6 / 49
6.平凡令嬢、助力する事を決める。
しおりを挟む
私の手は、まだ汚れていない?
じっと自分の手を見ると、手の中にコロコロと可愛らしいキャンディが転がっています。
今、リカルド様が転移魔法で出したキャンディですが、これを街全体の規模で?
「でも、どうやって? 現代魔術ではその様な事を出来るとは思えないのですが」
「はい。現代魔術では不可能なので、古代ルーン魔術を用いました。このように」
リカルド様が、またパチンと指を鳴らすと、カタカタと部屋全体から音が聞こえてきました。
何か硬い物が降って屋根に当たるような音です。
何が起きているのか窓の方へ目をやると、外は飴玉のお菓子が空から降っていました。それも街を覆うほどの。
「あっ。お菓子だ!」
外からは、子供たちの嬉しそうなはしゃぐ声が聞こえてきます。
「これで信じて貰えますか?」
「えぇ……」
「それとも、この街も転移させてみましょうか?」
「いえ、それは結構です!」
「ふふっ。冗談ですよ」
慌てふためく私を見て、またもやクスクス笑うリカルド様。
それがなんだか恥ずかしく感じ、私はまたシーツで顔を隠しました。
「古代ルーン魔術を使えるだなんて、凄いのですね」
「いえ。昔の人は普通に使っていた、『平凡な』魔法ですよ」
そんな事はありません。
そう思いましたが、確かに神級魔法も、昔の賢者様は普通に使えた『平凡な』魔法ですし、古代ルーン魔術も、もしかしたら『平凡』なのかもしれません。
でも、例えそうだとしてもこれだけ出来る事は凄い事です。そんなリカルド様をもってしても非凡と言わせるジュリアン様は一体どれほどの方なのか……。
「話を戻しますが、先ほど貴女の力を貸して頂きたいと言いましたが、少し訂正を宜しいでしょうか?」
「訂正ですか? 構いませんが」
「はい。力を貸してくれなくても良いので、出来れば私の傍に居て貰えないでしょうか?」
「えっ、えっ」
もしかして、リカルド様は私に一目ぼれした。という事でしょうか……。
「恥ずかしい話。実は私も貴女と同じだったのです」
「私と……同じ……?」
「はい。商業都市には、復讐の第一歩として街を破壊する予定でした。ですが貴女の手によって今まさに破壊される街を見て、私はとっさに転移魔法を使っていたのです」
「ん。ん~???」
真面目な顔でリカルド様が話しているが、私はそれどころではありません。
告白されると思い、心の整理をした所で告白は私の勘違いだったと知らされたのですから。
「あの……顔が真っ赤ですが、もしかして気分が優れないのでしたら、話は後にでも」
「いえ、大丈夫です! 続きをお願いします!」
リカルド様に見つめられたら、その透き通るような青い瞳が全てを見通してしまうような気がして、私は話の続きをお願いしました。
今の気持ちを悟られたら、またクスクスと笑われてしまうでしょう……でも、少し、悟られたいと思ってしまうのは、何故でしょう?
私を見て、「分かりました。それでは」と言って、リカルド様は続きを話し始めました。
「あの時、自らの行いを悔いて、泣きながら笑う貴女を見た時に思ったのです。あぁ、あれは私だ。もし出会わなければ、あそこで自責の念に苛まれていたのは私だったと」
「そう……だったのですか」
街を救った理由も、街を破壊しようとした私を咎めようとしなかった理由を聞き、腑に落ちました。
「私も貴女と同じく、非凡な兄に地位、名誉、名声の全てを奪われた身。もしかしたら、また同じような考えに走らないとは限らない。ですが、貴女が一緒に居てくれれば踏みとどまれる気がするのです」
「分かりました。是非お願いします」
そう言って、頭を下げました。
それは、私にとっても都合の良い話です。似たもの同士、お互いを監視しあえば、今回のような暴走は無くなるはずです。
死にたいとさえ思えるほどの後悔をしても、また次が無いとは限りません。
「あっ……」
リカルド様の手が、私の頭を優しく撫でてくれました。
頭を撫でられるなんて何年ぶりでしょうか?
平凡になるために必死に努力をした私を、家族は口々に褒めながらも苦笑していたのを覚えています。
ただ褒めて貰いたかった。こうやって頭を撫でて「凄いね」と言って欲しかっただけなのに……きっと私が平凡以下だったからでしょう。
それがこのような形で叶う事になるとは、とはいえ、心の準備も出来て無かった私は、ただ俯く事しか出来ません。
「あぁ……これは失礼。つい……」
気まずそうな顔をしたリカルド様が、私の頭から手を退けて、そっぽを向いてしまいました。
頬を掻いて、私にどう言葉をかけるか悩んでいる様子です。
「あのっ……」
”くぅぅぅぅぅぅぅぅ”
出来れば、もう一度頭を撫でて欲しい。
そう言おうとしたのに、私を邪魔するように、お腹が鳴いてしまいました。
「そういえば、倒れてから何も口にしてないですね。少し遅いですが朝食にしましょうか」
苦笑いを浮かべ立ち上がったリカルド様が、「朝食を用意して貰って来る」と言って部屋を出ていきました。
全く……お腹の虫さんは空気を読んでほしいものです。はぁ……。
じっと自分の手を見ると、手の中にコロコロと可愛らしいキャンディが転がっています。
今、リカルド様が転移魔法で出したキャンディですが、これを街全体の規模で?
