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第7話「決着」

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 逃げろといってるのに、何をやってるんだよ。

「リョウが平気で耐えられるなら、リアが斬れば倒せる」

 嘘だから。それ俺がついた気の利いた嘘だから!
 何か言おうにも、もう戦闘が始まっちゃって問答できる場面じゃないし。

「待った!」

「待てぬ!」

 ですよねー。
 十分待ってくれたのに戦闘が始まってから「待った」は出来ないか。
 暗黒騎士デュラハンがその巨体を生かした、上段からなる大振りを盾で受け止める。いってぇ。
 ガギンという金属同士のぶつかり合う音を響かせた。 

 何とか防ぐことは出来たけど、受け止めるために両手で構えたのに、あまりにも衝撃が強すぎて意識が飛びそうだ。
 一回受け止めただけだというのに、すでに両腕が痺れてきてやがる。
 それからも、袈裟斬り横薙ぎといった基本行動を何度か防いでいるが、どれも一発一発が重い。
 タンクの真似事をしているが、所詮は真似事。装備の性能で何とか持っているだけに過ぎない。
 俺が防ぐのに合わせてリアが何度か斬りかかってはいるが、中々有効打にはならないようだ。

「思ったよりも耐えるな。ならばこれでどうだ」

 暗黒騎士デュラハンは深く腰を落とし、両手持ちから片手持ちに変え、突きの姿勢で溜めている。
 あの構えは固有技オリジナルスキル零秒乱舞ノータイムアーツか。
 一瞬で何度も連撃を放ち、その一発一発が倍率のかかった高威力範囲技。

「あっ」

 発動する瞬間に、俺はリアを突き飛ばす。このまま技に巻き込まれれば回復は間に合わず、リアは死ぬ。
 もちろん俺一人で受けて生きていられる保証は無いが。
 盾をもう一度握りなおし、衝撃に備える。
 効果があるかわからないが、自分に完全回復魔法フルヒールの準備。

 刹那。俺を衝撃が襲う。
 右から殴られたと思ったら左から殴られている。上から斬られたと思えば下から切り上げられている。
 今までの攻撃とは比にならない。盾も意識も手放しそうになるほどに。

「ほう。耐えるか」

 永遠のような一瞬が終わった。
 俺はなんとか零秒乱舞耐えた。耐えたといってもすでに満身創痍の状態だ。
 体中からは血が溢れ出ているし、腕だってもう上がらない。怪我をしていない部分がないんじゃないかというくらいだ。
 だが、これでアイツ暗黒騎士デュラハンはしばらく零秒乱舞を打てない。一度放てばクールタイムが生じるからだ。
 なんとかそれまでに体制を立て直して。

「ならば、もう一度耐えられるか?」

 俺に関心を示していた暗黒騎士デュラハンが、また零秒乱舞の構えに入っている。

「ちょっと待て。クールタイムはどうした!?」

「クールタイム? 何を言っているんだ?」

 クールタイムが無い?
 そうか、現実なんだから剣技にクールタイムなんかつくわけが無い。クソ当たり前の事なのにまだゲーム感覚で居たのか俺は。
 完全回復魔法はしばらくクールタイムで打てない。高位回復魔法ハイヒールを自分にかけてみたが、焼け石に水だろう。

 石のように重くなり、うまく動かない体で必死に力を入れて盾を構える。
 俺はこれで終わりだろうな。せめてリアだけでも生き残って欲しかった。
 襲い掛かる衝撃の中、走馬灯が一瞬走ったような気がする。
 気がつけば衝撃は止んでいた。
 あぁ、俺は死んだのか。あっけないな。

「どうやら、我の負けのようだな」

 暗黒騎士デュラハンの声で我に返った。
 目の前には、右手を振り上げ、肘から先が無くなった暗黒騎士デュラハンと、剣を振り下ろし驚いたような顔をしているリアが居た。
 振り上げる腕の威力と、リアの振り下ろすタイミングがたまたま一致したということか。
 離れた場所でカラカラと音がなっている。多分吹き飛んだ奴の右腕だろう。

 トドメをさそうと斬ったり突いたりするリアだが、その装甲を貫くことが出来ないようだ。
 暗黒騎士デュラハンのヤツは、そんなリアに抵抗するでもなく、なすがままにされている。

「なぁ、アンタ。一つ聞いて良いか?」

「構わぬ」

「リアを狙うそぶりが見えなかったが。何故だ?」

 俺が攻撃できないことは、アイツもわかっていたはずだ。
 盾を構えるだけで攻撃らしいことは何一つせず、補助魔法と回復魔法しか使っていないのだから。
 先にリアを潰せば簡単に勝てただろうに、何故しなかった?

「目の前に最強の盾が現れたら、倒したくなるのが戦士の性というものであろう」

 顔の無いヤツだが。こいつは今満足そうな顔をしているに違いない。
 顔が無くても声でわかる。

「さぁ剣士の少女よ。我のコアはここにある。これを貫くが良い」

 残った左手で鎧の一部をはがすと、そこには黒く輝く丸い物体が見えた。

「良いの?」

 先ほどまで遠慮なくガンガンやってたリアだが、流石に勝ちを譲られたとわかり戸惑いの色が見える。 
 これだけのハンデを貰い、更に偶然で勝っただけだ。後味の良い勝利とは言いがたい。

「構わぬ。満足のいく戦いであった」

 おどおどとした表情で俺のほうを見るリアに、俺が頷くとリアは決心したように頷き返す。
 リアの剣が暗黒騎士デュラハンのコアを貫くと、暗黒騎士デュラハンは霧のようにその姿を消した。持っていた剣を残して。
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