上 下
38 / 50
第4章

第5話「今から俺がお前たちのリーダーだ」

しおりを挟む
 俺の分身が、それぞれ駆け出していく。

「俺の分身、よっわ……」

 勝負は一瞬でついた。
 俺の分身達はブラックゴールドウルフ達と対峙し、タックルをされて全員が吹き飛ばされた。

「ちょっ、ちょっと! あれだけ格好つけておいて何ですか?」

「ラル達の勝ちだ! まだやるか?」

 少女もブラックゴールドウルフもフンスと鼻息を鳴らし、勝ち誇ったような顔をしている。
 対照的に、ベル達はあたふたしている。

「次はクーがやる!」

「ボクもやります!」

「いや、お前らは良い。下がってろ」

「今負けたばかりじゃないですか」

「言ったろ? 試したいスキルがあるって」 

 『影分身』によって出された分身は、本体の半分程度の能力になる。
 3体出した場合は、その半分程度の能力をさらに3等分にされる。実質俺の6分の1程度の能力だ。
 はっきり言って弱い。クーと戦っても勝てないだろう。

「それじゃあ、喧嘩の続きと行こうか」

 俺の分身一体が、ラル達の元へ走り出す。
 そして、手を叩き『プロヴォーク』を発動させた。

「あっ、ちょっと!」

 人間のラルには掛からないが、モンスターのブラックゴールドウルフには見事にかかったようだ。
 5匹が俺の分身目掛けて一斉に飛び掛かり。突進、切り裂き、かみ千切られバラバラになると思われた。
 だが、分身の俺にはビクともしていない。

 俺の分身は『プロヴォーク』と同時に、ギルドマスターを鑑定して覚えた盾戦士のレアスキル『金剛』を発動させていたからだ。
 効果は1分ほどだが耐久力と耐性が物凄く上がる。耐久や耐性を上げるスキルは色々あるが、それら全てが『金剛』に比べれば下位互換と言われてしまうほどだ。
 すさまじい耐久を得る代わりに、動きづらくなるのが難点だ。それと、どれだけ鍛えた人間でも翌日筋肉痛になる副作用がある。

 『プロヴォーク』の効果が切れ、ようやく我に返り、標的を変えるためにブラックゴールドウルフはこちらを向くが。

「もう遅い!」

 もう1人の分身が、手の平から息を吹きかける。アサシンのレアスキル『蟲毒ノ霧ヴェノムスモーク』だ。これもギルドマスターを鑑定して覚えたスキルの一つ。
 一定範囲にあらゆる種類の神経毒を振りまき、毒の種類が多いため、毒に耐性を持っていてもレジストするのは難しい。

 毒により、ブラックゴールドウルフ達はその場で痙攣し、完全に戦闘不能だ。
 もちろん、その場にいた俺の分身2体も一緒にだ。

 範囲が目に見えないので、慎重に使わないとこのように仲間を巻き込むことがある。
 今回のは巻き込み上等でやったわけだが。

 このまま放置してたら、俺の分身はともかく、犬っころブラックゴールドウルフ達は後遺症が残るかもしれない。
 もう残り1体の分身に治療をさせるか。蟲毒ノ霧の範囲を俺自身がまだ完全に把握できていないから、モルガンが治療に向かうのは危険だろうし。

「さてと、最後はタイマンと行こうぜ!」

「ぐぅぅぅぅ……ワン!」

 ラルの鳴き声と共に、俺の腹にドンと衝撃がぶつかる。
 鳴き声に魔力を込める事で音の球を発生させる、モンスタースキルだ。
 
「ぐっ!」

 初級風魔法エアロボルトに近い性能だが、初級風魔法が石つぶてを投げられた程度に対し、こっちは丸太で殴られたような感じだ。
 踏ん張り、何とか堪えている所に、ラルが右手を振りかざし追撃しにきた。
 しかし、そんな所から手を振りかざしても、2,3歩分距離が足りないだろう。
 なのに、凄く嫌な予感がした。

「なるほどな……」

 咄嗟に避けると、自分が居た場所から少し離れた木が真っ二つに裂けたのが見えた。
 こちらもモンスタースキルだろう。真空の刃を腕にまとい、切り裂くという上位のウルフ系モンスターが持つスキルだ。

