だ」

「そうでしたか」

 ゆっくりと私に近づき、カチュアは私の衣類を一枚づつ丁寧に脱がしていく。

「先ほど気分が悪そうにしていたが、体調は大丈夫なのか?」 

「ふふっ、大丈夫かどうか、ベッドの中で確かめてくださいまし」

 全く、非凡な彼女は本当に気立ての良い女だ。
 最初は弟が復讐しに来た時に私を守らせる護衛の為の婚約だったが、これなら妃の一人にしても良いと思えるほどだ。
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