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第5話「砦奪還クエスト」
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どうやらこの世界では、回復術士は女性向けの職業で、後ろに下がって安全な所で回復だけをしている臆病者という風評らしい。
金を稼ぐためリアとパーティを組みクエストをこなしていたが、道中で出会ったパーティは俺が回復術士と知ると誰もが笑い飛ばしてくれた。
それでもリアは「気にしない」と言って、パーティを組んでいてくれた事には感謝しかない。多分今の俺と組んでくれる人間は、リア以外に居ないだろう。
ゲーム内では一度決めた職は職変更出来ない。どうやらそれは、ここでも同じようだ。
つまり俺はこの先ずっと回復術士のままだ。軽く将来に不安を覚えた。
数日後。
砦奪還のクエストが始まった。
ビフレスト砦はビフレスト谷を越えた先にある。谷の前には、今回のクエストの為に集まった冒険者がざっと見て100人以上居る。
そして国から派兵された兵士が100人。合計で200人以上、正直言ってこの数ならクエストは余裕だろう。
ゲームで討伐クエストがあった時は酷かった。敵はモンスターだけでなく、他のプレイヤーもだからだ。
わざと他のプレイヤーの足を引っ張り、プレイヤーキルをして自分達の報酬を増やそうと必死になり阿鼻叫喚になっていたが、流石に現実世界でそんな事は起きないだろう。
そもそも、どれだけ武勲を上げても報酬はほぼ変わらずだ。更に兵士が見張っているのでサボったりする事も出来ない。
だがゲームと同じモンスターが出てくるとは限らない。警戒だけはしておくか。
俺とリアが割り当てられた地区は割とモンスターが少ない場所だった。
砦の城門の裏口、その堀にある隠し通路だ。
正面と裏門は実力のある部隊に任せ、俺たちのような駆け出し冒険者には、適当な比較的安全な場所を割り当て、好きにやっててくれと感じたが、どうもそうらしい。
そりゃあ100人以上の冒険者が集まっているんだ、全員を指揮するより実力のある人間を指揮下に入れ、余った冒険者は適当な雑用でもやらせておく方が討伐もスムーズに行くか。
それでも留守番を言い渡された冒険者と比べれば、まだマシな扱いともいえる。
「たぁあああ」
薄暗い通路の中で、リアの声だけが響く。
一振り一振りが大振りなリアだが、その分威力は高い。
俺の補助魔法も万全にかけてあるので、威力はそこら辺の大人より高いだろう。
小柄な体躯に似合わない装備をガチャガチャ鳴らせながら、先に進んでいくリアに歩を合わせる。
出てくるモンスターも、特に毒が無くサイズは1mほどあるが、噛まれたら痛い程度のブラウンスネークや、人間の顔くらいのサイズはあるだけのジャイアントバット。
他にはRPGでおなじみのゴブリンや、コボルドの小型種であるミニコボルドが出る位か。こいつらの場合、数が多いから厄介ではあるが、脅威ではない。
「なんだか、リョウと居ると調子が良い気がします」
モンスターを蹴散らし、返り血を浴びたリアが得意気に言う。
調子が良いも何も、補助魔法をかけているからなのだが。
「もしかして、補助魔法を知らないのか?」
リアの顔周りについた、モンスターの体液を拭いてやるついでに聞いてみる。
「聞いた事はありますが、もしかして何か補助魔法をかけてくれていたのですか?」
「あぁ、力が一時的に上がる祝福、脚力が一時的に上がる移動速度増加、武器の切れ味が一時的に上がる魔法付与をかけてある」
「へぇ、凄いですね」
「他にも色々あるが、今はまだ必要ないだろう。その時になったらかける」
今はこれだけかけていれば十分だろう。
ちなみにこの補助魔法の効果は1分程度しか持続しない。なので俺は1分毎にかけなおしている。
途中でかけなおせば効果時間は上書きされるが、どの魔法も効果時間=クールタイムなので、切れてからでないとかけなおすことが出来ない。
補助魔法が切れた事に気付かせずかけつづけるのも、回復術士のプレイヤースキルの一つだ。
しかし、このゲームで前衛やってる人間は、そんな苦労を知らず「補助魔法さっさとかけろよ」と文句言ってくる奴らばかりで困る。
おっと、いかんいかん。ついつい無駄な事を考えてしまったな。
今一緒に居るリアという少女は、補助魔法に対し「凄い」と目を輝かせ、「ありがとうございます」とお礼まで言ってくれるんだ。
回復術士にとっては、最高の相手と言っても過言ではないな。
「補助魔法を使う回復術士というのは、珍しいのか?」
「そうですね。回復術士の仕事はヒールをする事と聞くので」
ヒールねぇ。
もしモンスターが大量に湧く場面でそんな事やってたら、ジリ貧になるだけだと思うんだけど。