「でも、どうやって? 現代魔術ではその様な事を出来るとは思えないのですが」
「はい。現代魔術では不可能なので、古代ルーン魔術を用いました。このように」
リカルド様が、またパチンと指を鳴らすと、カタカタと部屋全体から音が聞こえてきました。
何か硬い物が降って屋根に当たるような音です。
何が起きているのか窓の方へ目をやると、外は飴玉のお菓子が空から降っていました。それも街を覆うほどの。
「あっ。お菓子だ!」
外からは、子供たちの嬉しそうなはしゃぐ声が聞こえてきます。
「これで信じて貰えますか?」
「えぇ……」
「それとも、この街も転移させてみましょうか?」
「いえ、それは結構です!」
「ふふっ。冗談ですよ」
慌てふためく私を見て、またもやクスクス笑うリカルド様。
それがなんだか恥ずかしく感じ、私はまたシーツで顔を隠しました。
「古代ルーン魔術を使えるだなんて、凄いのですね」
「いえ。昔の人は普通に使っていた、『平凡な』魔法ですよ」
そんな事はありません。
そう思いましたが、確かに神級魔法も、昔の賢者様は普通に使えた『平凡な』魔法ですし、古代ルーン魔術も、もしかしたら『平凡』なのかもしれません。
でも、例えそうだとしてもこれだけ出来る事は凄い事です。そんなリカルド様をもってしても非凡と言わせるジュリアン様は一体どれほどの方なのか……。
「話を戻しますが、先ほど貴女の力を貸して頂きたいと言いましたが、少し訂正を宜しいでしょうか?」
「訂正ですか? 構いませんが」
「はい。力を貸してくれなくても良いので、出来れば私の傍に居て貰えないでしょうか?」
「えっ、えっ」
もしかして、リカルド様は私に一目ぼれした。という事でしょうか……。
「恥ずかしい話。実は私も貴女と同じだったのです」
「私と……同じ……?」
「はい。商業都市には、復讐の第一歩として街を破壊する予定でした。ですが貴女の手によって今まさに破壊される街を見て、私はとっさに転移魔法を使っていたのです」
「ん。ん~???」
真面目な顔でリカルド様が話しているが、私はそれどころではありません。
告白されると思い、心の整理をした所で告白は私の勘違いだったと知らされたのですから。
「あの……顔が真っ赤ですが、もしかして気分が優れないのでしたら、話は後にでも」
「いえ、大丈夫です! 続きをお願いします!」
リカルド様に見つめられたら、その透き通るような青い瞳が全てを見通してしまうような気がして、私は話の続きをお願いしました。
今の気持ちを悟られたら、またクスクスと笑われてしまうでしょう……でも、少し、悟られたいと思ってしまうのは、何故でしょう?
私を見て、「分かりました。それでは」と言って、リカルド様は続きを話し始めました。
「あの時、自らの行いを悔いて、泣きながら笑う貴女を見た時に思ったのです。あぁ、あれは私だ。もし出会わなければ、あそこで自責の念に苛まれていたのは私だったと」
「そう……だったのですか」
街を救った理由も、街を破壊しようとした私を咎めようとしなかった理由を聞き、腑に落ちました。
「私も貴女と同じく、非凡な兄に地位、名誉、名声の全てを奪われた身。もしかしたら、また同じような考えに走らないとは限らない。ですが、貴女が一緒に居てくれれば踏みとどまれる気がするのです」
「分かりました。是非お願いします」
そう言って、頭を下げました。
それは、私にとっても都合の良い話です。似たもの同士、お互いを監視しあえば、今回のような暴走は無くなるはずです。
死にたいとさえ思えるほどの後悔をしても、また次が無いとは限りません。
「あっ……」
リカルド様の手が、私の頭を優しく撫でてくれました。
頭を撫でられるなんて何年ぶりでしょうか?
平凡になるために必死に努力をした私を、家族は口々に褒めながらも苦笑していたのを覚えています。
ただ褒めて貰いたかった。こうやって頭を撫でて「凄いね」と言って欲しかっただけなのに……きっと私が平凡以下だったからでしょう。
それがこのような形で叶う事になるとは、とはいえ、心の準備も出来て無かった私は、ただ俯く事しか出来ません。
「あぁ……これは失礼。つい……」
気まずそうな顔をしたリカルド様が、私の頭から手を退けて、そっぽを向いてしまいました。
頬を掻いて、私にどう言葉をかけるか悩んでいる様子です。
「あのっ……」
”くぅぅぅぅぅぅぅぅ”
出来れば、もう一度頭を撫でて欲しい。
そう言おうとしたのに、私を邪魔するように、お腹が鳴いてしまいました。
「そういえば、倒れてから何も口にしてないですね。少し遅いですが朝食にしましょうか」
苦笑いを浮かべ立ち上がったリカルド様が、「朝食を用意して貰って来る」と言って部屋を出ていきました。
全く……お腹の虫さんは空気を読んでほしいものです。はぁ……。
49
お気に入りに追加
1,475
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜
秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』
◆◆◆
*『お姉様って、本当に醜いわ』
幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。
◆◆◆
侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。
こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。
そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。
それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。

こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる