9 / 49
9.非凡太子、商会へ強気の交渉に出る。
しおりを挟む
-ジュリアン視点-
カチュアを宥め、私は部屋に戻ってきた。
彼女程の人物が、一体何に怯えていたかは分からなかったが、落ち着きを取り戻してくれたようなので大丈夫だろう。
それよりも当面の問題は商業都市の消滅か。
部屋に戻る際にアンソンを見つけ出し、詳しい話を聞いたが、どうも様子がおかしい。
商業都市は、ここ王都の次に大きい都市だ。それが、いとも簡単に落とされるのだろうか?
しかも話を聞くと、突然消滅したと言っている。そんな事は不可能だ。
……いや、そんなことが出来る人物に一人だけ心当たりがある。弟のリカルドだ。
私よりも優秀なくせに、あいつはいつも「このくらいは平凡ですよね」などと、涼しい顔で言い放つのが気に食わなかった。
皇位継承権は私のが上だ。だが誰も私を見ようとしなかった。優秀なあいつを慕いまるで時期国王のように扱われてた。
努力しても勝てないのは分かっていた。だからあいつの成果を全て横取りにしてやった。
あいつが何をするのか逐一確認しながら。
リカルドが古代ルーン魔法の実験をしていたら、私は「古代ルーンの魔法を使ってみようと思う」と周りに触れ込むだけで、古代ルーン魔術の使い手と持て囃された。
リカルドが皇帝竜討伐に向かったら、私は「今から皇帝竜を討伐してくる」と周りに触れ込むだけで、皇帝竜討伐の勇者と持て囃された。
リカルドが良い政策を考え付いたら、私は「良い政策を思いついた」と周りに触れ込むだけで、名君主と持て囃された。
馬鹿なあいつはそれに気づかず「流石兄さん。平凡な私とは違います」と言い続けた結果。あいつは追放同然の扱いを受け、国外へ逃亡した。
こうして地位も名誉も手に入れ、皇太子としての位を確立させた。
だが、それでも不安は残った。もし本気で弟が復讐に来たら、私では勝てない。いや、我が国の精鋭を揃えた部隊をもってしてもリカルドには敵わないだろう。
不安で眠れぬ夜が続いた。
ある日、私は風の噂で「非凡な令嬢が居る」と聞いた。
曰く。彼女は神級魔法の使い手だ。
曰く。彼女は魔王を討伐した。
曰く。彼女は名領主である。
噂の非凡令嬢を見つけ出し、婚約したは良いが、相手は平凡令嬢だった。
幸いにして、”本物”の非凡は姉の方らしく、上手く彼女と婚約をする事が出来た。
こうして、私に安息が訪れた。
と言うのに、ここに来て婚約者カチュアの慌てようよ。
聡明な彼女の事だ。商業都市の消失により、何らかの悪い未来が見えたに違いない。
ならば早急に手を打たねばならない。
「死神の鎌。居るか?」
「ここに」
私の声に反応し、白い仮面に黒いフードで全身を隠した集団が現れる。
彼らは我ら王族に古くから仕える暗殺者集団『死神の鎌』のメンバーだ。
「隣接するイーリス国にいる大商人の商会に協力を要請しろ。ただし交渉する気は一切ない。死ぬか服従かだ」
「……要請も我々が?」
「そうだ。もし断った場合は『死神の鎌』と分かるように派手に殺していけ。大商人クラスならお前たちの事も知っているだろうから、断ったらどうなるか良い見せしめになる」
「しかし、わざわざ我々の存在を公に表すような真似をするのは、得策ではないと思われますが」
腰から剣を引き抜き、私に口答えをした男の首を落とした。
この程度の剣にすら反応出来ない腕で、何が死神の鎌だ。
「道具は道具らしく、言われた事を忠実にこなしていれば良い」
「はっ。御意に……」
そう言い残すと、一瞬で姿を消した。今しがた殺した男の死体と飛び散った血も消えている。
コンコンコン
彼らが消えたと同時に、ノックの音が聞こえた。
「ジュリアン様。私です」
こんな夜更けにどうしたかと思ったが、カチュアの格好を見て納得した。
全身が透けて見えるランジェリー、恥部を隠すはずの下着だが、逆に恥部を見せるように作られた物で私の情欲を誘う。
夜の営みに来たようだ。
「あの……声が聞こえた気がしたのですが、誰かいらっしゃったのでしょうか?」
「いや、商業都市が消滅してしまったのでな。どうするか考えていた所だ」
「そうでしたか」
ゆっくりと私に近づき、カチュアは私の衣類を一枚づつ丁寧に脱がしていく。
「先ほど気分が悪そうにしていたが、体調は大丈夫なのか?」
「ふふっ、大丈夫かどうか、ベッドの中で確かめてくださいまし」
全く、非凡な彼女は本当に気立ての良い女だ。
最初は弟が復讐しに来た時に私を守らせる護衛の為の婚約だったが、これなら妃の一人にしても良いと思えるほどだ。
カチュアを宥め、私は部屋に戻ってきた。
彼女程の人物が、一体何に怯えていたかは分からなかったが、落ち着きを取り戻してくれたようなので大丈夫だろう。
それよりも当面の問題は商業都市の消滅か。
部屋に戻る際にアンソンを見つけ出し、詳しい話を聞いたが、どうも様子がおかしい。
商業都市は、ここ王都の次に大きい都市だ。それが、いとも簡単に落とされるのだろうか?