 こちらが離れれば音の球が飛んできて、近づけば間合いの読めない真空の刃。
 そして体さばきはモンスター特有の動きに、武闘家辺りのスキルがいくつかあるのだろう。
 幾重にも補助バフと回避スキルのおかげで、なんとか避けれるが、そろそろ厳しいな。
 
「ラル。お前のスキルは今まで出したので全てか?」

「そうだ! もう降参するか!?」

「いや、降参はしないが、もう終わらせよう」

 ギルドマスターから取得した、4つ目のレアスキルを発動させた。

「かはっ!」

 アサシン系レアスキル『縮地シュリンク』。残像を残し、一瞬で相手に近づくスキル。
 『縮地』の移動速度を合わせた俺の拳が、ラルのみぞおちにクリーンヒットした。
 肺の空気を全て吐きだし、そのまま気を失ったようだ。 

「俺の勝ちだな」


 ★ ★ ★


「きゅ~ん」

「別に悪いようにはしないから、そんな声を出すな」

 まるで犬っころだ。これが討伐ランクCのモンスターだとはとても思えない。
 気絶したラルに寄り添いながら、時折こちらに気の抜けた情けない声をかけて来る。完全に心が折れているのだろう。

「アンリさん本当に一人で倒すなんて、凄いですね」

 言葉と裏腹に、ベルは少し寂しそうな顔をしている。

「当たり前だ。お前らとは経験が違うからな。むしろ冒険者になってまだ一月も経っていないお前らに同じ事をされたら俺のメンツが立たん」

 これでも数年は冒険者をやってきたわけだからな。

「そう言われると、余計やりたくなります」

「クーもやるぞ!」

「ほどほどにな」

 苦笑してブラックゴールドウルフ達を見ると、気まずそうに目を逸らされた。
 俺達はもうやりませんと言わんばかりだ。その表情が面白くてまた苦笑してしまう。

「うぅん」

「どうやら目が覚めたようだな」

「……」

 一瞬だけ俺をキッと睨むが、すぐにやめた。負けを認めた、という事だろうか?
 ラルの耳としっぽは垂れ下がり、眉毛をへの字にして俺を見ている。

「ここは俺の縄張りだ。出ていけ」

 俺の言葉にラルは首を横に振った。

「まだやらないと気が済まないのか?」

 更に首を横に振られる。
 ここに来てごねると来たか。

「……ひっぐ、うぇ、うぇええええん」

 わんわんと泣き始めた。
 なんとか泣き止むように言うが、首を振り回してイヤイヤするだけで、もはや完全に駄々をこねるガキだ。

「おい。そんな顔で俺を見るな」

 ブラックゴールドウルフ達が、困った顔で俺を見る。
 ベル達も同じような顔で俺を見ている。モルガンが若干ニヤけているがこの際無視だ。
 ここで泣いてて可哀そうだから諦めましょうで済ませれば、ベルの集落の人間が困るというのに。

「あー、もう。分かった。分かったから」

 はぁ、仕方がない。

「ラル。今から俺がお前たちのリーダーだ。俺の意見に従え。そしたらここに住む許可をやる。良いな?」

 ラルは両手で涙を拭きながら頷いた。

「お前らも、良いな?」

「ワン!」

 はぁ。集落の人達になんて説明しようか。
 頭を抱えてその場でうずくまる俺を、ブラックゴールドウルフ達がぺろぺろと舐めて慰めてくれた。現金な奴らだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

その無能、実は世界最強の魔法使い 〜無能と蔑まれ、貴族家から追い出されたが、ギフト《転生者》が覚醒して前世の能力が蘇った〜

蒼乃白兎
ファンタジー
15歳になると、人々は女神様からギフトを授かる。  しかし、アルマはギフトを何も授かることは出来ず、実家の伯爵家から無能と蔑まれ、追い出されてしまう。  だが実はアルマはギフトを授からなかった訳では無かった。  アルマは既にギフト《転生者》を所持していたのだ──。  実家から追い出された直後にギフト《転生者》が発動し、アルマは前世の能力を取り戻す。  その能力はあまりにも大きく、アルマは一瞬にして世界最強の魔法使いになってしまった。  なにせアルマはギフト《転生者》の能力を最大限に発揮するために、一度目の人生を全て魔法の探究に捧げていたのだから。  無能と蔑まれた男の大逆転が今、始まる。  アルマは前世で極めた魔法を利用し、実家を超える大貴族へと成り上がっていくのだった。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

処理中です...