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3.非凡令嬢、妹の影に怯える。

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-カチュア視点-

 あぁ、今日は何と素晴らしい日なのでしょうか。
 今まで求めてやまなかった物が全て手に入ったのだから、機嫌も良くなるというものでしょう。

 パオラが出て行ってから数時間後、ジュリアン様の御用邸で貴族たちとパーティが行われました。
 元々はパオラが婚約破棄に異議を唱えた場合、懇意の貴族たちと共にパオラを糾弾し、婚約破棄を認めさせる為に呼んだのですが。その必要はなかったようです。

 とはいえ、お呼び立てしたというのに、用が済んだのでお引き取りくださいでは、あまりにも失礼が過ぎるというものです。
 なのでパオラとの婚約破棄、及び私とジュリアン様の婚約発表のパーティという体で話が進んでいます。
 煌びやかな会場で、挨拶を一通り済ませたジュリアン様が私の所へ来て、手を取ってくださいました。
 すると、気を利かせたようにゆったりとした演奏が流れ出しました。
 
「パオラにあれだけの仕打ちをしたというのに、ご機嫌のようですね」

 そんな言葉とは裏腹に、ジュリアン様の声のトーンは嬉しそうに聞こえます。

「ジュリアン様の目には、私がはしゃいでいるように映るのでしたら、お恥ずかしい限りですわ。そういうジュリアン様こそ、ご機嫌に見えますが」

 ふふっ……。お互い自然と見つめあうと、そんな風に軽い笑いがこぼれてしまいます。
 演奏に合わせた、軽快なステップで、私はジュリアン様のエスコートに身を任せます。
 アン、ドゥ、トロワ、カトル、サーンク、スィス。アン、ドゥ、トロワ。アン、ドゥ、トロワ。

 曲が終わると同時に、ジュリアン様から婚約の発表をなさる。そういう手筈になっています。
 もちろん、参加者の貴族の方々にもその事は知らされています。
 なので、私たちのダンスの邪魔にならぬよう、私たちの周りには誰も入らないように配慮されていました。

 時折聞こえるコソコソ話は、私たちの関係を羨む物ばかりです。どれも悪い含みなどなく、ただただ憧れの言ばかりが漏れているようです。
 「お似合いですわ」「羨ましい」ええ、ええそうでしょう。私はジュリアン様とお似合いです。羨ましがられる存在なのです。
 あぁ、その一言一言が、私には何物にも勝る甘美に感じられます。私をエスコートするジュリアン様もまんざらではないようですね。

 ”最高の気分だろ?”

 ダンスの最中にコッソリくれたウインクで、彼の心の声が聞こえた気がします。

 ”ええ。最高ですわ”

 心の声で返すように、ウインクを返しました。

 演奏が終わり、周りに一礼をした後、ジュリアン様は私との婚約発表を致しました。
 割れんばかりの拍手のを受け、幸せの絶頂に浸る私でしたが、その直後どん底に落とされます。

「失礼します。ここから山を一つ超えた所にある商業都市ですが。突然消滅しました」

「突然消滅とはどういうことだ!?」

 突然入ってきた兵士に対し、怒鳴るように反応したのはこの国の王国騎士団団長。アンソン様でした。
 怒鳴ってしまったのは職業柄なのでしょう。すぐさま「これは、失礼しました」と頭を下げ、兵士を連れ出て行ってしまわれました。

「どうした? 顔色が優れないようだが?」

「いえ、何でもありません……申し訳ないのですが、気分が優れないのでお部屋で休ませて頂きます」

 ジュリアン様の返事も待たず、私は逃げるように部屋に戻っていきました。
 都市一つが突然消滅した。そんな事が出来るのなんて一人くらいしか居ません。そう、パオラです。
 商業都市といえば、私がジュリアン様との婚約を確実にするために、外堀を埋めるため民に私がジュリアン様と婚約するように流布させた場所です。  

 お父様があまりにも規格外のパオラに「頼むから人並み程度にしてくれ」と泣きついたために、自分が平凡以下だと勘違いしたパオラから名声を奪うのはたやすい事でした。
 パオラが神級魔法の実験をしていたら、私は「神級魔法を使ってみようと思います」と周りに触れ込むだけで、神級魔法の使い手と持て囃された。
 パオラが魔王討伐に向かったら、私は「今から魔王を討伐してきますわ」と周りに触れ込むだけで、魔王討伐の勇者と持て囃された。
 パオラが領地を治めていたら、私は「皆が住みよいように務めさせていただきますね」と周りに触れ込むだけで、名領主と持て囃された。

 それが悪い事というのは百も承知です。
 ですが、パオラだけが持て囃されるのを見ているだけなのは、どうしても我慢なりませんでした。
 気が付けば、私は非凡で、パオラは平凡。私以外の全ての者がそう思うようになっていました。

 もしかしたら、パオラはそんな嘘に気づいたのかもしれません。
 商業都市を消滅させたのは、私が恐れる様を見て楽しむために、少しずつ恐怖を与えるためなのでは?
 そう思うと震えが止まらなくなります。

「すまない。失礼するよ」

 3回のノックの後に、一言声をかけてから、ジュリアン様が部屋に入ってきました。
 そして、ベッドでシーツに包まり怯える私を、何も言わずそっと抱きしめてくれたのです。

「何に怯えているのかわからないが、大丈夫だ。私が居る」

 その言葉に、涙が出てきそうなほどでした。
 あぁ、あぁ。ジュリアン様。
 私とは違い、皇帝竜を打ち滅ぼし、ルーン魔術を扱い、全ての民からも慕われる名君ジュリアン様。
 ”本物の”非凡な貴方がそう言ってくれるだけで、私は安心する事が出来ます。
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