しかも話を聞くと、突然消滅したと言っている。そんな事は不可能だ。
……いや、そんなことが出来る人物に一人だけ心当たりがある。弟のリカルドだ。
私よりも優秀なくせに、あいつはいつも「このくらいは平凡ですよね」などと、涼しい顔で言い放つのが気に食わなかった。
皇位継承権は私のが上だ。だが誰も私を見ようとしなかった。優秀なあいつを慕いまるで時期国王のように扱われてた。
努力しても勝てないのは分かっていた。だからあいつの成果を全て横取りにしてやった。
あいつが何をするのか逐一確認しながら。
リカルドが古代ルーン魔法の実験をしていたら、私は「古代ルーンの魔法を使ってみようと思う」と周りに触れ込むだけで、古代ルーン魔術の使い手と持て囃された。
リカルドが皇帝竜討伐に向かったら、私は「今から皇帝竜を討伐してくる」と周りに触れ込むだけで、皇帝竜討伐の勇者と持て囃された。
リカルドが良い政策を考え付いたら、私は「良い政策を思いついた」と周りに触れ込むだけで、名君主と持て囃された。
馬鹿なあいつはそれに気づかず「流石兄さん。平凡な私とは違います」と言い続けた結果。あいつは追放同然の扱いを受け、国外へ逃亡した。
こうして地位も名誉も手に入れ、皇太子としての位を確立させた。
だが、それでも不安は残った。もし本気で弟が復讐に来たら、私では勝てない。いや、我が国の精鋭を揃えた部隊をもってしてもリカルドには敵わないだろう。
不安で眠れぬ夜が続いた。
ある日、私は風の噂で「非凡な令嬢が居る」と聞いた。
曰く。彼女は神級魔法の使い手だ。
曰く。彼女は魔王を討伐した。
曰く。彼女は名領主である。
噂の非凡令嬢を見つけ出し、婚約したは良いが、相手は平凡令嬢だった。
幸いにして、”本物”の非凡は姉の方らしく、上手く彼女と婚約をする事が出来た。
こうして、私に安息が訪れた。
と言うのに、ここに来て婚約者カチュアの慌てようよ。
聡明な彼女の事だ。商業都市の消失により、何らかの悪い未来が見えたに違いない。
ならば早急に手を打たねばならない。
「死神の鎌。居るか?」
「ここに」
私の声に反応し、白い仮面に黒いフードで全身を隠した集団が現れる。
彼らは我ら王族に古くから仕える暗殺者集団『死神の鎌』のメンバーだ。
「隣接するイーリス国にいる大商人の商会に協力を要請しろ。ただし交渉する気は一切ない。死ぬか服従かだ」
「……要請も我々が?」
「そうだ。もし断った場合は『死神の鎌』と分かるように派手に殺していけ。大商人クラスならお前たちの事も知っているだろうから、断ったらどうなるか良い見せしめになる」
「しかし、わざわざ我々の存在を公に表すような真似をするのは、得策ではないと思われますが」
腰から剣を引き抜き、私に口答えをした男の首を落とした。
この程度の剣にすら反応出来ない腕で、何が死神の鎌だ。
「道具は道具らしく、言われた事を忠実にこなしていれば良い」
「はっ。御意に……」
そう言い残すと、一瞬で姿を消した。今しがた殺した男の死体と飛び散った血も消えている。
コンコンコン
彼らが消えたと同時に、ノックの音が聞こえた。
「ジュリアン様。私です」
こんな夜更けにどうしたかと思ったが、カチュアの格好を見て納得した。
全身が透けて見えるランジェリー、恥部を隠すはずの下着だが、逆に恥部を見せるように作られた物で私の情欲を誘う。
夜の営みに来たようだ。
「あの……声が聞こえた気がしたのですが、誰かいらっしゃったのでしょうか?」
「いや、商業都市が消滅してしまったのでな。どうするか考えていた所だ」
「そうでしたか」
ゆっくりと私に近づき、カチュアは私の衣類を一枚づつ丁寧に脱がしていく。
「先ほど気分が悪そうにしていたが、体調は大丈夫なのか?」
「ふふっ、大丈夫かどうか、ベッドの中で確かめてくださいまし」
全く、非凡な彼女は本当に気立ての良い女だ。
最初は弟が復讐しに来た時に私を守らせる護衛の為の婚約だったが、これなら妃の一人にしても良いと思えるほどだ。
6
お気に入りに追加
1,406
あなたにおすすめの小説
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです
ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」
宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。
聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。
しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。
冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる