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第4章

第10話「ドーガ。お前は超えてはいけない一線を越えたんだ」

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 ドーガ達がさらわれてから一月が経った。

「すまねぇ」

 街に戻ってからギルドに着くと、開口一番にサイドに謝られた。
 どうやら俺がドーガ達と元パーティという事もあって、もしかしたら繋がっている可能性を疑われていたそうだ。
 サイドは俺と面識があるから、監視役で見張る任務を与えられていたと俺に教えてくれた。

 黙っていれば分からないのに、わざわざ教えるとは律儀な物だ。
 ドーガのしでかした事を考えれば、疑われるのは仕方がない。
 むしろあの場にサイドが居てくれたおかげで背中を任せることが出来た。
 それに俺の潔白を証明してくれたんだ。感謝したいくらいだ。

「さてと……」

 まだ薄暗い早朝に目が覚めた。
 昨日は依頼が早めに終わったので、少し早く寝たので十分寝れた。

「まだ早いし、もう少ししたら起こすか」

 すーすーと寝息を立てているベル達を見る。
 本来なら別の部屋にしたい所だが、ミーシャがまだ見つかっていない。
 もしかしたら襲撃の可能性があるために、同じ部屋で寝るようにしている。

 今のところ襲撃らしきものは何もない。
 だが油断は出来ない。まだしばらくは警戒しておいた方が良いだろう。
 彼女達を、ゴブリンの洞窟で酷い目にあっていた女たちと同じ目には合わせたくない。 

「……ん?」

 ドアの隙間に紙が挟まれているのが見えた。
 一度床で『聞き耳』スキルを発動させ、他に誰か近くに居ないか確かめる。
 紙を取ろうとした瞬間に不意打ちの可能性もあるからな。

「なるほど」

 誰も居ないのを確認してから紙を取り、中身を確認した。
 その紙をポケットにしまい込み、ベル達を起こす。

「おはようございますぅ」

「まだ早朝ですよ」

 眠そうな目をこすり、あくびをしながら挨拶をするベル。
 同じように、寝起きでやや不機嫌なモルガンが、文句を言いながらクーを叩き起こしている。

「ん~。ぎゅ~」

 寝ぼけて抱き着くクーの頭をモルガンがはたいているのが見えた。
 クーは寝ぼけて抱き着いてくる癖があるから、俺が起こそうとするとベルやモルガンに変な目で見られる。
 なのでいつもクーを起こすのはベルかモルガンの役目だ。

 やっと起きたクーのツインテールが不揃いなのが気になるのか、ベルが直している。
 2人は作業中なので、モルガンに話しかけた。

「実は今からドランのパーティの所へ行って、すぐに冒険者ギルドに来るように言ってもらえるか?」

「こんな時間に?」

「あぁ、出来るだけ早くお願いしたい」

「貴方はどうするの?」

「冒険者ギルドで待ってる」

 俺の事をジーっと見て、モルガンがため息をつく。

「分かりました」  

「助かる。俺は先に冒険者ギルドへ向かう」

 そう言って部屋を出た。


 ★ ★ ★


 まだ朝早く、無人の冒険者ギルドの前に大きな麻袋が蠢いていた。
 麻袋を開けると、中にはドーガが居た。

 体中傷だらけで糸で縫った形跡が何か所もある。
 腹は妊婦のように大きくなり、今にも張り裂けそうだ。

「ア、アンリィ。助けて、くれ」

 息も耐え耐えに、ドーガが助けを求めるように手を差し出した。
 
「ん。ぐあああああああ!」

 唐突にビクビクと痙攣をし始め、腹がグネグネと動き始めた。

「どうやら、紙に書いてあったのは本当のようだな」

 部屋のドアの隙間にあった紙にはこう書かれていた。

『冒険者ギルドの前で、ドーガのゴブリン出産ショー』

 ドーガが叫ぶが声があまり出ていないようで、反応も薄い。
 もう体力が残っていないのだろう。

 これが最後になるから、周りに見せつける為なのか、死体を確認させるためなのか。
 ミーシャが何故ここにドーガを捨てに来たかは分からない。

 程なくし、ドーガの腹を突き破り、ゴブリンが出て来た。
 このままゴブリンを放置するつもりはない。即座にゴブリンを始末した。

「アン、リ……助けて……頼む」

 俺はドーガに『上級回復魔法エクスヒーリング』をかける。
 ドーガの乱れていた呼吸が段々と安定し始め、顔色も心なしか良くなっているように見える。

「やっぱり、お前だけが俺の味方だ。ヘヘッ」

「喋るな。治りが悪くなる」

 ふむ。治すのはこんな感じと言った所か。

「おい、何をしている!」

 振り返ると、そこにはベル達と、ドランのパーティメンバーが居た。
 丁度良いタイミングだ。

「何って、ドーガに回復魔法をかけているんだが」

 ドランのパーティメンバーである魔術師風の男がドーガの姿を確認し、俺を睨みつける。

「何故そんな奴の治療をしているんだ!」

「へっ、俺はアンリの仲間だぜ? 治療するのは当たり前だろ?」

 ドーガはまともに喋れる程度には回復したようだ。
 これなら良いな。

「おい、お前。武器は持っているか?」

「武器があったら何だというんだ!?」

 激高する魔術師風の男の腰には、亡きドランの愛剣がぶら下がっているのが見える。

「ドーガを治療して、何とか意識をはっきりさせる事は出来たが、どうやらこれはもう助からないみたいだ」

「へっ?」

 ドーガと魔術師風の男は、同時に同じ言葉を口にした。

「このまま苦しませるのはしのびない。介錯をしてやってくれ」

 そう言って俺は、ドーガの体にマークを付けていく。

「ここが急所だ。ここを外すと長く苦しんでしまうから、”ちゃんと”急所を狙ってやるんだぞ」

「あ、あぁ!」

 俺が何を言いたいのか理解したようだ。
 魔術師風の男が「ありがとう、すまない」と言って頭を下げると、パーティメンバーも同じように俺に頭を下げた。

「後は任せた」

「お、おい。アンリ。助けてくれるんじゃなかったのか!?」

 ベル達を引き連れ、その場を去ろうとする俺にドーガが後ろから縋るような声を上げた。

 助ける? そんなわけないだろ。
 俺にした仕打ちに対して許してくれと言うなら、まぁ許さない事は無い。
 だけど。

「ドーガ。お前は超えてはいけない一線を越えたんだ」

 今更俺に助けを求めても、もう遅い。

「お、お前らやめろ、やめっ。うぎゃあああああああああああああああ!!!」

 後ろからはドーガの叫び声が聞こえる。
 騒ぎを聞きつけ、人が集まってくるだろう。
 もしお前が良い行いをしていたのなら、助けてくれる人も現れるのかもしれないな。


 ★ ★ ★


 その日。冒険者ギルドの前でドーガの死亡が確認された。
 体の至る所に傷があり、何度もゴブリンを産まされたのか、体には内部まで糸で縫った跡がビッシリとあった。
 彼の死亡履歴には、ゴブリンに嬲られ、瀕死の所を冒険者の手によって介錯して貰ったとだけ書かれていた。
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