上 下
3 / 10

第3話「これはゲームじゃなく、現実なんだ」

しおりを挟む
 冒険者ギルド。
 中は酒場と併設されており、色んな冒険者たちが一山当てようと集う場所。
 キミの冒険はここから始まる。なんて説明だったかな。
 依頼を受けれる人数が決まっているから、いつも依頼の取り合いでにぎわっている場所だが。

 どうやら、今日はそんな事無いようだ。
 ギルドに居る連中は入ってきた俺にチラリと目線を向けるが、即座に興味が失ったようで、すぐに視線を戻している。
 いつもは受付嬢を取り囲むように人が居るんだけど、空いてるようだ。早速話を聞くことにした。

「すまない。ステータスウィンドウを開くことも、ログアウトする事も出来ないんだ。GMコールに繋いでもらえないか?」

「はい?」

 いつもと変わらず笑みを絶やさずも「何を言ってるんだコイツ?」という感じで首を傾げる受付嬢。

 やっぱり、ダメなのか?
 誰に聞いても、何故か話が通じない。 
 それじゃあここは、本当に現実なのか? そんな馬鹿な。
 きっと何かの間違いだ。

「おい。その辺にしておけ」

 なおも食い下がろうとする俺に、背中から剣を向けられていた。
 俺の頬をかすめる様に、突き付けられている。というかかすっているし!?
 たらりと一滴に雫が頬を流れる。血だ。
 VRだからダメージを受けても血は出ない。なのに俺の頬からは血が流れている。
 あぁそうか。俺はやっと納得した。
 これはゲームじゃなく、現実・・なんだと。

「えっ、あっ。あのごめんなさい。本当に当てるつもりは」

 剣の主はどうやら女性のようだ。ハスキーがかった声で慌てて謝罪している。
 いやいや、ちょっと勘弁してくれよ。俺さっき刺されたばかりなんだけど。
 ガクガク震える足を必死に隠しながら振り返ってみると、そこには誰も居なかった。

「あれ?」

「ここだ!」

 視線を下げる。あっ、居た。
 声の主は、俺の胸元くらいまでの身長しかない少女だった。
 日本人男性の平均身長170センチしかない俺でも小さいと思えるくらいだ。

「今小さいと思っただろ!?」

「うん」

 だって小さいし。
 その少女はショートカットの黒髪で、パッチリとした目には怒りの色が宿っていた。
 猫のような耳が付いているから種族は獣人ビーストか。
 敏捷性を生かした戦い方がセオリーな種族なのに、少女は身の丈もありそうな長剣を持ち、金属製の肩当て、胸当て、手甲に脛当てと。なんともまぁ長所を殺すような装備をしていた。

「おまえ」

 すごんで睨んでくるが、怖いというよりは可愛い。
 周りも何かあったのを嗅ぎ付け、こちらを見てニヤニヤしている。
 
「リアはこう見えても、ちゃんとした冒険者だぞ!」

「ほう。ちゃんとした冒険者か」

「そうだ」

 なるほど。ちゃんとした冒険者ねぇ。

「それじゃあ、これについては、どうしてくれるんだ?」

 そう言って俺は先ほど切れた頬を指さす。
 軽く拭い、血の付いた指を、自分の事をリアと呼ぶ少女に向けた。

「えっ……」

 俺の顔と、血の付いた指を交互に見合わせ、段々と表情が曇っていく。何というか表情がコロコロ変わって面白いな。
 近くの席で卑下た笑いを浮かべる中年の冒険者に声をかける。無精ひげに縛った長髪。ファンタジーではお約束の小物キャラっぽい奴だ。

「おい。そこのおっさん。ギルドでの私闘は問題なかったか?」

「おいおい。ダメに決まってんだろ?」

「そうだよな。もしケガなんかさせてしまったら、どうなるか」

「憲兵に捕まって、独房にぶち込まれて、冒険者の資格がはく奪されまーす」

 ノリノリで関係ない奴が答え始める。

「プー、クックック」

 最初に笑い出したのは、誰だろうか?
 段々と輪が広がるように。そして爆笑が起こった。

 皆が口々に「あーあ、あのお嬢ちゃん冒険者の資格はく奪されちゃうな」等とふざけて言っている。
 それを聞いて少女はオロオロし始め、目には涙が溜まってきている。

 さてと、おふざけもこの辺にしておいてやるか。ここは現実世界。
 受付嬢を助けるためとはいえ、今の行為が危険極まりない事だという事を教えるには、これで十分だろう。
 もし本当にヤバイ奴が相手だった場合、この少女が危険に晒される可能性があるのだから。
 
 しゃがみこみ、少女の目線に合わせようとして、俺は何故か地面とキスをしていた。
 後頭部にかかる衝撃と痛み。これはそう、後ろから殴られたからだ。

「すみません。手が滑りました。大丈夫でしたかクソ野郎」

 俺を見下す受付嬢の目線が怖い。

「他の酔っぱらいも、酔い覚ましが必要でしょうか?」

 その様子を見て、一瞬で静まり返り酔っぱらい達は俯いた。
 なおも涙目でキョロキョロする少女に、受付嬢は優しい声で「バカ達が騒いでるだけだから、気にしなくて良いのよ」と優しく諭していた。
 
「俺も少々悪ふざけが過ぎた。すまない」

 自分にヒールをかけながら立ち上がる。先ほどの切り傷はともかく、殴られたダメージは思ったよりも大きかったからだ。
 
「ごめんなさい。リアもいきなり剣を突き付けて悪かったです」

 仲直りの握手をして一件落着。隣で睨みを利かせている受付嬢も、これで納得してくれるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

孤高の英雄は温もりを求め転生する

モモンガ
ファンタジー
 『温もりが欲しい』  それが死ぬ間際に自然とこぼれ落ちた願いだった…。  そんな願いが通じたのか、彼は転生する。  意識が覚醒すると体中がポカポカと毛布のような物に包まれ…時々顔をザラザラとした物に撫でられる。  周りを確認しようと酷く重い目蓋を上げると、目の前には大きな猫がいた。  俺はどうやら猫に転生したみたいだ…。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...