だから、この世界の回復術士というのは地位が低いのかもしれないな。
回復するだけならポーションでも良い。そのポーション代すら出せないから回復術士を雇うという感じか。
金を稼ぐためリアとパーティを組みクエストをこなしていたが、道中で出会ったパーティは俺が回復術士と知ると誰もが笑い飛ばしてくれた。
それでもリアは「気にしない」と言って、パーティを組んでいてくれた事には感謝しかない。多分今の俺と組んでくれる人間は、リア以外に居ないだろう。
ゲーム内では一度決めた職は職変更出来ない。どうやらそれは、ここでも同じようだ。
つまり俺はこの先ずっと回復術士のままだ。軽く将来に不安を覚えた。
数日後。
砦奪還のクエストが始まった。
ビフレスト砦はビフレスト谷を越えた先にある。谷の前には、今回のクエストの為に集まった冒険者がざっと見て100人以上居る。
そして国から派兵された兵士が100人。合計で200人以上、正直言ってこの数ならクエストは余裕だろう。
ゲームで討伐クエストがあった時は酷かった。敵はモンスターだけでなく、他のプレイヤーもだからだ。
わざと他のプレイヤーの足を引っ張り、プレイヤーキルをして自分達の報酬を増やそうと必死になり阿鼻叫喚になっていたが、流石に現実世界でそんな事は起きないだろう。
そもそも、どれだけ武勲を上げても報酬はほぼ変わらずだ。更に兵士が見張っているのでサボったりする事も出来ない。
だがゲームと同じモンスターが出てくるとは限らない。警戒だけはしておくか。
俺とリアが割り当てられた地区は割とモンスターが少ない場所だった。
砦の城門の裏口、その堀にある隠し通路だ。
正面と裏門は実力のある部隊に任せ、俺たちのような駆け出し冒険者には、適当な比較的安全な場所を割り当て、好きにやっててくれと感じたが、どうもそうらしい。
そりゃあ100人以上の冒険者が集まっているんだ、全員を指揮するより実力のある人間を指揮下に入れ、余った冒険者は適当な雑用でもやらせておく方が討伐もスムーズに行くか。
それでも留守番を言い渡された冒険者と比べれば、まだマシな扱いともいえる。
「たぁあああ」
薄暗い通路の中で、リアの声だけが響く。
一振り一振りが大振りなリアだが、その分威力は高い。
俺の補助魔法も万全にかけてあるので、威力はそこら辺の大人より高いだろう。
小柄な体躯に似合わない装備をガチャガチャ鳴らせながら、先に進んでいくリアに歩を合わせる。
出てくるモンスターも、特に毒が無くサイズは1mほどあるが、噛まれたら痛い程度のブラウンスネークや、人間の顔くらいのサイズはあるだけのジャイアントバット。
他にはRPGでおなじみのゴブリンや、コボルドの小型種であるミニコボルドが出る位か。こいつらの場合、数が多いから厄介ではあるが、脅威ではない。
「なんだか、リョウと居ると調子が良い気がします」
モンスターを蹴散らし、返り血を浴びたリアが得意気に言う。
調子が良いも何も、補助魔法をかけているからなのだが。
「もしかして、補助魔法を知らないのか?」
リアの顔周りについた、モンスターの体液を拭いてやるついでに聞いてみる。
「聞いた事はありますが、もしかして何か補助魔法をかけてくれていたのですか?」
「あぁ、力が一時的に上がる祝福、脚力が一時的に上がる移動速度増加、武器の切れ味が一時的に上がる魔法付与をかけてある」
「へぇ、凄いですね」
「他にも色々あるが、今はまだ必要ないだろう。その時になったらかける」
今はこれだけかけていれば十分だろう。
ちなみにこの補助魔法の効果は1分程度しか持続しない。なので俺は1分毎にかけなおしている。
途中でかけなおせば効果時間は上書きされるが、どの魔法も効果時間=クールタイムなので、切れてからでないとかけなおすことが出来ない。
補助魔法が切れた事に気付かせずかけつづけるのも、回復術士のプレイヤースキルの一つだ。
しかし、このゲームで前衛やってる人間は、そんな苦労を知らず「補助魔法さっさとかけろよ」と文句言ってくる奴らばかりで困る。
おっと、いかんいかん。ついつい無駄な事を考えてしまったな。
今一緒に居るリアという少女は、補助魔法に対し「凄い」と目を輝かせ、「ありがとうございます」とお礼まで言ってくれるんだ。
回復術士にとっては、最高の相手と言っても過言ではないな。
「補助魔法を使う回復術士というのは、珍しいのか?」
「そうですね。回復術士の仕事はヒールをする事と聞くので」
ヒールねぇ。
もしモンスターが大量に湧く場面でそんな事やってたら、ジリ貧になるだけだと思うんだけど。
だから、この世界の回復術士というのは地位が低いのかもしれないな。
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