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第9話「バフォメット」

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 NMOプレイヤーを恐怖に震え上がらせた。もっとも有名なボスモンスター『バフォメット』
 通称バフォ先生。
 見た目は、ヤギ頭に悪魔の羽根が生えた身の丈3m程の巨人だ。
 両手で持った鎌を振り回し、多種多様の範囲魔法をいきなりぶっ放してくる。その実力は最強クラスだ。
 アップデートでバフォ先生より強いボスモンスターが実装されたとはいえ、決してバフォ先生が弱くなったわけでは無い。そんじょそこらの上位プレイヤー程度では討伐は出来ないくらいに。
 クランメンバーが揃っているなら、倒せなくはないが。俺とリアで倒すのは到底不可能だ。
 ここはおっさんの好意に甘えて逃げさせてもらうとしようか。

「貴方はどうするの?」

「俺か? 俺はこう見えてもクランマスターでね。仲間を置いて逃げるなんて、ブザマな真似は出来ねぇよ」 

 クランマスターか、ほうほうクランマスターねぇ。
 バフォ先生が相手なら、逃げても誰も文句言わないだろうに。実際に奇声を上げながら逃げていく兵士や冒険者が通路から見えるが、それでも仲間の為に命をかけるなんてカッコイイ話じゃないか。

「リョウ。また気持ち悪い笑み浮かべてる」

 イエイエ、ソンナコトナイデスヨ?

「兄ちゃん。恐怖で頭がイカレちまったか?」

 イカレただなんて、俺は至って冷静ですよ。

「おっさん。アンタのクラン魔術師マジシャンで 『対魔法殻アンチマジックシェル』を使える奴は二人以上残ってるか?」

「魔術師? そんな事どうでも良いだろ。お前らはさっさと……」

「大事な事だから早く答えてくれ!」

 返答次第では、バフォメットを何とか出来るかもしれないからな。

「あ、あぁ。3人居たはずだ。だがバフォメットと戦ってる最中だから」

「OK。十分だ」

 なおも怪訝な表情でおっさんは俺を見ている。

「どうせこのまま行っても死ぬだけだろ? その命、俺に預けないか?」

「おまえさん、さっきから何を、ぐぅおおおお……」

 話をしても時間の無駄だろう。少し強引にいかせてもらおう。
 まずは、折れてるであろうおっさんの左腕を無理やり繋げる。

「テメェ!」

 おっさん腰にぶら下げた抜くと、両手で・・・握り構えた。
 ふむ。ツーハンドソードか。悪くない武器ではあるが、それならもっと良い物がある。

「おっさん。それならこいつを使え」

 ブラッドナイトメアブレードを取り出すと、おっさんの目の色が変わった。

「そいつをどこで?」

「あぁ、来る途中で暗黒騎士デュラハンを倒してきた」

「……しかし今の俺にそいつは扱えねぇ。見てのとおり左手が……ありゃ? 動くぞオイィ」

 こんなコントみたいな事をやる奴、初めて見たな。
 見る限り、折れていた左腕は不自由なく動いてるようだ。
 オッサンはなおも不思議そうに首を傾げ、自分の左腕を見ている

完全回復魔法フルヒールだ」

 やれやれだぜ。といったところか。
 完全回復魔法に驚き、何やらお約束展開をしてくれるおっさん。正直こういうのは嫌いじゃないが今はバフォメット討伐が優先だ。

「もう一度聞く。その命、俺に預けて見ないか?」

「わかった。アンタに預けるよ、バフォメットを倒せるならこの命、惜しくねぇ」

「ついでにその魔術師達には、俺が指示したら対魔法殻をかけてくれるように言ってほしい」

「あいよ」

 リアを見ると、両手で必死に握りこぶしを作っている。
 俺より耳が良いから、バフォメットの雄たけびがリアの耳には大音量で入ってきているのだろう。ガクガク震えていた。目も潤んでいる。

「リア。お前は……」

「一緒に行く」

 連れて行くのは危険だが、さっきみたいに無理矢理ついてきて、連携が取れなければそちらの方が危険か。

「危険だぞ? 暗黒騎士デュラハンなんかよりも怖い思いをするが、良いのか?」

「うん」

 目に涙を溜めながらも、力強く頷く。そんなリアの頭をそっと撫でてやる。
 さて、次におっさんだが。俺が目を向けると「お邪魔でしたか?」なんて冷やかしてきやがる。
 ちげぇよバカ。お前の名前を教えろって意味だよ。察してもあえて冷やかしてくるだろうからこっちから聞いておいた。おっさんの名前は『スヴェイ』か。

「リア。スヴェイ。バフォメット退治と行こうか。安心しろ。お前達は死なせない」

 死んだ方がマシだと思えるかもしれないけどな。


 ☆ ☆ ☆


 通路を抜け、ひらけた広間の先に奴は居た。
 
「ぶぉおおおおお!!!!」

 雄たけびと共に、巨大な鎌を振るうと、避け損ねた冒険者の胴体が真っ二つに避けた。
 既に死体の山が築き上げられている。

「ヤロウ!」

「待て」

 飛び出そうとするスヴェイに待てをかける。まずは魔術師の確保だ。
 1人は倒れていて生死がわからないが、まだ2人は生き残っていた。スヴェイと共に駆け寄り、俺の指示に従うように言われ、不服を唱えるかと思っていたが、「スヴェイさんが言うのでしたら」と素直に従ってくれることになった。このおっさん思ったよりも人望があるようだ。

 突撃する前に補助魔法をかけていく。
 力が一時的に上がる範囲型祝福ブレッシングオール、脚力が一時的に上がる範囲型移動速度増加シアルフィオール、武器の切れ味が一時的に上がる範囲型魔法付与エンチャントオール、相手の攻撃で吹き飛んだり仰け反ったりしずらくなる範囲型重力グラヴィトンズ、更に微量ではあるが持続的に回復魔法がかかる再生魔法リジェネレーション、最後に衝撃を軽減する対物理殻ショックプロテクション
 補助魔法の範囲化は、一度で複数人にかけられる代わりに、1人にかける時と比べると効果は落ちる。
 更に魔力をゴリっと消耗する。正直これだけの補助魔法をかけながらだと、下手をすると魔力がすぐに枯渇してしまう。回復術士がヒールの無駄打ちを渋る理由でもある。

 よし、準備は万全だ。
 突撃!

「あ、ヤバッ。対魔法殻!」

 バフォメットに向かって走り出した俺達を見ても襲い掛かってこないで、その場で足踏みをする動作を見て俺は叫んだ。
 この動作をする時は、バフォメットが3連続で大魔法を打ってくる時だからだ。
 最上級炎魔法エクスプロージョン最上級氷魔法アブソリュートゼロ最上級雷魔法ダンシングクレイジー。どれも普通に食らえば即死級だ。
 目の前で耳をつんざくような轟音と共に爆発が起き、間髪入れず氷の刃と雷が俺達を襲う。
 痺れて、もはや痛いとすら感じない。

 何とか耐えきれた。目の前がまだチカチカしているが、俺は必死に盾を構え次の行動に備える。
 3連続大魔法の後には、ゲームでは必ず突進をしてきた。どうやらこっちでも行動は同じらしい。
 もし衝撃に備えてなかったら、俺は簡単に吹き飛ばされていただろう。
 ズシンと盾を通じて感じる重みに必死に耐える。段々と視界が良くなって来た。
 バフォ先生と目が合う。VRなんかとは比べ物にならない程のリアルがそこにはあった。
 
 バフォ先生が鎌を振り上げるのを見えたのでバックステップで距離を取って、『範囲型高位回復魔法ハイヒールオール』。
 俺は装備のおかげで魔法はある程度軽減出来ているが、2人は大丈夫だろうか?
 よろよろと起き上がるリア。

「死んだ婆ちゃんが手招きしてやがったぜ」

 思ったより、こっちスヴェイは平気そうな顔をしているな。

「何度でも会う事になるから、次会った時に何を話すか考えておけ」

 ふぅ。これなら何とかなりそうだ。
 
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